見出し画像

エミリの小さな包丁

恋人に騙され、仕事もお金も居場所さえも失った25歳のエミリ。15年ぶりに再開した祖父の家に逃げ込んだものの、寂れた田舎の海辺の暮らしに馴染めない。
そんな傷だらけのエミリの心を救ったのは祖父の手料理と町の人々の優しさだった。カサゴの味噌汁、サバの炊かず飯。家族と食卓を囲むというふつうの幸せに触れるうちに、エミリにも小さな変化が起こり始め……胃袋からじんわり癒される、心の再生を描いた感動作!


この本をおすすめしたい人

・田舎気分を味わいたい方
・頑張るのをひと休みしたい方
・お料理を楽しみたい方、お魚好きな方

おすすめの読み方

ゆったりとした田舎の生活に深い学びが散りばめられているので、ご自身の人生を楽しみながら、ひと休みしたいタイミングで繰り返し読み返す1冊に。
物語としておもしろいのはもちろん、お魚レシピのちょっとした参考にもなります。


感想

「この本、離島で暮らすまきちゃんに読んでみてほしい」
と、旧友に勧めてもらった1冊。

(長崎の五島列島が好きすぎて、2021年から福岡市と五島市で2拠点シェアライフをしています、アラサー女のまきこです。こんにちは。)


冒頭のあらすじだけを読んだときは
「ほう。ちょっとヘビーなお話なのかな?」
っていうのが、率直な感想でした。


でも、そうじゃなかった。


これは、海辺の田舎町のリアルな物語。


のびやかな風景、静けさ
大潮の満潮
堤防での魚釣り
潮騒、潮のにおい
流れ星
トンビの歌声
カサゴの味噌汁
アジのなめろう


耳慣れたフレーズ、島に暮らして覚えたお魚の名前、共感しかない主人公の感情変化に、リアルな田舎の情景が浮かびます。


さて、この場所には、いったいどんな人たちが暮らしているのでしょう?


まず登場するのは、主人公エミリのおじいちゃん。
決して饒舌ではないのだけど、渋い声で丁寧に語る人。ポイントポイントで心に響く、書いて残しておきたくなるような名言を与えてくれます。

小さな町なので、日常で登場するのもだいたい同じメンバー。
頻繁に会うからといっていつも深い話をするわけでもなく、ただそれぞれに心地よい時間をくれて、実はそれぞれに温かい目線でエミリのことを見守ってくれてるんです。

噂話がすぐに町中をめぐってしまうところも、良くも悪くもリアルでした。笑




おじいちゃんが教えてくれた、釣れたてのお魚をさらに美味しくするひと手間には、真似したいヒントが散りばめられています。


「丁寧な暮らしをしていてすごいなぁ」

島に暮らす前の自分ならそう感じただろうけど、実際、釣れたてのお魚や収穫したてのお野菜を前にしたら、丁寧に向き合わずにはいられないし、どうやったって間違いなく美味しいんですよね。




どこを切り取っても自身の島暮らしに共通することばかりで、 (まだまだ新米な島暮らし2年生ではありますが) 初心にかえった気持ちで読ませてもらいました。



心に大きな傷を負い、唯一の選択肢としてこの町にたどり着いた主人公のエミリ。
はじめは、今までとちがう環境に馴染めずにいるのですが、そこで1日1日積み重ねていく暮らしの中で、スパルタに一念発起するのではなく、じんわりと少しずつ浄化された心をもって、再び自分の足で立ち上がります。


エミリと形はちがっても、大なり小なり、心に傷を抱えていたり、糸が絡まった状態にある人はたくさんいると思うんです。
だからって誰もがみんな、ホイッとすぐに田舎に飛んで行けるわけじゃない。


そんな時にこの物語があれば、その空気を少しは体感してもらえるのかもしれないなって感じました。




わたしは、noteにこんなマガジンを作るくらいには読書好きで、だけど持ち物は増やしたくない方で。
だから、小説は1度読んだら自分のもとから手放すことがほとんどなのですが、久しぶりに、手元に置いて繰り返し読み返したいなぁって思える1冊に出会えました。


田舎に暮らす人、都会に暮らす人。
いろいろな町に暮らす友人たちがこの物語に出会ったら、それぞれにどんな感想を持ったのか、ぜひ聞いてみたいと思います。


この記事が参加している募集

読書感想文

わたしの本棚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?