外套の中の恋人たち

9月も半ばを過ぎました。今年ももう終わったようなものです。

朝晩は肌寒くなってきたし、シャワーを浴びた後、すぐに水気を拭き取らないと風邪を引きそうです。

さて、これから羽織るものが多くなっていきます。私は厚着になるのに比例して人恋しくなってきます。

それは何故かって、やはり人肌は温かくて愛おしいもの。寒い時は肌と肌をくっつけていたい。夏場は好きな人でも近づくと「ぅ暑い💢!」となりがちですが、寒いと身を寄せ合いたくなるのが道理ってものです。

昔々、大好きな人が居ました。まだお互い知り合ったばかりで、話しても話しても話し足りず、何時間も電話で貪り合う毎日でした。

一月が経ち、そのうち週に一度会うようになりました。でもまだ触れたことはありません。ある日、彼の車に乗ってドライブをして戻ってきたら、雪がチラチラと降っていました。川沿いに車を停めて二人で外に出て、しばらくその雪を眺めていました。

言葉はありません。お互いに向き合い、自然と近づいて、背の高い彼の胸に抱かれる様な形になりました。二人とも手は自分のコートのポケットに入れたまま。

そして一旦顔を離して目を合わせて、微笑みながら唇を重ねました。ほんの一瞬の出来事。ポッと明かりが灯いた様に暖かかった。

一言も話さずに二人共ポケットに手を入れたまま、今度は横に並んで歩き出しました。

やっと「寒いね」と言って彼が私の手を取って自分のポケットに入れてくれました。「うん」としか言えなかったのは、手に汗をかいているのを悟られたくなかったから。

初夏にはクチナシの香りが、真夏にはノウゼンカズラのオレンジ色が、秋には金木犀の香りが、そして真冬には焚き火の匂いが、私の前を通り過ぎて行った人達のことを思い出させます。

これから一雨ごとに寒さが増していきます。一枚一枚上着を重ねていって、最後に羽織るコートの中に、私はチョコンと存在していたい。

そして、ポケットの中でずっとあなたと手を繋いでいたいのです。

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