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外灯に照らされた夜の町

  朝陽は辺りを満遍なく照らしてしまう。それに比べて夜の外灯。スポットライトのような。それでいて映すのはあてどなく歩く哀しい人ばかり。丸まった背中のアーチに影が射す。彼には名前がない。戸籍があってもそれを知る人がいないから。

  たとえば晴れ渡る日の朝、路上に鏡を置くと青空を見下ろすことができる。片手に収まる空が足下に。そしたら次に鏡をひろって歩きだそう。きみは青空をポケットにしまうことができる。

  夜の外灯はそうはいかない。鏡を下ろして覗くと、光が深淵みたいだ。何もかも吸い込むようでいて、すべてを見通しているような白い光。
「おれはお前を知っている」
外灯が囁く。彼に名が生まれる。それは昔から知っていたものだ。彼はもう町から出られない。名前と町が結びついてしまったから。
そこできみはようやく妖しい光の正体を知る。



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