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月の夜の共犯者 8.

ねぇ、わたしは何のために生きているの?

夜になるといつも思う。
こころの奥底に仕舞い込んだ、
けして開けてはいけないパンドラの箱。

その箱を開けてしまうと、
わたしの中の狂気が蠢きだし周りの人たちを殺してしまうとさえ思った。

「お前はただ俺のいうことを聞いていればいいんだよ!!」
そんなとき晃が呟いた言葉を思い出していた。


夢中で抱き合ったあと疲れたようにソウが眠ってしまってから、わたしはガウンを羽織り窓の外に光る月を眺めた。

ごめんね…貴方をこんなことに巻き込んで。

こころの中でソウに詫びる。

きっと…わたしの悪い癖なの。
ソウならわたしの願いを無碍には出来ない…
それを本能的にわかっていた。




目を閉じれば思い出す子どもの頃からの記憶。
幸せになってはいけない。
それは幼い頃から掛けられた呪縛だった。

そんな風に思いながらも、
いつも脳裏に浮かぶのは…酒に狂った父さんが、母さんを嬲(なぶ)り倒している姿。

父さんは晃とは違って、根っからのでくの坊で朝から酒を煽ってお金の無心を母さんにしていた。

母さんはわたしと二人の弟を養うために、
朝も昼も夜でさえ働いて家計を養ってくれていたのに、そのお金さえ無心されて渡さなければ蹴られ殴られた。

母さんが傷だらけになって、泣いているのをずっと傍でみていたのに…わたしは晃を好きになってしまった。


これは 何かとてつもない運命のようなものを感じた。


あの日紫色に染まったわたしの痣を見せたとき、ソウは息を呑んで言葉を失っていた。

だけど、そのときわたしは確信していた。

この負の連鎖を止めるためには、ソウに頼るしかないってことを…。

「ごめんなさい。突然こんなもの見せられたってどうすれば良いか困りますよね」

わたしはその痣を直ぐに隠した。
ソウは暫く黙ったあと、わたしに言った。

「良ければ僕に詳しく話しを聞かせてくれないか…」

そしてわたしは、晃と会社の悍(おぞま)しい賄賂の話しを話し始めた。


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「報道課長に連絡がきてます」

月末も差しかかったある日、騒がしい報道フロアに連絡があった。

所狭しと並んだ机には、いまはもう古い型落ちのノートパソコンが並んでいた。
その横には大量の資料が山積みになっており、バタバタと記者たちが室内を右往左往していた。いわばここがニュース報道の心臓部になっているのだ。

報道デスクと呼ばれるスタッフが、資料や聞き込みをした情報を基にニュース原稿を作成している。


カタカタとパソコンで原稿打ちをしているさなか、俺は電話で内線を繋いだ。

「ハイ、山本ですが…」
受話器を取ると、

「山本、スクープだ!株式会社△□が不正なルートで株式会社○○コーポレーションと取引してたらしい。営業機密侵害で内部告発があったそうだ」

「まじっすか、○○コーポレーションといえば最近大々的に広告を打って、攻めてる会社じゃないですかっ」

「そうなんだよ、どうやら株式会社△□が金を積んで医療法人○○の案件を搾取しようとしてたらしい。駅前に病院建設が始まるのを誰かが垂れ込んだのだろう。」

「でもどうして数年越しに始まる都市開発のことが、△□の奴らに分かったんですかね?病院側が口を開かないことには、知られぬはずないのに…。」

「さて、そればかりはよく分からんのだ。
病院側も土地の落札の経緯(いきさつ)などは知られたくもないだろう。政治家と公共事業を委託された会社の利権が絡んでるからな」

「内部告発されたって言ってたけど、誰がしてきたんだ?よくわからないな…」

「とりあえず、山さん事件を追ってくれや。
これは証拠さえ確保できれば、これまでの記事とは比べもんにならねぇくらいのスクープになるぞ」

俺は張り込みを開始するためにコートを着て街へ繰り出した。






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