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読書レビュー「赤い靴が悲しい」片岡義男 


初版 平成元年10月 祥伝社文庫

高校生の頃、みんなが赤川次郎をまわし読みしたりしてた時、
僕は一人で片岡義男を読んでいた。
まあ、どちらも今思えばラノベ的で、(いい意味で)軽薄で、
おおよそ文学賞とは無縁な、心の闇とかドロドロした人の業
などほとんど描かれない。
あの時代、80年代バブルのちょっと浮かれていて、湿り気の無い、カラッと爽やかな世情が色濃く表現されていたり。
たいした中身は無いんだけど・・・。
大人になってからも5年周期ぐらいで、無性に読みたくなるのですよ。
なぜか・・。
赤川次郎は置いといて、片岡義男の本の魅力とは、
一言でいうなら、淡々とした情景描写とどうでもいいストーリーの中に
一瞬、ほっこりさせられるものがあるところ。
どうでもいい余白そのものを素敵な時間に変えてしまおうという、
片岡さんのそんな気概を感じられるのがいいのですよ。

本作「赤い靴が悲しい」は
「愛は、どうにでもなれ」「スーパーマーケットを出て電話ブースの中へ」
「赤い靴が悲しい」「そして彼女はサボテンに刺された」の4つの作品をまとめた短編集です。
心地よい恋愛関係を求める男と女の出会いと別れを描く傑作恋愛小説!
と帯に書いてあるけど、「心地よい恋愛関係を求める」というところが
なかなかにみんなクセモノで独特の価値観を持っていて、面白いのです。

以下ネタバレあり。
例えば「愛は、どうにでもなれ」の主人公の女は、愛はどうでもいい、未練こそ大事だという価値観を持っていて、恋人とも友達ともつかない男と数年に1度だけ会う関係を楽しんでいる。だから何だというオチはなく、そういう関係の男女をトレンディードラマのようにダサおしゃれに淡々と描いているだけの話。
まあどうでもいいけど、そういう感覚は少しわかるような・・・。
と。なんとも微妙なニュアンスの読後感がクセになるのですねぇ。
表題作「赤い靴が悲しい」は男一人と女二人の男女3人の話。
女は元カノと今カノ。男は結婚している。主人公は元カノ。
主人公はかつて男に結婚を申し込まれたが今結婚する必要はないと断った。
その後男は別の女と結婚。主人公と男は友達としてたまに食事をする程度の関係を続けていた。
主人公の女としてはその関係が心地よかった。
が、ある日の約束の食事の席に別の新しい若い女を連れてきた。
それはどうやら不倫関係の今カノらしい。
主人公は友達として、そのことを別に咎めたりせず、大人のゆとりをもって対応し、3人はその日の食事を楽しんだ。しかし、二人の女は言葉の節々で自分のほうが彼の事をよく知っているというイニシアチブを取ろうと、やんわりと張り合っていた。これもだからどうというオチはなく、一晩の食事の様子を淡々と描いているだけで終わり。しかし、家に帰った主人公は自分が赤い靴を履いていたことに気が付いて、ちょっと悲しくなるという話。
僕は男だけどそういう気持ちは分かるな~。あるよね~そうゆう事。
と、ちょっとほっこりしたのでした。
「そして彼女はサボテンに刺された」も同じような男女3人の食事の話。
元カノ。今カノ。そのカレ。の3人。
この3人はどうでもいい天気の話とかしながら、中身がないながらこじゃれた掛け合いを楽しんで食事している。しかし主人公(元カノ)はその会話の間じゅう、ずっと今カノと男のエッチなシーンを想像している。
食事が終わって席を立ったら後ろにおいてあった観葉植物のサボテンのとげに刺さって、痛!チャンチャン。おしまい。というだけの話。
エッチなシーンの描写が結構長々で、マジどうでもいいよ
と苦笑してしまうのだけど・・・
これもちょっとわかるんだな~。はずかしいけどねぇ~。
という話でした。
「スーパーマーケットを出て電話ブースの中へ」はネタバレなしで。
実はこれが一番好きかな・・・。

※2020・5・3投稿記事の引っ越し再投稿です。

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