死闘
ハローワークへ行った後、無性に海が見たくなった。時々こういう気分になる。海沿いの町で育ったからかもしれない。
バイクで近くの海岸へ行き、「ああ、海だなあ……」「塩水がいっぱいあるなあ……」と、しばらくぼんやり眺めたら満足するはずだった。
だが、バイクを止めてふと足元を見ると、何かが転がっている。
これだ。赤と青のプラスチックゴミだ。
いや、ただのゴミじゃない。
あれだ、あの、盾で防ぎながらうまいことボタンを押してハンマーで相手の頭を叩いたら勝ちのやつだ。
ポカポンゲームだ。
こんなやつだ。
(エポック社、ポカポンゲームJr. 画像はAmazonより引用)
…………。
青が、ちぎれ飛んでいる。
ポカポンゲームはあくまでもゲーム、相手の頭を叩いてビヨ〜ンと跳ばしたら勝ち。また頭をセットして遊べる。そういうものだ。
だが、これはどうだ。凄惨にも、青がちぎれ飛んでいる。
ゲームどころではない。
死闘だ。
叩いてビヨ〜ンどころではない。生きるか死ぬか。次なんてない。そんな「殺し合い」があったのだ。
そして、決着がついた。
赤のポカポンどころではない渾身の一撃を、青は防げなかった。胴体が真っ二つに裂け、砕け散った。
だが、赤もただでは済まなかった。きっと散り際に放った青の一撃が、赤の頭を直撃したにちがいない。赤の頭をビヨ〜ンと跳ばしているのだ。
そして、青の頭部はその胴体にまだくっついている。
生き残ったのは赤。死んだのは青。
だが、ポカポンゲームに勝ったのは、青。
頭を跳ばされ負けたのは、赤だ。
なぜ二人が殺しあわなければならなかったのか、それはわからない。
だがもしかしたら、青は最期まで赤と「ゲーム」を遊んでいたかったのかもしれない。
俺には青の消え掛かった表情が、最期に一本取ってニヤリと笑っている口に見えるし、赤の歯を食いしばった表情が、泣くのをこらえているように見える。
ポカポンゲームのこいつらは二つで一つの存在。相手がいて、初めて自分が存在する理由が成り立つ。
こいつらだって、そんなことは生まれた時からわかっていたはずだ。
それなのに、なぜ二人は殺しあわなければいけなかったんだろう。それはこの二人だけが知っていればいいこと。
赤のプラスチックの体が朽ちた時、もし死後の世界があるのなら、二人はまた出会い殴り合いを始めるだろう。
果てしない殴り合い。それが彼らの、存在する理由だからだ。
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