見出し画像

北村直也『男はつらいよ寅次郎恋歌』を語る

北村直也さんがFMラジオ「ムービーボヤージュ」で『男はつらいよ寅次郎恋歌』について語っていました。

(町田和美)お久しぶりです。北村さん。

(北村直也)ほんとにお久しぶりです。なんせ仕方ないですね、この状況では。

(町田和美)今日はお電話になりますが、よろしくお願いします。

(北村直也)はい、こちらこそ。今日は「男はつらいよ」の第8作になります。「寅次郎恋歌」という作品についてです。昭和46年の作品ですね。

画像1

(テンパープラザ広瀬)僕生まれてない。

(北村直也)僕もですよ。大体そうなんですけど、初期の「男はつらいよ」を好きだって方は、リアルには見てないんです。みんな映画の再放送で作品を知ることがほとんどだったので、実際撮影された時ってのはすごい昔なんですよ。

(町田和美)昭和の良き時代っていう。

(北村直也)ほんとにそんな感じです。この映画は、僕も最初見た時はそんなに心に残るような作品ではなかったのですが、3回から4回目、いわゆる4K放送になって、自分も歳をとってすごいこの作品の深さというか深みがわかったんですよ。それがわかった時、もうびっくりで。

(テンパープラザ広瀬)確かに、僕も「男はつらいよ」はド素人ですが、他にもっと印象に残るというか思いつく作品の方が多いような。

(町田和美)正直ピンとこないです。

(北村直也)でしょ?ところがびっくりなんですよ。とにかくこの作品なんですけど、博のお母さんが亡くなられてってところからスタートするんですが、田舎、岡山県の高梁ってところの実家に博とさくらが帰るわけです。

(町田和美)お葬式ってことで。

(北村直也)そうですね。お葬式っていろいろあるじゃないですか。いつも顔を合わさない大人たちが顔を合わせるわけなんで、揉めるのにふさわしいタイミングじゃないのに、揉めちゃうんですよ。お袋さんが亡くなってしまったことで、これからは一人で生活しないといけなくなる父親のことを気遣って、博の兄弟たちがいろいろ話を持ちかけるんですけど、結局欲深い内容の話が見え隠れもして兄弟喧嘩になるんですよ。

(テンパープラザ広瀬)よくあるよなぁ。

(北村直也)こんな時にやめろ、みたいな話が出るんですけど、三男の博だけはその静止を聞かずに、自分の思いというか、お母さんが実はお父さんの不器用な性格のせいで不幸だった、幸せと呼べるもんじゃなかったんだって話を親兄弟の前でぶちまけるんです。

(町田和美)ああ、なんかつらい。

(北村直也)こういう生い立ちとか生まれ育った環境みたいなことを伏線のように山田洋次監督はまず焼き付けるんです。そしてそれが本編の大きなキーポイントになってくるんですよ。確かにこの親父さんってのは、名優の志村喬さんが演じておられるんですが、黒澤明監督の作品にも出演されている方で、とにかく不器用で頑固で、すごい個性を持ってるというような存在感ですごい名演技なんですよ。

(町田和美)なんかわかるわぁ。

(テンパープラザ広瀬)頑固親父みたいな。

(北村直也)そうなんですよ、まさに頑固親父なんです。上の兄弟二人は父親にわずかであっても歳が近いこともあるし、当たり障りのないことを言うんですよ。きちんと社会的な地位も確立していて、見るからに立派な風態なんですよ。奥さんのことをママって呼んだりして。でも博は町工場の職工で、歳も一番下で、今回みたいに言いたいこともいうし、どちらかというと父親には反発しているんですが、そう言う境遇でこの親父さんはどこか心が寂しいんですね。

(テンパープラザ広瀬)うんうん。

(北村直也)寂しいんですけど、むしろ包み隠さず、ずばっと言ってくれる博が、実は本当のことを言ってくれてるということを親父さん自身はわかってて、どこか愛しているんですよ。反骨精神が三人兄弟の中で強い博のことが好きというか、可愛いんですね。でも頑固親父なんでそれを本人には直接伝えられないわけです。

(町田和美)親子の確執みたいな感じですね。

(北村直也)まさに親子の確執です。私も同じでした。

(テンパープラザ広瀬)え?北村さんところも?

(北村直也)そりゃありますよ。男の親子はそんなもんですって。

(町田和美)親って寂しいというか。

(北村直也)寂しいんですよ。親父は(笑)。で、そこへ寅さんが一人寂しい親父さんの元へ駆けつけるわけです。まぁ駆けつけるというか、転がり込むんですけどね。

(テンパープラザ広瀬)ふんふん。

(北村直也)で寅さんのすごいところは、こうして本当なら迷惑極まりない来客なんですが、頑固者の親父さんも寅さんだけには心を開くんです。「寅次郎くん、今晩何が食べたいかね」って感じで。そしたら、寅さんも「昨日は魚だったから、今日は肉かなぁ」とか抜け抜けというわけです。

(町田和美)嫌だわ。

(北村直也)嫌ですよね。でも、それはただこの親父さんが寅さんが来客だからそういう世話をしてあげてるってことじゃなくて、寅さんから何かをもらったからなんです。

(テンパープラザ広瀬)何か?

(北村直也)もちろんそういう描き方はしてないんですよ。映画としては、次の日って感じなんで。ただ寅さんのセリフにもあるように、昨晩は魚料理を食べながらこの二人は差し向かいで話をしてるんです。そこで、親父さんは寅さんの言葉や仕草に助けられたんですよ。

(町田和美)なるほど。

(北村直也)人間には返報性の法則ってのがあって、何かしてもらうと、それに対して返してあげなきゃって気になるんです。自然な感情ですね。もちろん情景からの推測でしかないんですが、だから寅さんがどれだけ図々しくたって、なぜかそれが許されてるってシーンが他の作品にもいっぱい出てくるんですよ。でもそれを見てる僕たちは、寅さんを来客として迎える側の立場の人間がする寅さんに対する通常のおもてなし以上のすごく自然な何かを感じるんです。

(テンパープラザ広瀬)はあぁ〜。

(北村直也)それを証拠に、この親父さんが時を後にして、不意に東京葛飾にあるとらや(くるまや)を訪れるシーンがあるんです。

(町田和美)はい。

(北村直也)僕はこのシーンが一番好きなんですけど、あまりの堅物がきたもんだから森川信さん演じるおいちゃんなんか、場を取り持つのに一苦労するんです。汗かきかきで。そこへきて、呼ばれた息子の博なんかは下向いて黙ってるわけです。

(テンパープラザ広瀬)岡山のご実家から親父さんがはるばる来たのに。

(町田和美)気まづいですよね。

(北村直也)そうんなんですよ。そりゃ確執のある親父がいきなり尋ねて来ても話すことなんてないんですよ。頑固親父も黙って正座してるし。

(町田和美)いたたまれないなぁ。

(北村直也)そこに寅さんがあのとびきりの笑顔で帰ってくるんですよ。おぉ!元気にしてたか!みたいな感じで。

(テンパープラザ広瀬)目に浮かぶ(笑)

(北村直也)そしたら、あの寡黙で頑固そうな親父さんが寅さん相手だとすごく和やかにしゃべるんです。楽しそうに。で、ぐさっとくるのが、そこからの寅さんの一連の言葉と行動なんです。辛気臭い顔をしている博に「なんて踏ん張った顔してんだよ、お前のお父さんなんだよ」ってすごく当たり前のことをさらっと言うんです。

(町田和美)うわ、ぐさっと刺さるよね、これは。

(北村直也)もう当たり前すぎて逆にぐさっと来るんですよ。でも、その当たり前のことは寅さんには、当たり前だろうとなんだろうと関係ないんです。寅さんにとっては眼の前の状況の方がよっぽど違和感でいっぱいなんです。その後、遅れてさくらが赤ん坊の満男を連れてとらやに到着するんでけど、おメェの孫だよ、ばぁって言ってみろよ、とか非常に口は悪いんですが、「今度はお前も心開けよ」って感じでやるわけです。そうすると、堅物の親父さんがすごいくしゃくしゃにした笑顔で孫を膝にのせてあやしたりするんです。

(テンパープラザ広瀬)わぁ、深いなぁ。

(北村直也)深いんですよ。人間の心模様なんてそんなもんなんです。いろいろなことが折り重なって、みんな本当の自分なんて出せないんです。出せなくなっているというか。でもそれはさっきも言いましたけど、純粋な寅さんにとっては余計なことで、どうでもいいことなんです。それより、おめぇたちいつまでも何やってんだ意地張って、みたいな。仕方なくかもしれないですが、それで寅さんにみんな心を動かされるんです。映画をみている僕たちも。

(町田和美)あぁ、すごくその映像見てみたい。

(北村直也)で、この映画、最初から最後までこの親父さんがいろんなところに絡んで来るんですけど、りんどうの花がキーになるんです。わかります?りんどう。

(テンパープラザ広瀬)いやちょっとわからないです。

(町田和美)青い系統の。

画像2

(北村直也)そうそう、そうなんですよ。青に近い深みのある紺の、可愛くて、でも凛とした花です。私も詳しくは知らないですけど、昔子供の頃に、おばあちゃんが日当たりのいい場所にりんどうの花の鉢を置いてて、「りんどうが咲いたよ」って言ってたのを今でも覚えています。

(町田和美)なんか素敵。

(北村直也)その「りんどうの花」っていうセリフが、この作品では何度も何度も出てくるんです。もちろんアクセントなんですが、親父さん役の志村喬さんはりんどうの花の話を例に挙げて、寅さんに説教をするシーンが最初に出てくるんです。

(テンパープラザ広瀬)で、最後に明らかになる的な?

(北村直也)それが特にこれって種明かしはないんですよ。

(町田和美)あれ?

(北村直也)ところがアクセントって言ったように、何度も何度も出てくるんですよ。あんまり何度も出てくるもんだから、僕この花言葉を調べて見たんですね。

(町田和美)ほぉ!!

(北村直也)そしたら全て解決したんです。山田洋次監督が何をこの映画で伝えたかったのか、ってことが。それを知るとすごく染みわたるんです。

(テンパープラザ広瀬)うわぁ、知りてえー。

(北村直也)マドンナ池内淳子と寅さんとの関わりがこのりんどうの花ですべて最後にまとまりを見せるという、花と同じで地味なんですけど、ほんとにメッセージの込められた泣ける作品です。とくに寅さんが旅に出る最後のシーンは、のちに代表とされるさくらの名台詞が出てきますので。ぐっと来ますよ。

(町田和美)なんかしんみりしちゃった感もありますが、今日北村さんからご紹介してもらった作品「男はつらいよ寅次郎恋歌」は、大阪ステーションシネマ他にて、【6/26(金)~7/9(木)】に期間限定で4K上映されます。北村さん、お電話で今日はありがとうございました。

(北村直也)はい、こちらこそありがとうございました。失礼します。

#男はつらいよ #寅次郎恋歌#FMラジオ#イマジネーション#映画#寅さん#池内淳子#マドンナ#山田洋次監督#応援よろしくお願いします#町田和美#テンパープラザ広瀬





この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?