[掌篇集]日常奇譚 第50話 裏返し

何かに憤ったことが一度もないのではないかと思うような女性が知り合いにいて、そのことについて少し話をしたことがある。
「もちろん怒ることはある」と彼女は言った。「ただ、それをすぐには出さないようにしているだけ。まずいろいろ考えることにしている」
「なにを?」
「いろんな可能性」
「可能性……?」
「思いこみや決めつけが多いと思うんだよね。人間の感情や考えって。あいつが悪い。あいつが犯人だ。でも実はそ

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[掌篇集]日常奇譚 第49話 コックリ

「ねぇ、コックリさんで決めない?」と唐突に持ちかけてきたのだという。祥子という若い女性だった。
 笑っちゃうでしょう? とその話をぼくに聞かせてくれた知り合いの女性は言った。「ええぇ、なにそれ? と同僚の女性たちはいっせいに声をあげて、なかには笑いだす子もいたのだけど」
 設計課に誰が書類を持っていくかという話だったらしい。設計課は下品な課長のもと、無遠慮な男たちの巣窟となっていて、女子社員は誰も

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[掌篇集]日常奇譚 第48話 ふたつ名

先日、さわやかな声で嘘をつく(としか思えない)人の話を書いたのだが、実はある意味同種のものを間近で目撃したこともある。
 昔、ホテルで仕事をしていたときのことだ。ある若い女性スタッフが客の電話を受けたのだが、それがいわゆるクレームの電話と化した。それも怒鳴ったりわめいたりとかなり激しいものだったようで、あげくのはてにその客が名前を聞いてきたらしい。どのような訊き方をしてきたのかまでは知らないが、そ

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[掌篇集]日常奇譚 第47話 ブックハザード

食料の調達に出た帰り道で奴らに遭遇してしまった。
 鉤状に曲げた指に危うくつかまれそうになる。尖った牙がのぞく口からはだらだらと涎が垂れている。鮮血の色をした目で私を値踏みし、ぐるるるると虚無から響いていてくるうなり声をその暗い口腔から洩らしている。
 飢えているのだ。
 三匹。
 いや、四匹いるのか?
 急いで非常用の文庫を数冊とりだすと、奴らはすぐさま気づいて飛びかかってきた。私の手を食いちぎ

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[掌篇集]日常奇譚 第46話 さわやかな声

ぼくは何度か大きな転職――職場を変わるだけではなく職業自体をがらりと変える――ということをしているのだけど、そのはざまにあったときの話。
 その頃は、恥ずかしながら、なんの仕事をすればよいか、そもそも自分になんの仕事ができるのかわからなくなってしまっていて、それでももちろん仕事はしなければならず、それで手当たり次第に求人面接を受けたり、派遣会社に登録したりしていた。
 しかしそんな就職活動はなかな

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[掌篇集]日常奇譚 第45話 コール

純太とは一種奇妙な友人関係であったと思う。まず言えば、ぼくらは小学生時代からの親友だった。しかし高校の卒業後にぼくが関東に出て、それでぼくらはほとんど会うことがなくなった。最初の頃はそれでも半年に一度くらいは帰郷していてそのたびに純太にも会っていたのだが、忙しさもあって徐々に帰郷しなくなり、それでぼくたちは約束した。一箇月に一度電話で近況を話し合おう、と。
 こうした約束はしばしば「義務」と化し

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[掌篇集]日常奇譚 第40話 安堵の過程

ある日、コーヒーを飲もうとして、ドリッパーがないことに気づいた。
 洗い場のあたりを目がさまようが、小ぢんまりとしたシンクで見のがすはずもない。一目瞭然。ない。
 無意識にしまいこんでしまったのかと戸棚を開けて調べてみるが、やはり、ない。その戸棚も小さなものだ。細かく探しまわるまでもない。ササっと見ればわかる。
 ひょっとしたら、使い終わったあとの粉と一緒にうっかり捨ててしまったのだろうか? そん

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譚々奇譚 #11 ピーナッツの神さま

ばあちゃんが、むかし、よく言ってたじゃない。
ほら、ピーナッツの中にはさ、神さまがおるって。
こうして、殻を割って、薄皮もぱりぱりむいて、そうっと、中をのぞくの。

そう、上手。
そうっとね。

じゃないと、神さまがポロリとこぼれ落ちてしまう。
見えた? 神さまおった?
翁だった? 媼だった?
え、おじいさんだったか、おばあさんだったかってこと。あごの髭がね、長いとおじいさんだって。

いなくなっ

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イラスト習作・2
「月光奇譚」完成版。「ゲームのイメージボード」というイメージで描いたイラスト。

ありがとうございます。これからも面白い漫画を描いていきます。
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譚々奇譚 #10 the Hanged-man

「こりゃ納得いかん」
男が言った。
「そうですか」
女はほとんど関心も無さそうに答えた。
だが申し訳程度に、吊された男を上からのぞき見る。
「悪くないカードなんですよ、正位置ですから」

「セイイチとは、どういうことなんだ」
男は字義のとおりに頭に血をのぼらせる。
「正しい、位置です」
その姿を確認し、興味を失ったのか、女はその場を離れかけた。

「待て待て、占い師」
「まだなにか」
「元に戻せ」

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