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ハチの多様な世界『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』

 今回の一冊はこちら。




どんな本?

 ハチといえば、ミツバチやスズメバチを想起しますよね。

 けれど、それらはハチのほんの一部。

 原始的な、木に産卵するハチ。

 そして、この本の主役は、他の虫や、他のハチに寄生する、寄生バチ。

 ハチの進化史から始まって、寄生バチの多様な生活を明らかにしていく一冊。

 そして、何万種にも分かれるというハチたち、それぞれの生態が詳らかにされていきます。



ハチの進化史

 この進化史がまずワクワクする!

 植食で植物に卵を産む蜂が一番原始的。

 それが、同じように植物の中に産む虫の卵や幼虫。彼らの方が栄養価が高いので、それらに寄生するようになった。
 この進化を促進したのは、のちに狩バチの毒針となった産卵管。

 この産卵管が、とても長い!

 ハチの体の何倍もある。
 ぜひ、ググって写真を見てみてください。

 この長ーい産卵管を木に刺して、寄生する虫を探し産卵するのです。

 そして、大事な産卵管を守るために、カバーをつけたり、丸めて収納したり……。

 最初は、毒液を注入し、他の虫を殺して卵を埋みつけていた寄生バチ。

 でも、栄養素の供給し続けてほしいし、動いていれば捕食されにくくなるし、生かし続けたほうがいいでしょ?

 ということで、生かして寄生するものが出てきた。

 で、さらに。

 麻酔できるなら、巣に引き込んでから卵を産み付けた方が安全ですよね?

 このうち、営巣が社会化してスズメバチのような、真社会性の狩バチへ。

 さらに、この狩バチの中からミツバチのような花バチが最終的に分化。

 これだけでも面白い!!

 しかし、ここまで、まだ序章なんです!



寄生バチに寄生するハチ

 寄生バチに寄生する。

 「え? どういうこと?」となりますよね。

 その前に。

 ハチの幼虫に寄生するハチは多いそう。

 元々、同じように木の幹に卵を植え付けるところから別の生き物へ進化してきています。

 ので、寄生するように進化したハチたちが、一番利用しやすいのは、かつての仲間たちであるわけです。

 これは、道理が分かりますよね。

 けれど、寄生バチに寄生するハチの生態は摩訶不思議。

 まず、お母さんは、葉にびっちりと大量の卵を産みつけます。

 その葉を、蝶などの幼虫が食べます。

 その幼虫の中に、寄生バチがいた場合、その卵から孵ったハチの幼虫は、先に寄生していたハチに寄生するのです。

 もし、食べた幼虫の中に寄生バチがいなかった場合、何も起こりません。
 食べられ損です。

 そんな成虫になるのが難しいハチが今まで命を紡いできて、生き続けている不思議。

 生命の不思議ですよね。

 この世界には、まだまだ「いのちの不思議」が溢れているようです。



生物の多様な生殖システム

 新しい命がどうやって生まれるか、ご存じですか?

 母と父の中で減数分裂が行われ、半分ずつの遺伝子を引き継いだ卵子と精子が出会い、受精卵となった母の子宮に着床して、育っていく……。

 これが、ヒトの誕生ですよね。

 虫たちは、卵を産みます。
 そこには、ヒトとは違ったシステムがあるのです。

 その中でもハチやアリは、産み分けができる「産雄性単為生殖体単数二倍体性)」と呼ばれる生殖システムです。
 ハチやアリを含む膜翅目意外にも、アザミウマ目やカメムシ目、コウチョウ目などの一部。昆虫以外では、ダニやワムシもこのシステムらしいです。

 この生殖システムは、未受精卵はそのまま発生して単数体の雄になり、受精した卵は二倍体の雌になります。

 不思議ですよね。

 このシステムだからこそ、真社会性の巣を作るハチやアリの女王は、一回の交尾で精子を貰い受けて、巣を発展させ成熟させた後に、次世代の女王と雄を旅立たせるわけですね。

 産雄性単為生殖体がどのように進化してきたか、上手く綺麗に説明できる説はまだないとか。
 わたしではなかなか説明しきれないので、詳細はぜひ『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』を読んでみてください。

 そして、ハチの生殖システムの不思議はこれだけにとどまりません。

 一代ごとに「雄と雌が出現する両性世代」「雌のみが出現する単性世代」が入れ替わる「世代交番」と呼ばれる生殖システムがあるようです。

 一世代ごとに、見た目も生態も全く違うそう。

 いやはや。

 SFの世界?

 本当にそんな虫がいるの?

 と、つい思ってしまいます。

 脊椎動物以外に目を向ければ、生殖システムが多様である……っていうのは、大変面白いですよね。

 世界は広いし、多様。

 他にはどんな生態があるんだろう?

 と思うと、どんどんワクワクしてきます。


植物を操る!? 「虫こぶ」とは一体……?

 葉っぱに、ピンクの不思議な実。

 他とは違う異常な実。

 芽には似ているけれど、なんか違うモノ。

 それらは、虫が植物に特殊な刺激を与えて形成させた、孵化する蛹の間、植物を利用して守ってもらうためのもの。

 虫だけではなくて、植物にまで寄生するハチがいるわけです。

 びっくりですよね!?

 実際に見てみたくて、『虫こぶハンドブック』を購入してしまいました……。



虫の世界では、菌の利用も一般的

 寄生するハチたちの生態は摩訶不思議。

 原始的な木へ産卵するハチたちにも、目から鱗な不思議が。

 木に産卵する虫たちは、幼虫のうちは木を食べて大きくなります。

 が、実は、木をそのまま食べて栄養とするのは至難の業。

 大きな幹を支えるため、植物の細胞は細胞壁で覆われています。

 この細胞壁が曲者。
 セルロース、リグニン、ヘミセルロース……これを分解してくれるのが、木を食べる菌類たち。

 そのため、木へ卵を産みつける虫たちは、臭いなどで食べられる菌を探します。

 さらに、一歩進んで、キバチは、卵だけではなく「木を弱らせる毒液と菌を打ち込む」とか。

 菌を利用する虫は意外と多いようですね。

 外注として有名なキクイムシ、子どものために菌を保持する「菌嚢」を持っているコクワガタなどなど……。

 「ヒトだけが他の生物を利用している」というのは大いなる驕りのようで。



シイタケ害虫駆除に、寄生バチが大活躍!?

 沖縄のハブ対策で導入されたマングースの例が一人歩きして、ヒトによるバイオロジカル・コントロールに悪印象を持たれている方も多いかと思います。

 けれど、生物学の進展で、手痛い失敗は減り上手くいくケースも多くなってきているとか。
 ただ、生物学の難しい話になるせいか、なかなか報道されない印象です。

 寄生バチは、種ごとに寄生する虫が厳密に決まっています。

 そう、農業における害虫駆除にピッタリの生態!

 シイタケ栽培で活躍するかもしれない……というトピックが紹介されています。

 ハウス栽培によって、一年中食べられるようになったシイタケ。
 しかし、ハウスに害虫キノコバエが侵入したら、一気に繁殖!

 傘の下に卵を受け付け、気づかずに出荷されてしまったら、食の安全問題に発展しかねない……。

 対策を考えていた研究者さんは、サンプル用に採取したキノコバエからさらに小さいハチを発見!

 このハチを利用して、シイタケを害虫から守る取り組みが進められているそうです。



おわりに。

 ハチの多様な世界を紹介した、『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』。

 その中から、印象に残ったトピックを記事にまとめてみました。

 いかがだったでしょうか?

 かなりガチの生物学のタイトル。
 なので、読了には時間もかかりますし、集中力も使います。

 けれど、とっても面白い!!

 興味を持ってくださった方は、ぜひ読んでほしい一冊です。

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