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「令和の反戦映画」として優れたアニメ―『窓ぎわのトットちゃん』

2023年は、反戦映画の年だった。

『君たちはどう生きるか』『ゴジラ-1.0』『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』そして『窓ぎわのトットちゃん』、そのどれもが「戦争を生き残った日本人」が主人公になっていた。

ロシアとウクライナの戦争の長期化、そしてイスラエル・ガザ戦争が連日ニュースで報道される今、戦争と向き合う物語が増えているのも決して偶然ではないはずだ。

が、先日見た『窓ぎわのトットちゃん』が、個人的には「もっとも反戦を伝えている映画」だな、と感じた。

それは、トットちゃんが少女であることと無関係ではないだろう。


1.「貧しくて苦しい戦時中の暮らし」という名のファンタジー

『窓ぎわのトットちゃん』は、黒柳徹子の自伝的小説を原作にしたアニメ映画だ。いまでいえば発達障害という診断がつきそうな少女時代の黒柳徹子――「トットちゃん」が出会ったのは、小林先生という当時においてはかなりリベラルで先進的な教育観を持った教師と、彼が率いるトモエ学園という場所だった。小説はトモエ学園でトットちゃんがどのように受け入れられたのか、どのような影響を受けたのかを綴る一方で、アニメ映画はトットちゃんとその友人の少年の物語を中心に描き、さらに彼らに戦争の影がいかに忍び寄っていたかを私たちに見せた。

私が『窓ぎわのトットちゃん』を読んだのはおそらく小学生くらいだったのだが、今回映画を見ていてもっとも印象的だったのが、トットちゃんという昭和の山の手の内側で過ごす「お嬢様」の描写だった。言ってしまえばこの映画は、戦時中の富裕層がどのような日々を過ごしたのか、を描くことに成功している。

私たちが戦争をテーマにした物語を読むとき、その多くは貧しくて苦しい暮らしをしていた人々が主人公に据えられることが多い。たとえば『ほたるの墓』や『はだしのゲン』や、最近だと『この世界の片隅に』もまた、「どんどん貧しくなっていく戦時中の日本でどのように庶民が苦労をしたか」が描かれる。朝ドラなんかも同様だ。そして貧困の末に亡くなる子どもがいたり、あるいは米も食べられずに苦しむ主婦がいたりする。もちろん日本の庶民は圧倒的にそれがマジョリティだったのだろう。

しかし一方で、はっきり言って「貧しくて苦しい戦時中の暮らし」は――ほとんどファンタジーと化している。

たとえば『ゴジラ-1.0』の感想にも書いたのだが、現代の若い世代にとって、たとえば特攻隊員になるとか闇市でごはんを買うとかパンパンにならざるをえないとか、そういった戦時中や戦後の暮らしの描写は、ほとんど「違う国の見慣れた物語」と化している。ファンタジーだ。少年漫画の貧乏な国の物語を読むのとほとんど距離感は変わらない。だから特攻隊員と女子高生が恋する物語が泣ける映画として公開されるのである。


2.東京のリベラル家庭が経験した戦争

だがトットちゃんの面白いところは、「東京のリベラルな家庭戦争でどんな目に遭ったのか」を描いているところだ。

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