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#015. 1989年、VIPERがメロスピの価値観をアップデートした件について。

VIPER「Theatre of Fate」(1989)

はじめに

1989年と言えば、日本では平成がスタートした年だが、世界的なトピックとしてはベルリンの壁が崩壊したことがまず挙げられるだろう。

また、中国では天安門事件が発生し、その負の歴史に未だ箝口令を敷く中国共産党の歪な姿も記憶に新しい。

ちょうど今、夏の参議院選が真っ只中の日本だが、本来政治とは、弱者を救済するために作られたシステムである。

そもそも人間は生物学的に強くない。
古来より、気候条件や貧富の差によってその生死が左右されてきたが、果たしてそれは今も似たようなものである。
医療や社会保険制度など、これでも政治によってマシになった方だ。

ではなぜ弱者を救済する必要があるのだろうか。
端的に言ってそれは、人間社会全体にとって有益だからである。
これは拠出制年金を実践している日本なら、極めて合理的な考え方とも言えるだろう。

しかし、経済的にイケイケドンドンな昭和の高度経済成長期に比べ、少子高齢化待ったなしの我が国では、弱者救済の考え方を根底から見直すべき時期に来ている。
巷でよく聞かれる「価値観のアップデート」が政治にも必要なのだ。

一方で、アップデートは早ければ早いほど良いというわけでもない。
iOSのアップデートをしばらく様子見する方ならば、恐らく筆者の言わんとする意味が何となく分かると思う。
検証(デバッグ)は極めて慎重に丁寧にされるべきである。

ということで、今回は1989年にリリースされたVIPERの名盤「Theatre of Fate」を取り上げてみたい。
いち早くHELLOWEENが築き上げたメロディックスピードメタルもしくはメロディックパワーメタル(以下、メロスピ&メロパワ)を独自にアップデートさせた作品として、ヘヴィメタル界隈でも特に評価の高いアルバムである。

古今東西、HR/HMの中でも屈指の人気を誇るサブジャンルが、メロスピ及びメロパワだ。
始祖はもちろん、ドイツの至宝、HELLOWEENである。
彼らは1987年から1988年にかけて「守護神伝」という大傑作を世に残している。
HR/HM好きを自称する方で、彼らを聴いていない人は恐らくいない。

ヘヴィ&スピーディー、そしてメロディアスで、どこかコミカルな雰囲気さえ漂わせるHELLOWEENは、当時の日本でも人気が爆発し、今でもファンが多い。

そのHELLOWEENに影響され、我流でメロスピにチャレンジしたのがVIPERの2ndアルバム「Theatre of Fate」ということになる。

この時、日本で初めてVIPERを紹介したのは伊藤政則氏のラジオ番組「POWER ROCK TODAY」だったと記憶しているが、その際に流れた楽曲は「Prelude to Oblivion」だった。
当時、この曲は全国のメタルキッズに衝撃を与えた(と思う)。

アルバムの中では最も陽気なナンバーだが、クラシック音楽から引用された大胆なコーラスアレンジが素晴らしく、加えて最後までスピード感を失わないグルーヴがとても印象的だった。

そう、VIPERはHELLOWEENが確立した音楽性に感化されるも、そこからさらにクラシック音楽との融合を試みることで、メロスピ及びメロパワそのものをアップデートしようとした痕跡があったのだ。

しかも彼らはヨーロッパのバンドではない。
まだBRICsという言葉もなかったブラジル出身のバンドがこの偉業を成し遂げたのだから、全世界のメタルキッズが仰天した(と思う)。

この曲を聴け!

さて、メロスピ然とした曲ではないが、終曲「Moonlight」はヘヴィメタル史上、燦然と輝く名曲であろう。
特に天才的なVocal、Andre Matosアンドレ・マトスの才能の片鱗が如実に体現されているのがこのバラードである。

2019年、心臓発作によって急逝した稀代のボーカリストは、まさにこのアルバムがキャリアの出発点となったと言ってもいい。
その後の彼の活躍は各自で追って頂くとして、この「Moonlight」はこの先もずっと推し続けたいと思う。
ヘヴィメタルとクラシック音楽の親和性を実証したという意味では、YNGWIE MALMSTEENに匹敵する功績には違いないと感じているからだ。

アルバム自体は全8曲とコンパクトだが、各楽曲が粒揃いなので満足度は非常に高い。
特にギタリスト目線からしても、ユニゾンでひたすら突っ走るギターバッキングなどは本当に痛快無比で、加えて様式美な展開も素晴らしい。

個人的には、あまりにもヘビロテし過ぎて歌詞も覚えてしまったぐらいの作品なので、思い出補正は強めである。
従って、その頼りないサウンドプロダクションなどネガティブな面を差し引いたとしても、名盤という評価は30年以上経っても変わることはない。

繰り返すが、メロスピやメロパワといったジャンルの価値観を見事にアップデートさせた、世紀の傑作なのだ。
一家に1枚は当然ながら、出来ることなら神棚にも飾って欲しい1枚である。


総合評価:98点

文責:OBLIVION編集部


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