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月の夜の共犯者 9.

京都祇園夜の街…

繁華街を通り抜け、花見小路を抜けたところに
その高級クラブはあった。

ドアを開けるとカランコロンとベルが鳴る。

「あら、いらっしゃい。
山ちゃん久しぶりじゃないの。何年ぶり?
元気にしてた?
でもねせっかく来ていただいたけど、まだお店はやってないの…」
高そうなしつらえの着物を着たママが出迎えてくれた。
歳の頃は40半ばか…。

「いや、ママ違うんだ。
今日来たのは客としてじゃないんだ。
ママ、少し前に働いていた奏音(かのん)という子を知らないかい?」

「まぁ勿論知ってますよ!!うちのクラブの売り上げを1ヶ月で1.5倍にした伝説の子ですよ。」

「その奏音って子はどんな子だったんだい?」


「そりゃあもう、とっても綺麗な子でね。
透けるように色の白い肌と大きな瞳で、初めてつけたお客様もみるみるうちにあの子の魅力に取り憑かれたわ。妖艶とでも言うのかしらね…そんなに話すわけでもないのに、儚そうなそれでいて男心を擽ると言いますか…」

「なるほど、それはよっぽどいい女だったんだな。年の功はどれくらいだった?」

「そうねぇ、確か…20にもなってなかったわね。家が苦しいからって、突然面接にやってきたのよあの子。それで器量がとても良かったから試しにおいてみたら、このさま。」

「というのは…?」

「あの子がいてる間は、売り上げがうなぎ登りに上がって行ったの。だけど、突然あの子が東京に行きますと店をやめた途端、いままで足繁く通ってたお客様が来なくなってしまったの。奏音がいないなら、来る意味がないって」

「それはとんだ痛手だったな」
俺は煙草を吸いながらママの話しを聞いた。

「なぁママ、その奏音って子に何か特徴はなかったかい?」

「特徴…?そうねぇ、確かうなじのところに黒子(ホクロ)が一つあったかしら。それとあの子の元々持つ匂いなのか、いつも花の香りがしたわ…。薄いバラのような…」

「そうか、ありがとうな、ママ。邪魔したな」俺はそういうと、店を後にした。

この事件は、どうやら思うより根が深そうだと思った。

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祇園の夜は深い、一元さんお断りのお店も多いなか研究発表の会合帰り、私たちは呑んで歩いていた。

芸妓遊びもほどほどに二軒目を回ったとき高級クラブの看板が見えた。

「松井さん、ここ入ってみませんか?
噂ではべらぼうに綺麗な子がいるそうですよ」

わたしは普段ハシゴはしない主義だったが、
その日は酔いが回っていたためか店の扉を開けてしまった。

「あらまぁ、皆さまいらっしゃいませ。さぁさぁどうぞ、奥の個室へいらしてください。」

ママの誘導で奥のVIPルームへと通されたわたしは、初めて会った奏音という子に目を奪われた。

透き通るような色の白い肌に、こちらを見透かしてくるような大きな瞳。
けして必要以上に着飾りすぎてはないのに、
得もいわれぬ色気があった。
男心を本能的にくすぐる何かをこの子は持っている。
自分のものにしたい、その肌に触れてみたいと
強い欲求に駆られた。

「初めまして、よういらっしゃいました。
奏音と申します。」
おっとりした口調で話しかけてきた奏音に、わたしは隣の席へ座るよう指示をした。

「奏音と言ったね、君はどうしてここで働いているんだい?」
わたしは素朴な疑問を投げかけてみた。

「わたしには弟たちと母親がいます。
もう長いこと父親はまともに働ける状態ではなくて、わたしがこの子たちを支えなければいけないので…ここで働かせていただいてます」と言った。

なんて健気な子なのだ。
わたしの子ども達に聴かせてやりたいと思った。その日わたしは奏音に気に入られるよう、これまでのわたしの実績を細部にわたり細かに伝えた。

奏音はとても聞き上手で、スラスラと先を促してくれた。そのことに気のよくしたわたしは、うっかりとあの事まで口に滑らせてしまった。




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