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#0122 「資本主義」って何?・その5:ポランニーが指摘した市場経済の落とし穴

皆さん、おはようございます。
資本主義経済について考えてたことシリーズですが、そろそろ一旦終わりにしたいと思います。

今回、注目したいのは、カール・ポランニーという経済学者が、著作で資本主義経済のことを「悪魔のひき臼」と評したことです。これ結構的を得ているなと思うので、ぜひ一緒に考えていただきたいです。

カール・ポランニーはハンガリー生まれの経済学者で、著作『大転換』という第二次世界大戦の混乱期に発表され、市場経済の影響と限界について深く掘り下げた本があります。

市場経済が人間の社会基盤―家族、農村、都市、教育、医療など―から生まれたと指摘しつつ、その市場経済によって人間の社会基盤が次第に飲み込まれていく様を描き出し、この過程を「悪魔のひき臼」と表現し、資本主義社会の根本的な問題を浮かび上がらせました。

資本主義の特徴の一つに「労働力の商品化」というものがありますが、これは自分の労働力を商品として売るというもので、「二重の自由」により生まれたものです(詳細は#0116のnoteをご参照ください)。

たしかに現代もこの労働力の商品化が進んでおり、アルバイトやサラリーマンも自分の労働力を商品として売っているわけです。なので、一生働く。自分を犠牲にして働く。一人暮らしや核家族も労働するため、労働力を売るのに効率的だから生まれたわけです。今度は夫婦共働きしなければ社会が成り立たなくなくなりました。本来は家族で行ってきた家事や子育ても外部に委託して商品化されました。

こうして市場経済は、人間の社会基盤である家族の形態まで破壊していくのです。これが行き詰まると不満を持つ者が出てきて、戦争や恐慌、抵抗者によりファシズムや独裁が生まれ、強制的な富の再分配が起こる。。。

第二次世界大戦に書かれた内容ですが、現代社会と非常に被るものがあります。いまポスト資本主義などが注目されている背景も、こうした社会への不満やモヤモヤが人々の心に溜まっているからなのではないでしょうか。

ポランニーの分析は、今日に警鐘を鳴らすものではないかと思うのです。ポランニーの「悪魔のひき臼」を補助線に資本主義を見ていきます。(3934文字)

※カール・ポランニーの解説は、コテンラジオでもなされているので、興味ある方はぜひ聴いてみてください。

○市場経済の原理と人間の社会基盤

市場経済の基本原理は、供給と需要による価格決定メカニズムに依存します。このシステムは、元来、人間の社会的な基盤上に構築されています。家庭、地域社会、教育機関、医療など、これらすべてが安定した社会の土台として機能していたのです。

しかし、カール・ポランニーはその著書『大転換』で、市場経済がこのような社会基盤を徐々に侵食し、最終的には支配してしまう過程を警告しています。

・「二重の自由」により生まれた市場経済

ポランニーによれば、市場経済が発展するにつれて、人々の生活様式や価値観が変化し、市場のニーズに適応する形で社会基盤も変容していきます。

例えば、農村から都市への人口移動は、より多くの労働力を都市の工業セクションに供給するために起こりました。この過程で、人々は自らの労働力を商品として市場に提供することで生計を立てるようになり、これが「二重の自由」—自由に仕事を選び、自由に労働力を売ることができる—をもたらしました。

・社会基盤が市場経済に飲み込まれていく過程

しかし、この自由は裏を返せば、個人が市場の要求に応じて常に自己を最適化し続けなければならない圧力でもあります家族という基本的な社会単位さえも市場の論理に従って再編され、一人暮らしや核家族が効率的な労働のために推奨されるようになりました。夫婦共働きが常態化する中、家族関係はさらに経済的な要求に対応する方向で進化しています。

このように、市場経済は元々支えとなるはずだった人間の社会基盤を、自己の拡大と維持のためのリソースとして消費しているのです。ポランニーはこの現象を深く批判し、市場経済のもたらす影響を再考することの重要性を訴えています。

○労働と生活の変化:家族形態の破壊

カール・ポランニーの議論の中核には、市場経済が個人の労働観をどのように変え、それがどのようにして家族形態に影響を及ぼしているかがあります。

・市場経済が労働観を変えた

彼が指摘する「二重の自由」は、農村を離れて都市へ移る人々が直面する現実です。この自由は、一方で労働力を市場で売る自由を与えますが、他方で生活を支えるためには常に自分の労働力を売り続けなければならないという束縛も生じます。このプロセスが、家族という基本単位にどのように作用するかは、ポランニーの分析で特に注目すべき点です。

・家族形態を破壊していく過程

都市化と工業化の進展により、多くの人々が伝統的な農村コミュニティから切り離され、都市の個々に分散した生活様式を採用しました。この移行は、家族の構造を大きく変えることになります。核家族や一人暮らしは、労働市場での効率と機動性を高めるために「最適」とされる家族の形態です。個人が自己の労働力を最大限に活用するためには、家庭生活を可能な限り市場の要求に適応させる必要があります

このような状況の中で、夫婦共働きが新たな標準となり、家庭内での役割分担も変化しました。かつては一方のパートナーが家庭を守り、もう一方が外で働くという構造でしたが、経済的要求に応じて、両方のパートナーが市場で労働力を提供することが求められるようになります。これにより、家族内の絆や相互支援のシステムも、経済的効率性の追求によって再構築されていくのです。

ポランニーは、市場経済が進むにつれて家族の伝統的な役割が脅かされ、結果として社会全体の安定も危うくなると警告しています。家族形態の変化は単なる個人の選択の問題ではなく、市場力の直接的な影響下にあるというポランニーの見解は、現代社会においても深く考察されるべきです。

○社会的抵抗とその表れ方

・なぜ抵抗が起こるか

カール・ポランニーの著書『大転換』では、市場経済がもたらす緊張と不安定性が抵抗や反発を生む原因となると論じられています。

市場の力が社会基盤を侵食する中で、人々はしばしば市場経済が作る見えない圧力に反抗する方法を模索します。この抵抗は、ファシズムや独裁といった極端な政治形態の登場として表れることがあります。ポランニーは、経済的な不平等と社会的な不安が政治的極端主義へと人々を駆り立てる過程を詳細に解析しています。この辺も世界の政治情勢と被ると思います。

・現代社会における抵抗の形態

現代社会においても、ポランニーの理論は多くの共鳴を呼んでいます。例えば、SNS上での過激な投稿や公的な議論での表現の自由を巡る論争は、経済的および社会的なフラストレーションの現れと見ることができます。これらの現象は、市場経済が人々の日常生活に与える圧力に対する一種の抵抗として理解することが可能です。

特に注目されるのは、経済的困窮や社会的疎外感が高まる中で、市民が伝統的な政治手段を超えて新しい表現の形を探求している点です。これは、市場経済下での生活の困難に直面した人々が、自らの声を聞かせるために異なる方法に訴える必要があると感じているからです。抵抗の形は変わっても、根底にある不満の原因はポランニーが指摘した市場の力の過剰な介入にあると言えるでしょう。

このように、ポランニーの分析は、市場経済による社会的圧力がどのように個人や集団の行動に影響を及ぼすかを理解する上で、今日でも非常に重要な視点を提供しています。市場の動きが社会的な動揺を引き起こすメカニズムを理解することは、現代の政治的および社会的問題への対策を考える上で不可欠ではないでしょうか。

○結論:ポランニーの警告

カール・ポランニーの『大転換』は、資本主義が人間の生活のOSとして、いかに密接に関連しているかを示しています。

彼の分析は、市場経済の力がどのように社会の基本的な構造—家族、労働、地域コミュニティ—を変容させ、時には破壊すらもたらすかを鋭く批判しています。この理解は、現代社会が直面している経済的および社会的な課題への対応策を模索する際の基盤となり得ます。

ポランニーが警鐘を鳴らすのは、無制限の市場論理が社会を支配下に置くことの危険性です。彼は、市場の自由が究極的には人間の自由を侵害する可能性があると指摘しています。これは、個人が市場の要求に常に応えることを強いられ、その結果、個人の福祉や社会的な安定が損なわれることを意味します。ポランニーは、市場の力を適切に制限し、人間の福祉を最優先に考える政策の重要性を強調しています。

未来に向けて、ポランニーの提言は、経済システムの再考と、より公正で持続可能な社会の構築に向けた行動を促すものです。経済成長の恩恵が全ての市民に公平に分配されるシステムの構築、環境保護の推進、社会的連帯の強化は、ポランニーが示唆する道です。これにより、市場経済の制約を超え、「人間中心の経済」を実現することが可能となります。

なんか社会主義が揺らぎ、「プラハの春」を主導したドプチェク第一書記(当時)の「人間の顔をした社会主義」の資本主義版みたいですね。

『大転換』から得られる教訓は、単に経済理論の再評価を超え、社会をどのように形成し、未来をどのように築くかについての深い洞察を提供します。ポランニーの考えは、現代の政策立案者、学者、一般市民にとって、資本主義の持続可能性と人間の福祉をどのようにバランスさせるかという点で、今もなお重要な意味を持っているのではないでしょうか。

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