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サメと自己紹介

今回から少し、自分の仕事の話を書くことにいたします。食べ物についていろいろこだわりの人、というのは、仕事柄なのです。いえ、そういうこだわりがあるから、今の仕事というのが正しいかもしれません。私の名刺には、フードコンサルタントと書いてあります。主に飲食店の新規開店サポート、既存店のメニュー分析からのメニューチェンジなどを提案したり仕事です。

私は子供の頃、魚屋にサメが並んでいるのを見たことがありませんでした。実家は宮城ですから、三陸沖の漁場の海の恵みが、魚屋にはありましたので、地元でサメは珍重されず、かまぼこの原料として工場に向かうのです。ですから、サメは魚屋には並ばなかったのです。私にとっては、サメ=かまぼこの原料でしかなかったのです。

関東で生活するようになってから、主婦向けの雑誌で、やりくり上手な奥様の日々の献立を紹介するものに、サメの煮つけがありました。サメ?東京の魚屋でも見たことがありません。地方限定の食材なのでしょうか?好奇心がそそられました。いつか機会があったら、食べてみたいと思いました。

その機会がやってきたのは、つい最近です。鎌倉の魚屋の店頭に並んでいたのです。なんだか、ぼてっとした塊でした。大き目の切り身三枚で300円前後と、お値段もお安い。早速のチャンスですから、試してみることにしました。いつも煮魚にするように、熱湯をかけ、生姜をいれて煮たのですが・・・・。臭い。はっきり言って、アンモニア臭です。とても食べる気になりません。宮城の人達が、進んで食べないのももっともだと思いました。

後日、子供の頃よく食べていたという知人に聞いたら、一度茹でてから使うのだとか。魚の少ない埼玉では、安価で入手できるので、食べるところもあるのだそうです。そうなのか、と思いましたが、再チャレンジする意欲は湧きませんでした。

昨日、大船にあるポルトガル料理の専門店のメルカドさんの料理講座で紹介された一品が、「現地ではサメをつかうのですが、入手しずらいので、今回はタイで」というものでした。「え、ポルトガルの人もサメ食べるんですね?臭み抜きはどうするんですか?」と思わず聞いてしまいました。実演で使ったタイとは違う処理をするのかと思ったのです。

何と答えは、何もしない。材料にパクチーをたっぷり使うから、その必要がなくなるのかも、ということでした。日本料理の様に繊細な味を引き出すのではなく、香りの強いものと合わせることで、臭みを感じなくさせてしまうという発想なのでしょう。料理一つで、お国柄がでますね。インド料理だと、煮ているときのアクも、その素材の味だから、取らないそうですし。

本来は夜営業のみのメルカドさん。昼の料理講座をお願いし、もう5回と数を重ねるようになりました。日本でも珍しいポルトガル料理店、しかもポルトガル料理は、米や魚介類を多用して、日本人の口に合うのです。自宅でも作れるように、材料や作り方を工夫していただいているので、参加者に大好評です。

実は、これは私が考えた宣伝なのです。夜営業だけのお店は、女性には敷居が高いことがあります。昼間、実際の料理を味わい、お店のオーナー兄妹の人柄に触れるのは、何よりのピーアールになります。参加した方は、かなりの確率でメルカドさんの店舗を訪ね、実食したことのないメニューを愉しんでくださっています。お友達やご家族を連れ、色々な料理を分け合って食べる。美味しい料理と氣配りのある接客で、リピーターになっていただく、というのがねらいです。

個人経営の飲食店の場合、マスコミに登場し、お客様が殺到したりすると、対応しきれなくて、評判を落とすことがよくあります。元々の常連さんが、「雰囲気が変わった」と、離れていく場合もあります。キャパシティーに合った集客を考え、ポルトガル料理の珍しさと、自宅での再現性の高さ、そして、本物はどうなのかという気持ちを刺激する、のをウリにしたのです。

お店の営業時間、客層、オーナーの人柄、特技など、色々なことを踏まえての提案になります。こういう企画というのは、柳の下のどじょう、というわけにはいかないのです。口下手なオーナーに、こうした料理教室は難しいでしょう。昼営業の店の、営業を休んでもらっても、料理教室でそれを補填できるだけの売り上げがあるかどうか、微妙な場合もあります。

名刺にフードコンサルタントと書いていたら、「個人の食生活を指導する人だと思いました」と言われました。飲食店の開業サポート、メニューの見直し、集客の起案などをするのが仕事です。Kindle出版から、「注文の多すぎる料理店」という飲食店向けの本も上梓しています。料理の翻訳家Yukieとして書いています。ご興味ありましたら、ご一読お願いいたします。




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