笹鳴葉 雫月

小説家

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だから、

「だから、雨の日は洗濯しないでっていつも言ってるじゃない!」 まただ。 「あたし部屋干しが嫌いなの、知ってるでしょ?」 ブラウスのストックが残りわずかだったからと、気を利かして洗濯機を回していたところに怒号が飛んできた。明日の朝、着るものがなくて出勤前に慌てるのはどこのどいつだよ……。そんなことを面と向かって言えるはずもなく、俺はうなだれながらいつものように、 「あ、ごめん」 とだけつぶやいた。聞こえているかは分からない。 同棲を始めて半年が経つ。 二人の生活、

    • 今にも振り出しそうな夜に

      いつも訪れる石垣があった。 さきほどからぽつりぽつりと雫があたり、ごつごつした岩肌にかすかな線を描いていった。 ため息まじりに、その折り重なる岩を見つめながら彼女は言った。 「また会ったね」 彼女はここを知っている。 彼女はここにあるものを知らない。 いくつにも折り重なる模様を眺めながら、彼女は探している。 ここにある何かを。