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俺と格闘ゲームの話 14 ~同人一大文化、月姫、東方projectの格ゲー~

1,月姫を知らなくても格ゲー好きはやっていた ~melty blood~

 00年代の同人ゲーム文化を象徴するものとして挙げなければならないものは二つ。type-moonの発表した「月姫」と上海アリス幻樂団の「東方project」だろう。ここに竜騎士07の「ひぐらしのなく頃に」が入ってくるが、格ゲーではほとんど関わっていないので省く。残念ながら格ゲーの話だ。

 TYPE-MOONという存在はもう今や語る必要もないだろう。有限会社ノーツとして商業に出てきた現在のスマホアプリゲーム「Fate / grand order」のスタートである「Fate / stay night」を生んだメンバーの同人サークル時代の名前だ。
 00年代初頭から「月姫」をひっさげて世に躍り出た。この後前述した初商業作品、fateで大ブレイクしたのは言うまでもない。
 その彼らが前回の記事で出た渡辺製作所に外注して作られた格ゲーが「melty blood」(通称メルブラ)であった。

 俺はあまり月姫やfateが好きではなかったのであまり明確に物語を語ったりすることは出来ないし、それが好きな人が何時間も語ってきて
「もういいよ。名作であるかどうか別にして、こっちの興味を無視した君たちのお話にもうお腹いっぱい」
ってのもあって正直当時からずっと避けている作品(かれこれ15年近く避けているわけだ)でもあるんだが、これだけはやっていたりする。

 というよりも毎週格ゲー大会するような格ゲー好き達が集まっていたオタクども。先輩かバイト先か知らないがどこかからそういう情報を手に入れたらそれを持っていくのだ。

 そして当時はまだ法規制やらなんやらが甘い頃ってのもあって、元の同人ソフトを誰かからデータだけ譲ってもらってそれを誰かが譲ってもらって……みたいな現在で言う「割れ」が結構横行していた。だから月姫は知らないけれどもなぜかパソコンにはメルブラが入っていたなんてことはざらだった。

 それが良かったか悪かったか、ってのは難しいところがあって、現在でこそ「データを割る」って行為が悪いってのが世間としての観念になっているが、この当時ってこれがきっかけで知名度が爆上がりして、渡辺製作所が作った「the queen of fighters」シリーズよりも俄然知っている、持っているって人間が多かった。
 普通の企業だったらそこをどう辞めさせるか、みたいな話になるが、その知名度からバージョンアップした作品が出ると結構みんな買うのだ。そして品切れになって、誰かが割って、月姫なんて知らないのに格ゲーが好きなやつが持ってて、そいつが格ゲー知らないやつにも知らせて……。

 だから同人ゲームやエロゲ―といったオタク文化に漬かっていた奴は「メルブラ」と言われたらなんなのか一発で分かったのだ。

 そしたらどうなったかというと、メルブラのバージョンアップ作。Re・actは同人まで出たのだが、次の作品Act Cadenzaがアーケードで出るという話になったのだ。
 こうなるともう同人ゲーをやっていた格ゲーマーには大騒ぎで、ゲーセンに入ったと聞くと何人かのオタクがやりにゲーセンに行く、という事態に。実際別府にも数店舗置かれていたが、稼働していない日を見かけなかったくらいには人がいた。どの時間も誰かがやってた。

 あと、これは格ゲー内での話ではないのだが、この作品のアーケード販売がかのクソゲー征夷大将軍の「デスクリムゾン」を作ったエコールソフトウェアという事もあって結構噂にもなった。

「同人ゲーがクソゲーメーカーの手によってアーケードに!」

という現在で言うパワーワードを振りまいていたのも記憶に深い。なのでメルブラ稼働前によくネタ込みで噂されていたのはラスボスは「デスクリムゾン」を象徴する主人公「コンバット越前」ではないかとか言われていた。実際はそうならなかったけど。恐るべしデスクリムゾン。
 それくらい販売エコールソフトウェアという名前のパワーがあった事を付記しておく。
 エコールソフトウェアはこの作品以降、アルカナハートの販売やPS移植などを行い、そこそこ格ゲーに貢献する事になるのだがそれは別の話。

 俺もメインでやる事はなかったが、意外と格ゲーをしたことなくて「メルブラ」から格ゲーに入ったというやつも多く、そういう時は結構メルブラにインカムを注いだ。
 相手もそんな格ゲーやり込んでいたわけではなかったので決して強いわけではないが、かといって俺はメインではなかったので勝率はどっこい。そこそこ話すきっかけになったゲームでもあった。

ボス専用だが巨大化したヒロインがいた。モデルはマブカプのボス、アポカリプス。うどんは日清

 そんな小さな形からえげつない下地を得る事によってアーケードゲームに飛び出し、現在PS4で最新作が出る事になった00年代格ゲー界の雄「メルブラ」。損して大きな得を取ったと言い切っても差し支えないメーカーの一つなのかもしれない。

2,現在も同人界隈を支える雄 ~タソフロ東方シリーズ~

 ニコニコ動画の登場によって今まで同人好き以外にはあまり知られていないが、同人を知る人は誰でも知っているゲームが世間に台頭してきた。
 その中での二大巨頭は「東方project」と「ひぐらし」シリーズだろう。
 東方projectは製作者zunを基本として今やPS4などでも配信されるような商業にすら顔を出せるコンテンツとなった。それどころか「2ちゃんねる」「ふたば☆ちゃんねる」で生まれた「ゆっくりしていってね」が今は独立してyoutubeやニコニコ動画などでゲーム実況していたり、雑学を教えたりするなど独立派生するほどのジャンルになってしまった。東方projectは知らないが「ゆっくり霊夢」「ゆっくり魔理沙」は知っているなんて人がいる時代になった。恐ろしい時代だ。

 東方projectはブロック崩しを得て弾幕シューティングに変わった、いわば俺達格ゲーより古い世代のシューティングに所属するゲームを多く作っている。これもいうと語弊があるのだが、90年代後半に生まれた弾幕系シューティングでは同人作品で一番有名なゲームになっている。
 弾幕系シューティングを生み出したのはケイブというメーカーの『怒首領蜂』シリーズからなのだが、今では弾幕系と言えば怒首領蜂より東方という方がシューター(シューティングゲーマーの事)以外には伝わりやすいかもしれない。それほどの老舗になりつつある。(ちなみにシューターに「弾幕ゲーと言えば東方」という言葉は割とセンシティブな問題なのでいきなり触れないように。鉄火場になりやすいので。でも超兄貴だと割と食いついてくれる。超兄貴はいい横シューなんだなあ)

 そんな東方も前回の記事で書いた「黄昏フロンティア」とコラボ開発で弾幕アクションゲームという形で格ゲーを出している。

 実はこの作品も格ゲーというには憚られるという層と、格ゲーという層がある。これは後々触れる事になる「大乱闘スマッシュブラザーズ」も含めてなのだが、10~15年くらい前は今よりも格ゲーというものに対して結構強めの「定義」みたいなものがあった。今では二人がお互いの技術を駆使して戦える環境こそが格ゲーという印象があるが、当時は1on1かつ肉弾戦を主体とするものを格ゲー、という派閥はかなり多かった。
 だからそういうのにぶつかることを嫌がって、格ゲーを「2D対戦アクションゲーム」という事も多かった。また商業だと格ゲーでは予算が降りにくい事から「アクションゲーム」という作品も少なからずあろうか。

 ではなぜ東方の格ゲーが格ゲーか否か、みたいな扱いを受けるかというと、このゲームはシューティングゲームを強く意識しているため飛び道具(波動拳みたいなもの)が基本になり、そこに手足を使った攻撃を使う、というスタイルがメインだ。
 そのため画面が飛び道具で埋め尽くされてしまうため、これを格ゲーではないと嫌うプレイヤーも一定数いたのだ。

 だが、1on1で誰かと対戦出来りゃなんでもいい、ってのがクソガキ時代を経験した俺達。そんな批判も意に介さず結構やり込んでいた。
 メルブラは完全に格ゲー寄りの調整をされていたが、東方は前述したシューティングを意識した格ゲーだったのでこれがまた独特で面白い。飛び道具をボンボンふって飛び込んだり、あえて飛び道具を連発して飛び込んできたところを迎撃したり、というこのゲームならではの駆け引きがあった。
 そしてなによりニコニコ動画などで知ったキャラクターを動かすのは楽しい。シューティングの方も面白いのだが、格ゲー時代に生きたクソガキどもにとってその爽快感はやっぱり大きかった。(一方で恐らくクソガキがシューティング世代に生まれていたら違う感想になったのだろう。それくらい東方projectというゲームのファン層は広い)

基本的には飛び道具で牽制して、だが、それが不得意なキャラもいるのでそこは使用者次第。

 そして何より大学生となるとゲーム機を起動するよりはパソコンを起動する事が多くなる。ネットがなくてもまだダウンロードなどの話が緩かった時代。動画をダウンロードして、自分の家に持ち帰ってパソコンでその動画を眺めながら、東方の格ゲーをする。(俺の場合は広島カープの二軍で投げている投手のブルペン動画なんかが多かった。この時には割と野球狂になりつつあった。)
 そんなことが結構当たり前に起きていた。今の国民総インターネット時代には考えられない世界がそこにはあったのだ。

 そうやって、企業が作ったゲームとは違う、同人格ゲーの時代を過ごしたのも俺達オタクの時代だったのだ。

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