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【コラム】負けるから始める。

□踊場の広い階段

15才でダンスを始めた僕はとても平和に踊っていました。
舞台で少し前よりも多くのパートを踊らせてもらうだけで、とても幸せで今の自分のダンスに幸せに浸る事が出来ました。まるで数段上るとすぐに大きな踊場がある階段のようだった。

25年前の札幌でダンスを始めた頃は、ダンスの動画をYouTubeで観る。なんて事は皆無であり、日々目の前で繰り広げられるダンスが全てで、憧れでした。

体調が悪くて高校を休んだ日も、夜のレッスンの時間になると元気になった(ような気がして)スタジオに行っていました。年に1~2回舞台で踊る事が幸せで仕方がなく、きっとこのままの人生がずっと続くと思っていた高校時代 。
しかし高校を卒業した頃、僕の恩師は僕に言いました。
『世界には3歳からずっとダンスを学んでいる人間が山ほどいて、そういう人間が“本物”になっていくんや。
あんたは高校生からやろ?だからいつまでやっても偽物やで。
でも辞めたらあかん。辞めたらただのニセモノ、一生続けたらそれは“本物のニセモノ”になれる。あんたは本物のニセモノになれ。』
18才の僕がこの言葉をどう受け取ったかは定かではないが、混乱と、反発と、敗北感がうねっていたような記憶がある。

□上があるように思う

どうやら僕がやっている“ダンス”というものは、僕が見えている景色だけではなくもっと知らない場所があるようだ。
そして全ての景色はつながっているわけではないようだ。

何が本物なのか、何がニセモノなのか当日の僕はやはり師匠のみている方向をなんとか見ようと。そしてそこが本物のなんだ。僕の絶対に行けない所なのだとおもいながら踊り続ける日々を送っていました。

それからも、色々な方の価値観に従って、影響され。自分のいる場所の延長にはない所。この階段の続きではない“所”がある事を意識し続けて“本物”と違う場所を歩き、それでも幸せを感じる日もありながら踊り過ごした結果。僕はいわゆる“シルク・ドゥ・ソレイユ”に参加していた時でも、僕だけはここにいながらも、違う場所にいてここに参加してしまっているような感覚をもち続けた。

□階段も場所も存在しない

シルク・ドゥ・ソレイユに参加後、アメリカから帰国し日本での生活が始まった時。
ついに自分は何処にも存在しなくなり、上る階段も踊場も見当たらなくなっていった。

そもそも自分の上る階段の先には“本物”は存在しないと思っていた僕だが、1つの階段を上り続けてきたこの事実すら、思い違いだったのではと考える日々がやってくる。
そして今は階段を上っている奴なんかいないと思っている。

どこか敗北感を味わいながら羨ましいがって、上にいるであろう人達をみていたあまり、架空の場所を作り、自分の場所と比較して自分を過ごす事で自分の居場所までが架空のものとなり、自分が何処にも立っていない事に気付いたとき、始めて自分の半径50センチの景色が見え始めた。
「そこには何が見えますか?」「えーと。何も見えません。」の状態である。
何があると信じるあまり、何もない事を異常事態だと認識してしまうことがあるが、そもそも“何もない”から始めるわけだから“何もない”は通常なんです。

半径50センチの景色を変えたいのであれば、穴を掘ればよい。穴を掘ると景色も変わるし、穴の横には掻き出された土が山を作り、1つの作業が穴も山も作る一石二鳥なものとなる。その山を上るもよし、切り崩してみるもよし。自分で掘った穴に埋もれてみるもよし、もっと掘ってみるもよし。
自分の力で掘った穴が深かろうが、浅かろうが、やりかた次第では色々な景色に変える事が出来る。
そこにやりがいを感じるようになると、人の作業や場所は羨ましくもなくなり、妬む事もなくなった。
誰かが穴を掘って掻き出した土が、自分の山に飛んできたら、上ってみたり、切り崩したりしてみと、いつか自分の土になる。いつか憧れた誰かの土が万が一飛んで来て、それがいずれ自分の土になるとき、それは通常の景色となって、嬉しくもなんともないかもしれない。

□負けたから

負けている気がしたおかげで、しっかりと自分を見失い、
上も下もわからなくなって。
始めて穴を掘ろうと思えたんですね。あんまり掘り進む体力がない時も、意外と掘ることに集中出来る時も、ちゃんと自分で感じる事で、出来そうに思う事が広がるんですね。

階段を上り続けていると思っているうちは、どこか他力本願で、言い訳も沢山出来るものです。
その状況では味わえなかったであろう達成感と、自分への敗北感は、わりと心地良く自分の体にしみてきて、明日穴を掘る活力になったり、ならなかったりします。

そんなものです。

ダンス劇作家
熊谷拓明

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