アリ、時々キリギリス 雨の街編 -あとがき-

こちらから全編お読みいただけます。



 今回この文章を認めるにあたって、どういった入りから始めたものかと悩んだが、結果的にこんな入りになってしまった。ちなみに「認める」と書いて、「したためる」と読むよ。
まあそんなことはさておいて、僕という人間は、なんだかんだいってこういう口語チックな中途半端な入りが好きらしい。今思い返してみると、高校の卒業文集もこんな入りだったような記憶がある。
まあ脱線はこれくらいにして本題に入ろう。ちなみに、こういう戻し方も好きである。

 先月15日にアップした御話をもって、長いこと書き連ねてきた「アリ、時々キリギリス 雨の街編」(以下、「アリキリ」とする)を完結させることができた。
 今回はそれについて話していこう。

 この連載(連載というのはおこがましい気もするが、便宜上そういう言い方をする)が始まったのは、2021年9月15日、今から約一年半前のことだった。
 当時、ちょうどYouTubeの方で、連載一周年企画と称して、週一投稿の「臀物語」と月一投稿の「御話」についても語っているので、是非そちらの方も見てほしい。

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この動画を撮影したころは、まだ長編らしい長編を書いたことはなく、月一の「御話」に関していえば、基本的には一話完結、原稿用紙にして15~20枚分ほどの文章量だった。
毎月テーマを探す大変さこそあったものの、正直テーマさえ見つかってしまえば、勢いで描き切れる量ではあったので、それほど苦労はなかった。
それと同時に、ある程度のボリュームのものを完結させてみたいという気持ちもないわけではなかった。
しかし僕は、生まれてこの方しっかりとしたお話なんて書いたことがないし、読書をする機会だって小学生時代を最後に相当離れていた。
食えない芸人をやっているため、色々考えるのは好きで、その中で「これはネタになりそう」、「これはネタというよりはお話向きだな」と仕分けることはあった。
そしてそんな妄想を良くしていれば、その中には当然、お話として書きあげられなくはない設定もありはしたが、それでもすべてを文章化するには力不足だし、何よりそれほど途方もない作業を終えられる気がしなかった。
しかしいつまでもそうやって目を背けているわけにはいかない。
連載を始めて一年が経とうとしたその頃、せっかくだから新しいことに挑戦してみるべきではないかと思い立ち、ついに筆を取ることにした。

 この連載開始にあたって、いくつかの設定が候補として挙がったが、せっかく書き始めるのならオムニバス形式で書けるものは避けたかった。それではこれまでとあまり変化がないからである。
 そうした考えの中で白羽の矢が立ったのが、この「アリキリ」だった。
 正直、いつ、どんなタイミング、きっかけでこの設定を考えたのかは記憶にない。しかし確かに僕の中で温めていたものではあった。
 正直何かの二番煎じである感じも否めないのだが、それでも僕は完結をさせることを念頭に置き、「アリキリ」の執筆に着手した。

 正直、それなりのボリュームになることは予想出来ていたため、そんな大作を書き上げたことがない僕にとっては海図も持たずに大海に出るようなものだった。
 どう着手しようかと考えた際に、僕はまずメインキャラクターである「カクリ」と「テト」という人物の設定を考えた。
 話の内容など全く決まっていなかったが、はじめに僕の頭の中に生まれたこのキャラクターを掘り下げてみることにしたのだった。
 一応この作品は「雨の街編」となっているように、続編を想定した作りになっているため、未だに明かされていない設定に関してもある程度考えていった。
 この二人が固まったところで、次に考えるのはお話の方向性である。結論から言ってしまうと、二人の出会いは一切描かずに、もう始めから二人は旅をしているものとして書き始めることにした。
 一応、二人の出会いに関してもある程度考えたのだが、そこに重きを置くくらいならば、二人の会話や周りの登場人物との関わり方で二人のキャラを明らかにしていこうと思い、今回はこのような作りにした。
 なので、今後僕の気力が続けば、そういった二人の出会いを描くこともあるかもしれない。

 次に設定である。二人が旅をするというイメージは漠然と持っていたので、なぜ旅をしたいのか、そこについて考えてみることにした。そしてそのあたりを考えていくうちに、亜人と人間の対立やフリーパスの定義などが思いついていった。
 正直、ここら辺に関しても、何がきっかけで思いついたのか、考えた順番はどうだったのか、思い出したいのに思い出せないことが多い。しかも大抵のことをパソコンで文字にしながら考えているため、順番などもあとで入れ替えている都合上、最早闇の中なのである。
 こういうときばかりは、紙でメモをすることの大切さを痛感する。次はちゃんと順番も書いておこう。

 そんな風に様々な設定を考え、次に着手したのがどこを描くかである。
 いくつか書いてみようかと思う設定(いわゆる〇〇編のようなものである)があったが、どこを描くべきかに関しては迷いがあった。
 いくつか頭の中で妄想をしてみたうえで、一番広がる可能性を感じたのが「雨の街編」だったため、まずはそこを描こうと決めた。

 これでやっと書き始められる、わけがない。
 前述したような原稿用紙20枚弱の世界ならばその勢いで書き始めても書ききることができただろう。
 しかしそれなりのボリュームを伴うとなれば、そうは簡単にいかない。
 結論、今回の「アリキリ」は原稿用紙にして180枚弱。ここにはフリガナや章立てする上での間などもあるため、実際にそれだけのボリュームがあるわけではないが、それだけのボリュームがあるのだ。
本のページ数にしてみたら360ページ近くである。
そんなもの、何も考えずに挑めるわけがない。
そこで、このお話を書くにあたって、僕は最低限のプロットを立てることにした。
どういう形で進めようか、どういう人と出会わせようか、どういう事件を起こそうか、どう帰結させようか。
当たり前のことではあるが、それでもこんな風に考えたことがなかった僕にとっては、なかなかに頭を悩ませる出来事だった。
そしてついにプロットが完成。それと同時並行で、主人公以外の登場人物に関しても別でまとめていた。これまた当たり前のことではあるのだが、これもあとあとやっておいてよかったと思えた。

そんな、僕史上一番ともいえる下準備を経て、ついに執筆にとりかかり始めたわけだが、ここで大きな誤算があった。プロットを文章化した時のその量の多さである。
当初の僕の想定では、1か月に原稿用紙15枚ほどのボリュームで書き続け、正味4回もあれば終わるだろうという考えだった。
しかし、結果的に書き終わるまでにかかった回数は驚異の10回。はっきり言って震えた。

プロットだけで見れば紙ぺら両面一枚くらいのことしか書いていない。なんとなくの流れと概要が書いてあるだけである。しかしこれが非常にボリューミーなのだ。
 いざ書き進めていくと、プロットにはあっさりと書いてあることでもしっかりと掘り下げないといけなかったり、こんな要素やあんな要素も足したいなと思ったり、そんなことの繰り返しなのである。
 これは非常に驚いたし、また同時に発見でもあった。

 そんなこともあり、あまりのボリュームに音をあげそうになったり、でもプロットを完成させた以上、最後まで走り切りたいという気持ちにもなったり、そんな葛藤を抱えながら、自分の能力に絶望しながら、何とか書き上げたのである。

 今になって読み返してみれば、個人的には好きだが、なかなか読みにくい文章である。
 しかしそれでも、後悔はない。むしろ、頑張ったなあ、って感じである。
 正直、これだけのボリュームを書き上げたことで着いた自身もあるし、次に繋げていきたいという気持ちが強い。
 今の段階では次に何を書こうかというのは一切決まっていないのだが、また次の長編の連載に開始に向けて、そろそろエンジンをかけ始めたいところである。

 さあ、次の当たり前を作ろう。

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