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【コラム】稽古場のあり方

□目的と期間

このところ自分以外の人に振りを付けたり、演出をしたりすることが多い数ヵ月を送っている。出演者が複数いる稽古場での演出家、振付家のあり方について考えてみた。

僕自身はとにかく言葉数多く伝える、そして本当に怒らない。“怒らない”とあらためて言葉にすると、子供相手じゃないんだから怒らないだろ。と思う方もいるかもしれませんが、プロの現場でも見事なタイミングで渇を入れて出演者達を導く事に長けてる方々もいるんです。
もしくはとにかくずっと怒鳴ってる方もいる。
どんなタイプで、もおそらくイタズラに声を荒げて出演者達相手に普段の鬱憤を晴らそうと思っている人はいないはず...
この作品をいかに関わる人々が誇りを持てる物に仕上げるか。を考えての行動だと思っている。

確かに人間ですから、ふわふわ、ゆるゆるしてしまう日もある。それを人間だから仕方ない。と言ってられない大きな原因は「時間」である。
舞台ならばその舞台が開演するまでに、この作品を仕上げなくてはならない。

出演者が多少のストレスや極度の緊張状態と戦いながらも、「開演」というスタートラインに立つ姿にきっと観客の皆様も心地の良い緊張や感動を覚える。
出演者をそのスタートラインにその時間に立たせるのも、
演出家の大切な仕事なのでしょう。

□作られたもの、生かされたもの。

稽古場で渇を入れられ、演者が成長する事は演者としてはラッキーな現場となる。自分の弱点や、意外な才能に自分で気が付けた場合もそれはラッキーな現場となる。

他者から緊張を与えられて自分の持っている本当の力を発揮するのと、のびのびとした環境の中で自分の本当の引き出しを自分で開ける事が出来る事。どちらが正解という事はないが、僕は後者にどうしても惹かれてしまう。

この理想を抱えていると、必ず失敗もする。
“のびのびとした環境”を作る事は難しく、自分達で何かを発見しようと活発になる場合と。口うるさくない、楽な演出家、振付家として認識され舐められる場合があり。
この場合の対処がなかなか難しい。

急に人が変わったように怒鳴り散らした所で、今度は楽だった奴が面倒な奴になったという、これまた最悪な空気を作る事になり。
しかし全く変わらないでいると、それはそれで最後まで駄目だった演出家、振付家というレッテルを貼られる事になる。

最悪な空気にはしたくないが、最後まで駄目だったとなると、これはお客さまがいい迷惑。
最後の最後まで悩むが、やはり“開演”というタイムリミットに追われてチカラワザで演者を引っ張る事になる。

しかし、稀にふわっと自分で何かを発見して輝き出す勇者が登場する場合がある。その時は空気は一転、多くの人が勇者に引っ張られ各々が輝き始めるのだ。こうなったら僕らの仕事はそのエネルギーを形成し過ぎずに、大きなガイドラインだけ作って見守る事。そして自分の手柄にしない事。くらいである。

この稀な経験をしたからこそ、また次の現場ものびのびとした環境をどう作るか...という思考から始めてしまう。

□誰でも出来なきゃいけないのか

良い所は引き出すものであって、叩き出すものではないと思っている。自主的な行為は演者にとって絶対に必要なスキルの1つなんです。

最終的には舞台に立つのは演出家でも、振付家でもないわけで(演出家、振付家自ら舞台に立つ事ももちろんあるが、この僕も。)
良い時の喝采も、そうでない時の批判も、やはり矢面に立って受けるのは演者である。
だから、演者が喝采を受けるべく尽力するのが演出家であり、振付家であり。矢面に立つ覚悟を持ち続ける事が演者である。確かに理想論ではありますが、理想を持てる方々と作業をしたいな...というのが、正直な所です。

そんな思いを打ち明けたある方に『でも誰もが自主的になにかを出来るわけじゃないから』と言われた事がありますが。
誰もが舞台に立つ事が出来る必要はないわけで、そんな所にまで薄っぺらい平等を持ち込んでしまっては、わざわざお金を払い、その時間に劇場に行き、席に座って何かをみましょう。がなくなってしまう。

舞台に立つ事が特別なことだというわけではなく、各々向き不向きがありますから。“出来る事をちゃんとやる”事の先に新しい引き出しがあるのわけで、0を1にするのは、やはりいつも自分なのではないでしょうか。

□はなからゴールはありません。

1人の人生を考えると「開演」はスタートでも、ゴールでもなく過程ですもんね。。。
果てしなく続ける覚悟が何かを生むのか。

1つ1つの作品の単位で考えると、毎回、毎回、タイムリミットがあり、終わりがある。
しかし生身の人間が舞台に上がるのだ。規則正しくスタートを切り、必ず最高のゴールを迎えているのを客席で観るのが、本当にワクワクするだろうか?

1つの舞台でスタートを切れないでいても、いくつもの舞台、いくつもの出来事を経て突然のスタートダッシュを自ら経験する人もいるだろうし、そのスタートを待てずに去る人もいる。
誰かの最高のタイミングに立ち会えるかもしれないのが舞台観賞であり、誰かの過程に少し微笑むのも舞台観賞である。
これはお客さまに、いつだって最高というわけではないのです。という言い訳をしているのではなく、生の人間が演じる事の魅力ですよ。と言っているわけでもなく。ただ“事実”人ってそんなもんですよという事なんです。

そんな中でもやはり「開演」に向けてなんとかしようとしている人達をちゃんと見守るのが、稽古場での演出家、振付家であって。

そんな事が今日も沢山の稽古場で行われていて。

そう考えると平和な事をやらせて頂いている事に感謝である。

ダンス劇作家
熊谷拓明

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