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読書感想 白川 雅「エジプトの狂騒」


楽しみにしていた「エジプトの輪舞」の続きをやっと読むことができた。
今回も超対策!!kindleの音声出力で読むのは結構難儀だったけれど期待を裏切らな
いクォリティーだった。


前回は第二次世界大戦前後が舞台だったけれど、今回は時代をさかのぼってその100
年くらい前、トルコ支配の時代の話。

ちなみに無教養な私はエジプトがずっとオスマントルコの支配下にあったことすら知
らなかった、(汗)


今回の感想は「スエズ運河すげえ!!」の一言に尽きるけれど、これだと1行で感想
文が終わってしまうのでもう少し書いてみることにする。


教科書には「スエズ運河開通」と一言で書いてあるけれどその背後にはあまりにも多
くの思惑や犠牲があったことに今更ながら大きな衝撃を受けた。

運河オタクのフランスの外交官の夢、支配国であるトルコやそれを飛び越えて画策す
るイギリスとフランス、厳し過ぎる母親に頭が上がらないエジプト副王のフランス王
妃への密かな恋心。

様々な要素が縦糸になり横糸になり歴史を紡いでいくドラマが壮大なスケールで描か
れていく。

そして王家といえと皆同じ。養子の方が優秀で重く用いられたりすると実子が自分の
能力を棚に上げて恨みを持つ。親があまりに子供をコントロールしようとすると、子
供はそのはけ口をよそに持っていく。不条理に虐げられた母親の息子は母親の名誉挽
回のために奔走する。

国や身分が変わっても人間の挙動が変わらないのはいつの時代も同じなのが面白い。


運河建設に莫大なお金がかかったということは想像に難くないが、その建設にあたっ
て多くの奴隷たちが犠牲になったことは知られていない。

同じ頃にアメリカの南北戦争があり、当時アメリカにも奴隷がいたのだから、トルコ
やエジプトにも奴隷と言うシステムがあったと言うのは想像できなくもないが、とに
かく建設を急ぐためにスーダンからどんどん多くの奴隷を輸入し、ろくに食べ物も与
えないで酷使していた事実を私たちは埋没させてはいけないと思った。

そして更に恐ろしいのは、普段極悪人でもない普通の人が忙しさにかまけて人権意識
が麻痺してしまうこと。

架空の人物であるスエズ運河株式会社のフランス人は愛情を注いでいたギリシャ人移
民の生年に壮大なスエズ運河の建設現場を見せに連れて行く。
しかしギリシャ人青年は運河の壮大さよりもそこで働かされている奴隷たちの悲惨な
状況にショックを受ける。

同じ建設現場を見ていたのに二人が見ていた景色は全く別の物だった。ここで2人の
意識が完全に乖離してしまうのは皮肉な展開。


怖い話だけれど、自分もきっと同じだと思う。
奴隷だからこき使っていいというのが一般常識の中では、私も虐待するまでには至ら
なくても不当にこき使ってしまうに違いない。


「エジプトシリーズ」は前作もそうだが、この架空の登場人物たちのあれこれも読み
所の1つ。

当時のアレキサンドリアがどれほどインターナショナルな都市だったか、街並みはど
んなだったか、人々はどんな暮らしをしていたのかなどが彼らを通して垣間見ること
ができる。
そして期待通り「輪舞「の主人公がどうして水を怖がっていたかの伏線も回収された



ところでエジプトのイスマイール副王、いくらフランス王妃が大好きで、お母さんが
厳しいからといって国費で宮殿を建てまくったり運河建設に借金しまくったりとあま
りのマネーリテラシーの低さにびっくり!!


前作ではなぜトルコ支配なのにイギリス人やフランス人の方が大きな顔をしているの
だろうと思っていたがそれも今回種明かしされた。

そして記憶にも新しいパンデミック。第一次大戦の時にスペイン風邪が流行って多く
の死者が出たということは教科書にも載っていたが、当時のエジプトはコレラとテス
トが代わり番こにやってきてほぼカオスだったと言うのは驚きだった。

福王が秘密裏に何か画策しても宦官が怖いお母さんにちくってしまうと言う件があっ
たが、エジプトにも宦官がいたことにもびっくり。
ハーレムがあるからわからないでもないけれど、宦官は中国朝鮮の専売特許だと思っ
ていたのも大間違いだったようだ。


昔エジプトに旅行に行った時は時差ぼけやら何やらで観光バスではほとんど寝ていて
スエズ運河をちゃんと見なかったのがとにかく悔やまれる。

著者のローローさん、混作を書くにあたっていろいろ調べていたところまた新たな事
実がたくさん判明し、「輪舞」も1部書き換えたとのこと。

こちらもまた再読してみたくなった。そして現代が舞台という次作も楽しみだ。

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