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月の夜の共犯者 16.


捜査を始めて5日目になった。
そろそろ一旦東京に戻らなくてはいけない。
起きがけのセブンスターを口に加えて、火をつけた。フゥと煙と一緒に息を吐く。

さてどうしたものか…
恐らくこの事件は、幾つかの要素が絡み合って出来ている。

リークしたものは、△□に怨みを持つものか
それとも何かリークすることによって別の目的があるのか

ただの汚職事件なら、それほど悩むことはないだろう。しかし今回の土地開発の件は、政治家や事業主が絡んだ忖度の事件だ。

普通なら市場には出回ることのない情報だ。

そもそも、△□はどこでその情報を手に入れた…
そんなことを思いあぐねているうちに、
気づけば吸っていた煙草の火は残りわずかとなっていた。

煙草を灰皿に押しつぶし、京都タワーが映る外の景色を眺めた。

元刑事の丸さんと京都に行く話しをしていたとき、丸さんはこんな事を言っていた。

「山さんもしかしたら、そこに何かヒントがあるかもしれないよ。というのもね…」

よし、もう一回今度はあの店の子たちに話しを聞いてみるか

あぁ…でもその前に、アイツに話しを聞いてみるか

俺は徐に立ち上がり、出掛ける準備を始めた。

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くそっ、今日もついてないな!

配られた整理券を手に、開店と同時に目星の台へと駆けつける。
昨日は最終出玉の数を確認したときは、確かこの台だったはず…!

俺は、奏子から奪った1万円を入れて台をスタートさせた。
暫くはただの演出だけで、何も動きがなかったが400回転目にリーチが掛かった。

おっ!!コレは…なんとか上手く当たってくれよ!!

…しかし、その願いも虚しくあたりにはならず1万はあっという間に台の奥へと吸い込まれていった。

くそっくそ!何だよ!昨日はジャンジャン出玉が出てたじゃないか

すると横からくたびれたシャツを着たオッさんが、「おい、俺このあと用事があるからよ、この出玉やるよ」と声をかけてきた。

そこには4箱ほど、台の後ろに積まれた出玉が見えた。

「ええ?!こりゃ軽く3万にはなるよ。気は確かかい?」

「あぁ、別に暇つぶしに来てみただけだから…」

「いや、そりゃありがたい…!ついでに帰るとき、その台を俺に譲ってくれねえか?
そしたらもっとありがたいんだが…」

「あぁ、訳ねぇよ。ただちょっと暇つぶしと言っては何だが話しをしたいんだ。
悪いが30分ほど時間くれねえか?」

「あぁ、訳ないさ。」

俺と話したいなんて、奇特なやつもいるんだな…そう思いながら、答えた。

そして俺たちは昼休みの札を台に置いてもらい、店の外のファーストフード店へと向かった。

くたびれた服を着たオッさんは、
セブンスターの煙草を口に加え、火をつけた。

俺も御相伴に預かり1本いただいた。

「アンタ名前はなんていうんだ?」
オッさんが聞いてきたので、出玉をまとめてもらって気が良くなっていた俺は

「あ?名前?名前は中原っていうんだよ。」
と答えた。

「中原か…俺は山本だ。普段はフリーライターをしてる。じつは、いま色んなやつの人生を聞いて回ってそれを記事に活かしたいと思ってる。少し協力してもらえねぇか?」

「別に対した人生でもねえが、それでも良けりゃ協力するよ。出玉もあんだけ貰ったわけだからな」

「ありがとう恩にきる。ところで、中原サンアンタは普段なにしてんだ?」

「あ?俺か?そうだな一言でいえばパチンコライターかなぁ…稼働した日にブログで勝敗を書いて生活してんだよ」

「パチンコ ライターか…。それはいい仕事だねぇ。だけど、最近出玉の数にも制限がかかっているようだし、どうなんだい?実のところ…それは稼げるのかい?」

そう言われると言葉を濁してしまう

「いや…ここだけの話し、そんなに稼げるというほどのもんではないんだ。月に数万入ればいいほうだ。だけど、嫁がそこら辺は理解してくれてるから…」

すると山本が、こんなことを切り出した

「そうなんだね。いい奥さんだ。ちなみにアンタと奥さんはどこで知り合ったんだい?」

「嫁との出会いかい?
そうだな、アレはその当時勤めていた会社の飲み会帰りだったか…。アイツが地元のラーメン店で働いてたときに出逢ったんだよ。そりゃ一際目を惹く器量持ちでね。アイツに話しを聞くまでは、アイツがこぶつきだなんて思いもしなかった。」

「へぇ、奥さんはそんなに器量が良いんかい?幸せもんだねぇ」

そう山本という男に言われると、まんざらでもない気がした。

「いやぁ、嫁も綺麗なんだがその娘も綺麗なんだよ。アイツの娘じゃなきゃ思わず、ヤリたくなるくらいだ」

「そりゃあ、危ない話しだな。
ちなみに娘さんはなんて名前なんだい?
いや、俺の知り合いに今度子どもで娘が産まれる人がいてね。参考までに聞いておきたいのさ」

「あぁ、そういう事か。参考になるか分かんないけどね、娘の名前は「馨」というんだよ」

「…そうかい、いい名前だね。
ありがとう、そいつにその名前を伝えておくよ」

そうして俺たちは暫くたわい無い話しをして、店の前で別れた。





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