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『踊りを議論する退屈』熊谷拓明

踊り始めておそらく28年。
自分で舞台を創り始めて7年ほど。
今まで多くの方が僕の舞台を観てくださって、色々な事を感じて下さったと思う。
そしてこれからも多くの方々に膨らんで行って欲しいと願っています。
しかしそれと同時に、作品を分かり合う事をすこし嫌って来たように思い、少し書いてみます。

□本番後の居酒屋の憂鬱

半年ほどの時間をかけて初日を迎えた舞台があるとしましょう。そこから3日間5公演に多くの方がいらっしゃり、その中にいた友人や諸先輩方が、愛を持って劇場周辺の居酒屋で待ち伏せして下さり、終演後のキャストと作品論議に花を咲かせる。時には過ぎてしまい、翌日の本番直前まで酒が残る…

よくある話であり、醍醐味でもある。

しかし自分で旗を掲げて公演を始めてから、その醍醐味が少し苦い時間に変化して来たように思う。あくまでも個人的な想いですよ。

お客様「あのシーンの結びはなぜ今日の形になったの?私は絶対に〇〇さんのソロのまま終わった方が良かったと思う。」

作者「そーなんですよ。僕もその線で探ったんですけど、結局の所、〇〇さんのソロがそこまでエネルギーを持てなくてあそこは群舞になりました…僕の力不足です。」

お客様「なるほどー。ならば仕方ないねぇー…」

そして、このお客様は別の飲み会での、"話す事がなくなった時間帯"にこの話題をし始める。
多くの人の記憶に〇〇さんのソロがいまいちエネルギーを持てなかったエピソードと共に、舞台の印象が刻まれる。

実にくだらない。
と僕は思うわけです。

どんな作品にも、踊りにも、必ず「秘密」があるわけで、その秘密を暴く事は踊りそのものを奪う行為になりかねないなと感じるんです。

その理由をつらつらと。

□踊りに潜む秘密

毎日踊ると色々な事が起こります。
僕は身体を動かす事だけが踊りではないと思うので、毎日踊っている事になりますが…この話は少し理屈っぽくなってしまうのでまた違う機会で。

話を戻すと。踊る機会が増えると、毎回が健康な踊りとは限らないという事です。
昨日裏切られた友達への憎悪の塊の踊りを観て、お客様がとても愛に満ちた踊りだった!と感じたらそれはそれで良くて。身体を動かした人間と受け止める人間との間に多くの誤解が生じる事こそが、踊りの面白いところであり、意味そのもののように思います。

それにいちいち答え合わせをする行為は、踊りそのものを否定する事になり、踊りを踊らなくて良くなって、踊りを観なくても済むようになり、劇場や、その場に行く人がいなくなる。
結果として、踊りをこの世から奪う事になりかねない。

わかりやすさが求められ、見えない物や、理解出来ないものが少し面倒に思われる時代になっている事も確かですが、わからない物もある事を我々は知っておく必要があり、それを知る事が「一寸先は闇」の時代を楽しく豊かに暮らすコツになるんでしょう。

話をスケールアップさせすぎましたが、その人その人の黙っている部分が踊りを魅力的にしている事が多々あり、そこを「黙ってないでなんかいいなさいよ」とか「秘密はだめだよ」なんて大声を出さずに、僕は極力静かに感じてあげたいし、感じてほしいと思うのです。

□踊りを論議する退屈

僕。人の踊りは僕極力否定しないんです。
というか、否定する権利も意味もないですから、ただ感じて、今現在の事実として受け止める。
そうすると、ある日急に誰かの踊りがフラッシュバックして、コーヒーが美味しく感じたり、寒いのに温かく感じたりする事がある。
そしたら、その人に「ありがとう」です。

最初に書いたように、舞台の後の談議は好きなように、好きな人がやれば良くて。

それが好きな人は、談議の時間を含めて踊りを感じて、時にはお金を払うわけですから、舞台の上に立つ人間は、時に呑みの場の肴になる事も含めて、お客様に身体と時間を提供するのが役目だと認識して僕は、何かをやって、何かを喋って、スルスル踊るんです。

そして誰かが秘密を持つ事にもそこまで興味がなく、それでいいし、みんなそうだと思っています。もちろん自分の踊りの秘密を話したい人のお話は楽しく聞きますし、楽しく聞くだけです。
それ以上どうする事もできないですから。

「私、すっごく不倫したいんです。心の中では。」って人に、だめだよ!心の中でもそんな事思ったら!って怒らないでしょ。

少しずつ、オフホワイトな事が嫌われる世の中になり、人類みな健全が求めらる風が吹いてますが、そんな時こそ心の中の秘密を、自分だけの合言葉のように紡いだ踊りとして踊り続けるのも悪くないなと思うのです。

今年の7月にはまた新作を上演しますが、
気難しい奴だと思わずに僕にも感想を伝えてください。
その感想を僕が喜んで家まで持って帰るか、
劇場の最寄り駅のゴミ箱に捨てて帰るかかは、
僕の誰にも打ち明けない「秘密」です。


ダンス劇作家/熊谷拓明

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熊谷拓明【ダンス劇作家】15歳より宏瀬賢二に師事。2008~2011、シルクドゥソレイユ『Believe』に出演。850ステージに立つ。帰国後は自身のオリジナルジャンル「ダンス劇」を数多く発表。言葉と踊りに境界線を持たない独自のスタイルを確立させた。『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(振付)、ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017『不思議な森の大夜会』(演出)、 めぐるりアート静岡2019参加作品 『近すぎて聴こえない』(演出)、ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020『パラトリテレビ』(出演)、おうちで見よう!あうるすぽっと2020夏『おはなしの絵空箱』(出演)、『ぼくの名前はズッキーニ』(振付)、『染、色』(振付)など。

公演情報やワークショップ情報、過去作品のアーカイブ等↓odokuma.com

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