大江ラベル

小説を書いたりしています。商業作品、自力なインディーズ作品があります。noteでは短編…

大江ラベル

小説を書いたりしています。商業作品、自力なインディーズ作品があります。noteでは短編や中編、ときどき日常のことなんかをアップしています! https://labeloe090.wixsite.com/mysite

マガジン

  • 短編小説|掌編小説

    おぼろげな夢の記憶を脚色したり、眠れない夜にしたためたもの、音楽にインスパイアされた物語など、さまざまなジャンルの短編・掌編を集めているマガジンです。気まぐれに増やしていきます。

  • 茶飲みともだち

    男女の友情はある説。友達以上でも以下でもないスナとミイの、10歳からはじまる短くて長い物語。【一話(前・後編)完結形式/不定期更新】

  • 幻想鉄道奇譚

    【完結】人生のすべてをかけた夢を捨てていく、手放しの物語。全45話

最近の記事

KDPで出版してみた。

一度はやってみたかったこと。 なんなら2010年頃からやってみたかった Kindle ダイレクト・パブリッシング。 とはいえ当時は電子書籍にする方法がPDFしかなかったり、EPUBにするにもなんだかとっても難解で、『簡単!電子書籍を出版しよう!』みたいな本も何冊も読んだものの挫折。 泣く泣くそのまま、宇宙の彼方に夢を飛ばしたのでした。 あれから10年超え。 素人には超絶難解だったかつての夢も、令和の現在ではめちゃくちゃ簡単に叶ってしまいました。恐るべしときの流れです。アマゾ

    • [掌編]最後かもしれないラムネのこと

       夏の花火大会は、海岸でおこなわれる。  人口二万人ほどの小さなまちでの大会を楽しみに、人びとが港に集まる。出店もつらなり、北国の田舎の高校生にとっては夏休みを彩る大きなイベントだ。  ひゅうっと音をたてて、闇にひと筋の煙がたちのぼる。瞬時に弾けた大輪の華は、ちょうど私が自転車をこいでゆるやかな坂道をくだり、港に着こうかというとき夜空で咲いた。 「ヤバ、はじまった」  バイトのせいで、待ち合わせに遅れてしまった。私は自転車をいったん停めて、急いでユリちゃんにLINEする。

      • 1987:さよならのハニー&レモン[後編]

        (連作短編「茶飲みともだち #07)    秋は文化祭の季節である。  さいはての小さなまちに暮らすしがない公立高校生にとって、文化祭は人生のすべてを賭けた一大イベントだ。普段は冴えないやつが突然ステージ上で輝きはじめ、全校生徒六百人の頂点に君臨することだって、けっして夢ではないはずだった。  ほんの、数週間前までは。 「お好み焼き、どーっすかー」  教室前の廊下をうろうろしながら、ジャージに花柄エプロン姿のマサがやる気のない声で呼び込みをする。僕も同じスタイルで、通り過ぎ

        • 1987:さよならのハニー&レモン[中編]

          ([連作短編]茶飲みともだち:#06)    ノーザン・カウンシル。僕らのバンド名だ。  文化祭のバンドリストに登録し、放課後は毎日三宅家を訪れ、倉庫で練習をした。コピーする曲を何度も聴きなおし、修正するを繰り返す。マサは歌詞カードの英語にカタカナをふりながら、とにかく耳で覚えていった。キーボードと管楽器のメロディラインをカバーするのは無理があったものの、なんとなくかみあったり形になってくると、どうしようもなく胸がおどった。  たったの三曲。でも、偉大なる三曲だ。  そんな

        KDPで出版してみた。

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        • 短編小説|掌編小説
          7本
        • 茶飲みともだち
          7本
        • 幻想鉄道奇譚
          45本

        記事

          1987:さよならのハニー&レモン[前編]

          (連作短編「茶飲みともだち」#05)  秋は文化祭の季節である。  さいはての小さなまちに暮らすしがない公立高校生にとって、文化祭は人生のすべてを賭けた一大イベントだ。ずっと平凡に思われていた女子が眼鏡からコンタクトに変えて、おニャン子メンバーに引けを取らないかわいさであったことが知られ、男子の間で争奪戦が繰り広げられることはよくある話。だから、普段は冴えないやつが突然ステージ上でギターをかきならし、全校生徒六百人の頂点に君臨することだって、きっと絶対によくある話。けっして

          1987:さよならのハニー&レモン[前編]

          [短編小説]魔法使いの山登り

           地を見てもきりがなく、天をあおいでもきりがない。  どれほどの間この山を登り続けているのか、自分でももうわからない。ただ、たしかなことは、黒かった髪もひげも伸びて白くなり、すっかり老いたということだ。  ドラゴンの棲まうこの山は、魔法がいっさい通じない。それを使わず頂上に立つことができれば、魔法使いの頂点である〈大魔法使い〉になることが叶う。いにしえから言い伝えられているその伝説を、実行にうつす若者はあとをたたなかった。しかし、たいていの者はそうそうにあきらめ、山をおりる道

          [短編小説]魔法使いの山登り

          [短編小説]これは恋じゃない

             毎週金曜日の夜は、『暗黙の了解ナイト』だ。  どちらからともなく連絡をとりあって待ち合わせ、デパ地下やコンビニで惣菜とビールを買い、僕の部屋で映画を見る。壁に大画面を映すプロジェクターとコーヒーテーブル、人をダメにするソファしかない僕の部屋に来るたび、十年来の友人は苦笑する。 「またなにか捨てたでしょ」 「捨ててないよ」 「ほんと? 間違い探しするよ」 「いいよ」  僕がテーブルに今夜の食事を広げてプロジェクターの調節をしている間、彼女はあちらこちらを探りまわる。やがて

          [短編小説]これは恋じゃない

          [掌編小説]踏みしめて変身せよ

           今日、仕事を失った。  どうにもならない世界の動きに苛立ったところで、私の仕事が戻るわけじゃない。とにかく、失ったものは失ったのだ。  心のどこかで覚悟はしていた。でも、それはこの先の「いつか」のことで、今日じゃなかった。それに、もしかするとただの悪い予感で終わるかもしれないと、たかをくくってもいた。  長く勤めたデザイン事務所の主な仕事は、観光業に関するものが多かった。残業続きが定時になり、自宅待機になって、自分で自由に仕事をしていいと言われ、久しぶりに出社するなり「解散

          [掌編小説]踏みしめて変身せよ

          [掌編小説]つめたくはない

           小さな窓から西日がさすころ、毎日あなたはやってくる。  屋根裏の部屋が橙色に染まるときを待ち、私は誰に見せるでもない文章を書く。やがて、かすかにドアをこするような音がたつ。私は椅子から腰をあげ、鏡に映るやせ細った青年の髪を手でととのえ、笑顔をつくってドアをあける。  はにかむようにあなたは微笑み、籠にかかるナプキンをとって、売れ残りのパンを私にくれる。私はありがたく両手で受けとり、礼を告げる。あなたはどこかさみしげな目で私を見つめ、また明日きますと去っていく。  私はドアを

          [掌編小説]つめたくはない

          [短編小説]フェニックスの尾

           週末、母が倒れた。認知症の祖母の世話による過労だった。  姉からその連絡があったとき、私は上田さんと口喧嘩の最中だった。  きっかけは、パスタを茹でるために入れる塩の量だ。多いだの少ないだのといった他愛のないやりとりが悪化して、それなら自分で作ればいいじゃないのと癇癪を起こした私は、茹でているパスタをお湯ごと流し台へ放った。 「そこまですることないのに。悪かったよ。ごめん」  苦笑する上田さんに、あなたのせいだと内心で悪態をついた瞬間、いつもの悪い癖が頭をもたげてきた。男性

          [短編小説]フェニックスの尾

          [短編小説]彗星一景

          一 <それ>は、忌み嫌われていた。  大名屋敷でも飼われるほど、猫は福を呼ぶとされてかわいがられており、野良などほとんど見あたらなかった。いたとしてもだれがしかが餌を与えたり、かわいそうにと連れていくから、野良として人びとに無視されてほうっておかれた猫は、孤独のまま老いていく。<それ>もそのような猫である。なぜ忌み嫌われていたのかといえば、尾が蛇のように長かった。尾の長い猫は百年生きる、あやかしの類い、化ける猫。  だから、<それ>を見かけた者はみな「くわばら、くわばら」と顔

          [短編小説]彗星一景

          1984:海と花火と流星のシトロン[後編]

          (連作短編「茶飲みともだち」#04)  村井先生の家に来たのは、半年ぶりだ。  習字教室は二年前から閉められていたのだが、僕はときどき訪れていた。奥さんが出してくれる手づくりのお菓子と、ココアなんかの飲みものも目的ではあったけれど、先生と話すことが楽しかったからだ。  家族とも、学校の友達や先生とも違う。美しい字を書いて、質問すればなんでも答えてくれる先生は僕にとって、漫画や小説に登場する大魔法使いみたいな存在だった。  それになにより、数年来の茶飲みともだちでもある。  

          1984:海と花火と流星のシトロン[後編]

          1984:海と花火と流星のシトロン[前編]

          (連作短編「茶飲みともだち」#03)  人口約二万人。北国のさらに北のさいはてのまちにも、肌寒い夏が訪れた。 「明日から夏休みです」  杏色のジャージ姿で市立病院を訪れた僕は、ベッドに横たわっている人物に向かって、もらいたてほやほやの成績表を広げる。 「全科目、ほぼ三です」  小学生のころから通っている習字教室の村井先生は、顔をくしゃりとさせて笑った。 「とても立派です」  先生はすっかりおじいちゃんなのに、ずっと年下の僕にも常に丁寧な言葉で接してくれるのだ。 「ありがとう

          1984:海と花火と流星のシトロン[前編]

          1980:最強戦士の休息ココア[後編]

          (連作短編「茶飲みともだち」#02)  朝、なんとなく一緒に登校するようになった。  いつも渋谷トモミが早く、僕が遅く家をでていたのだが、どちらからともなく時間をずらすようになり、やがてお互いの距離が百メートルという僅差にまでなった。そうして、肌寒い日が増えてきたころ、とうとうお互いが並ぶ時間差になった。 「……うす」  無言もおかしいので、なんとなく挨拶をする。 「うす」  渋谷トモミはにこりともせず、ミントの香りを漂わせるガムを噛みながら言った。  へんなやつだ。辛くて

          1980:最強戦士の休息ココア[後編]

          1980:最強戦士の休息ココア[前編]

          (連作短編「茶飲みともだち」#01)  市役所勤めの父とスーパーでパートをしている母、五歳年下の妹というごくごく平凡な団地住まいの我が家にとって、金髪の若いシングルマザーはかなりのインパクトがあった。 「隣に越してきた渋谷です。栄町の美容院で働いておりますので、お気軽にいらしてください。あと、よろしければこれ、どうぞ」  派手な風貌は美容師だからかと納得した僕の母は、都会でしか手に入らない箱菓子に気を良くし、「砂川です。こちらこそよろしくおねがいしますね」と、手放しで歓迎し

          1980:最強戦士の休息ココア[前編]

          幻想鉄道奇譚 #45

           がたたん、ごととん。がたたたん、ごとととん。  車窓の故郷が遠ざかっていく。  自由だという思いと心細さがいっきに押し寄せてきて、何度も何度も嘆息する。すると、 「どちらまで?」  前の席に座っている老夫人に訊かれた。エイダンはおずおずと答える。 「サウスシティです」 「それはまた遠いこと! お仕事ですの?」 「いえ、あの……大学に進学するんです」  夫人の隣の老紳士が、眩しそうに目を細めた。 「ほう? なにを学ぶのですかな?」 「その……エーテル修復です

          幻想鉄道奇譚 #45