大原則

「あなたの知らない」マーケティング大原則(と「次世代UX」)

このnoteは世界的優良企業の事例に学ぶ「あなたの知らない」マーケティング大原則の感想及び推奨ポイントと新たな視点としての「次世代UX」について、マーケティングに興味のある方にご紹介するものです。

自己紹介

株式会社秤 代表の小川と申します。セールスプロモーション業界で4年、広告会社の営業とプランナーとして10年、PRとデータ分析を軸にしたコンサルティング支援3年と、戦略から戦術まで幅広く関わってきました。電通グループ在籍時にリサーチに伴う多変量解析や数理モデルなど「マーケティングサイエンス」を学び、「Excelでできるデータドリブン・マーケティング」を出版しました。

マーケティングROIを定量化し予算配分の最適化を行うマーケティング・ミックス・モデリングを中心に、データ分析の演習で統計や因果推論の基礎的な知識を知ることができる書籍です。

宣伝会議「マーケティング分析講座」の講師もしています。

広告代理店で右脳寄りなマーケティング支援を行い、左脳寄りなデジタルマーケティング及び戦略支援にシフトしたことで得た経験と「データ分析の元素人」の視点を活かし、データサイエンスになじみのないマーケターの皆さんに分析の活用法を教えています。


世界的優良企業の事例に学ぶ「あなたの知らない」マーケティング大原則

この書籍は、豊富な実績がある2人のマーケターによって書かれたものです。著者プロフィールをAmazonから引用します。

足立光氏 (あだち·ひかる)
(株)ナイアンティック シニアディレクター プロダクトマーケティング (APAC)。P&Gジャパン(株)、シュワルツコフ ヘンケル(株)社長·会長、(株)ワールド執行役員などを経て、2015年から日本マクドナルド(株)にて上級執行役員·マーケティング本部長としてV字回復をけん引。18年9月より現職。(株)I-neの社外取締役、(株)ローランド·ベルガーやスマートニュース(株)のアドバイザーも兼任。著書に「圧倒的な成果を生み出す『劇薬』の仕事術」、「『300億円』赤字だったマックを六本木のバーの店長がV字回復させた秘密」。訳書に「P&Gウェイ」「マーケティング·ゲーム」など。オンラインサロン「無双塾」主催。
土合朋宏 (どあい・ともひろ)
一橋大学大学院商学研究科卒業。外資系戦略コンサルティングを経て、日本コカ・コーラ(株)に入社。16年間マーケティング本部で、世界初のライフスタイルやトレンドの調査部門の立上げ、ファンタ、アクエリアス、爽健美茶など既存ブランドの立て直し、綾鷹などの新製品開発などを指揮。その後20世紀フォックス ホームエンターテイメントに移り、代表取締役社長を務め、2017年より外資系映画配給会社で事実上のCMOとして全部門のマーケティングを統括。新市場創造型商品を研究する日本市場創造研究会の理事を歴任。訳書に「マーケティング·ゲーム」など。

二人の筆者の豊富な経験と知識をもとに、「学術的研究」の視点からでは言及されないリアルな「マーケティングの大原則」を事例を交えて紹介しています。PART1~PART4の構成で、マーケティング活動のために有用な知識を網羅しています。

【PART1】マーケティングの基礎( 戦略的コンセプト/マーケティング戦略/ アイデアの創造/消費者理解/新製品開発/話題化)
【PART2】基本的製品戦略( 価格設定/ 製品ミックス/パッケージ/ 流通戦略)
【PART3】消費者コミュニケーション(良い広告とは/広告代理店との付き合い方/TVなど既存のマスメディア/ソーシャルメディア⁄オンライン・メディア/戦略的PR)
【PART4】販売促進・その他のマーケティング活動(消費者プロモーション/戦略的提携/協賛/イベント活動)
※Amazonの「商品の説明」にある章立てを元に編集

西口一希氏 (元スマートニュースマーケティング執行役員)、味澤将宏氏 (元Twitter Japan広告事業本部長、フェイスブックジャパン代表取締役)、佐藤カズー氏 (TBWA⁄HAKUHODO)、本田哲也氏 (元ブルーカレントジャパン代表、「株式会社本田事務所」代表取締役)のインタビューと著者二人の対談コラムが盛り込まれており、第1線で活躍するマーケターのリアルな意見に触れ、より理解を深めることができます。事業者マーケター目線で書かれていますが、支援する立場の方にも役に立つ知識です。

注目すべきは、「それはやってもあまり意味がない、または効果的ではない」ことについて具体的に言及していることです。例えば、下記です。

どこの企業も、ネット上のリアルの消費者IDを結び付けて、最適なタイミングで、最適なオファーを、最適な顧客にするというマーケティングを実行するために努力しています。でも、こうしたデータドリブン・マーケティングだけで消費者のことが理解できるでしょうか。答えは「ノー」です。 (以上:第4章「消費者理解」84Pより引用)

また、一般論としてではなく、「本質論としてあらかじめ分かっていること」も明確なスタンスで言及しています。

ソーシャルメディアはすべて同じだと理解している方もいるかもしれませんが、数あるソーシャルメディアのなかで、実は構造的に話題化できるのはツイッターしかありません。他のソーシャルメディア、たとえば、フェイスブックやインスタグラム、LINEもコミュニケーションツールですが、ほとんどの方は「いいね!」はするかもしれませんが、読んだ記事や意見を「シェア(共有)」することはごくまれです。つまり、それらのソーシャルメディアでは話題の拡散(話題化)は難しいのです。(以上:第6章「話題化」131Pより引用)

私は支援する立場ですが、戦略策定からマスを使った広告コミュニケーション、PR・デジタルマーケティング、データ分析まで広範な実務経験があります。コンサルティングの際にやってもあまり意味がないことやあらかじめ分かっていることをアドバイスすることはありますが、仮に「学術的研究」の視点からでは言及されないリアルな「マーケティングの大原則」について言及し出版するとしたら怖気づいてしまいます。自らの経験や知見を整理してマーケティングの大原則として言い切る自信と勇気が足りないからです。

豊富な実績を持つ2名の著者が言及するリアルがこの書籍の最大の価値だと思います。

平易なことばで事例と共に書かれていて非常に分かりやすいです。マーケターのための明快で痛快な論考です。重鎮のおふたりとはいえ、それでも起こり得るクレームなど多少のリスクを織り込んで出版頂いたのではないでしょうか?日本のマーケティングを良くしたいという著者の想いを感じます。すべてのマーケターにオススメしたい書籍です。

私はマーケティングサイエンス(統計や多変量解析や因果推論など)を学び、マーケターに教える活動もしています。日本のマーケティング組織の意思決定を確からしいものに底上げすることに貢献したいと思っています。教える活動で学んだ視点も生かしてこの書籍の知識を活用するヒントを提供したいと考えました。

本noteでは本書【PART1】「マーケティングの基礎」の各章について、私の感想、参考文献(私が書いた過去のnoteも含む)を交えて紹介します。

【PART1】マーケティングの基礎より

※以下については各章の内容を参照し、私の主観をもとに抜粋し再編集したものであるため、著者の意図を忠実に再現できていない可能性があります旨、ご承知おきください。

1章: 戦略的コンセプト

筆者はマーケティングは、製品やサービスも、ブランドも、それをどう消費者に伝えてコミュニケーションしていくかも「全て一緒に考える」ことが重要だと述べています。そのためにはどうすればいいか?最も重要になるのはコンセプトであるとし、代表的なコンセプト開発のフレームワークとしての「ABC」を紹介しています。たとえば、ファミリーカー向けのタイヤのコンセプトであれば、①ターゲット消費者(Audience)は「幼い子どもを持つ両親」で、②消費者便益(Benefit)は「〇〇タイヤは愛する人の命を守るために最も安全なタイヤである」③説得力のある信じる理由(Compelling Reason Why)は「2層構造の〇〇タイヤはどんな機構条件でも道路をしっかりとらえるため、事故がおきにくい」といった具合です。

「全て一緒に考える」ために進化させた5つの要素からなるABCDEの戦略的コンセプトも紹介しています。

A:Audience(ターゲット)
B:Benefit(消費者利益)
C:Category(カテゴリー)
D:Point of Difference (差別点)
E:Emotional Character(トーン&マナー)

カテゴリーは、ドメインやジャンルとも言い、ライバル(競合)は何かというポジショニングに関わる要素です。たとえばマクドナルドなら、カテゴリーを「サンドイッチ系のファーストフードとすれば、競合は「モスバーガー」や「KFC」となりますが、実際の競合はそうではなく、大きな競合は、コンビニや街の中華料理店や回転寿司などになります。「消費者が何をどう選択しているか」という顧客視点から何と競合しているのかを的確に見極めることが重要です。差別点は、ターゲットに対して訴求する製品・サービスの便益が他より優れていると、消費者に信じてもらえる要素です。たとえば「名探偵コナン」をおもしろいと推進するのには、「子どもの気持ちを代弁する子どもが主役であること」がいいでしょうし、「007」なら世界を飛び回って活躍するアクションシーンかもしれません。洗剤などでは、「新しい成分が、衣類の繊維の億まで浸透」といった要素になります。トンマナ(トーン&マナー)は、商品や広告のデザインのクリエイティブでよく使われる言葉です。たとえば同じサスペンスであっても「名探偵コナン」のTVCMと「007」のテレビCMのトンマナは全く違います。画像や動画があふれる現在では、ブランドとしての製品のパッケージやPOPから、ウェブサイトやコミュニケーションまで一貫性を持たせるためのトンマナの設定が重要です。デザインの方向性だけにとどまらず、音楽や雰囲気などを含む全体的な要素を定義して、共通認識にしていくためものものです。

ブランドパーパスというブランドの「目的」の設定も重要です。P&GのグローバルCMO(最高マーケティング責任者)を長く務めたジム・ステンゲルは、ブランドパーパスの重要性を盛んに唱えており、それは「このブランドは何のために存在しているのか」「なくなったら何が変わるのか」というブランドの存在意義や提供価値にかかわる問いに対する答えとしています。たとえば、P&Gの「パンパース」のブランドパーパスは「赤ちゃんの笑顔」です。それは同時に「お母さんの笑顔」を意味しているため、同ブランドのマーケティング担当者の仕事は赤ちゃんとお母さんを笑顔にすることとなります。こうしたことを明確に規定しておくことで社長を含めた全社員がその大枠にそぐわないことをしなくなり、意思決定の「正当性」を判断する規範となり、意思決定がブレにくくなります。

【感想】現状、担当者がそれぞれ異なるなどの理由などから、戦略コンセプトがバラバラに考えられていたり、ブランドパーパスがないことで、「全て一緒に考える」ことができている組織は少ないのではないでしょうか?

2章:マーケティング戦略

インタビューで詳しく紹介されている西口一希氏の著書「たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング」

の9分割のターゲットセグメント手法を用いた例によって、今のユーザーの使用頻度や購買頻度を上げることだけでなく、同時に使ったこと・買ったことはあるけれど今は興味がない人達、知っているけれど使ったこと・買ったことが無い人となち、そもそも知らない人たちという一番大きいセグメントに働きかけることがマーケティングの基本であり、どんな製品・サービスでも常に「ユーザの新陳代謝」が必要であるとしています。

また、一般的に季節限定品などの販促品より、レギュラー品のほうが収益性が高く、そちらを伸ばしたほうがビジネスが安定します。例えば、マクドナルドでいえば、新製品で「てりたま」が出ようが、「チキンタツタ」が出ようが、自分はビッグマックやダブルチーズバーガーしか食べない、フィレオフィッシュしか食べないというお客様がたくさんいて、そういうファンが多いほど新製品や話題に関係なく買ってもらえるのでビジネスは安定します。レギュラー品は、話題化できないから売上が伸びないというマーケティング担当者からよく聞く言い訳は間違えであり、「2分で、うまい」のCMを話題にしたり、うまくキャンペーンをしている日清食品の「カップヌードル」や、定期的に話題化のネタを作ってキャンペーンを打ちロングセールとなっている「ビッグマック」を例に挙げています。

他にも、差別点の打ち出し方で市場での戦い方をゲームチェンジさせ、マーケットリーダーを切り崩した例も示されています。1990年代の日本の紙おむつの事例では、当時マーケットリーダーだった「P&G」のパンパースは「(尿が)漏れない」という便益を訴求し続けていましたが、各社の製品の機能が上がり、その機能は大きく差別化できない要因となっており、パンパースはその便益でトップシェアとなっていたため、それを変えることができなかったそうです。そこで業界2位のムーニーは漏れないに加え、「コンパクト(場所をとらない」という訴求を行い、3位のメリーズは漏れないという訴求を取りやめ、「肌にやさしい」というそれまでのおむつ市場にない便益を打ち出しました。漏れないという基本機能をほとんどの商品が満たす中、「コンパクト(ママ目線)」とか「肌にやさしい」が訴求された結果、パンパースは大きくシェアを奪われました。コンパクトというのは赤ちゃんに全く関係ありませんが、しまっておくスペースが少なくて済むのは、間違えなくお母さんの便益となります。「漏れない」「肌にやさしい」という便益が一緒なら、圧縮されてコンパクトな商品のほうを喜ぶはずです。実際に製品・サービスを使用する際の便益以外にも、便益が存在し、それをどのように設定するか?によってゲームチェンジをもたらすことができます。

【感想】マーケティングとは、砂漠で砂を売らなければいけない、海で海水を売らなければいけない仕事であり、便益や差別化として何をどのように訴求するか?誰に何を伝えたら伸びるのか、諦めることなく追及し続けるべきだという話が印象的でした。どんなコンディションであっても売り方を考えることができるマーケターを目指す、言うは易しですが、簡単ではありません。マーケティングの仕事とはそういうものだと教わった気がして身が引き締まりました。

3章:アイデアの創造

筆者がいろいろな分野のクリエーター100人ほどに、「どうやってアイデアを作り出していますか?」という調査をした時のことが書かれています。それでわかったのは、それぞれのやり方に違いがあるということですが、いくつか共通のパターンも見つかりました。最大の共通点は、結局のところアイデアとは、「異なったもの同士の結合、組み合わせである」ということです。ブレイン・ストーミング(ブレスト)の活用や、KJ法(文化人類学者の川喜田二郎氏が考案した情報の整理法)、キーニーズ法を紹介しています。

マーケティング担当者は、自分の好きなもの、あるいは自分が面白いと思ったり人々がおもしろいと言ったりするものについて、必ず「それは、なぜおもしろいと思うのだろう?」と考える癖をつけることを推奨しています。これは優秀なマーケターに共通する習慣です。自分が何かを買ったり見たりして楽しんだあとに、「何でこれを買ったんだろう?」「何でこれを見たんだろう?」と客観的に理由を分析し、自分なりに整理することで「なるほど、こうだったからおもしろいと思ったんだ」とか「ここと、ここと、これが組み合わさるとおもしろいんだ」といった具合に、骨組みや構造、ルールといったものが見いだすことが重要です。

【感想】筆者はあるクリエーターから「濡れた雑巾をギューッって絞ると水が出る。絞り続けると水が出なくなる。でも、そこからさらにググッと絞ると、2滴ぐらい出る。そこまでやるのがアイデアを作ることだよ。」と教えられたそうです。結局、いいアイデアが簡単に出せるわけはなく、ものすごい量をしつこく考えて発想し続けることが重要だということです。とはいえ仮説力やアイデア発想を行うためのトレーニングをどの様に行うか?特に若いマーケターの皆さんは最短で効率の良い方法を知りたいと思います。下記の「仮説力を強化するバックフローシンキング」noteはそうした方のために私が考える最良の方法をまとめました。参考になれば幸いです。


4章:消費者理解

マーケティング活動では消費者を理解するために、いろいろな調査をしますが、その際に重要なの「何のために何を知りたいか?」を明確にすることです。筆者はそうした目的や仮説をしっかり立てずに調査を実施していることが多いことについて言及し、マーケティング担当者が関わる調査の9割は、おそらく仮説を調査するための検証であるにも関わらず、自分なりの仮説が持っていない人が多いことを指摘しています。

【感想】調査や分析は主に、仮説検証型と仮説探索型に分かれますが、後者のほうが、その分析にかけたリソースに対してリターンを得られる可能性は低くなり、そうした観点での難易度は高くなります。それぞれ分析で知りたいことは何か?によって変わるのが分析のデザインです。例えば回帰分析も予測か推定(施策による売上などへの影響を定量化する)か、どちらに軸足を置くかによって変数の選択やモデル(分析結果)の選択の方針が変わります。仮説がない/分析のデザインを知らない、こうしたことが、マーケターが行う調査や分析による意思決定を確からしさがないものにしています。仮説や分析のデザインが弱い状態で取り組まれるデータドリブン・マーケティングの中には不毛なプロジェクトも多いです。本noteの冒頭で「こうしたデータドリブン・マーケティングだけで消費者のことが理解できるでしょうか。答えは「ノー」です。」というコメントを参照していました。

【再掲】どこの企業も、ネット上のリアルの消費者IDを結び付けて、最適なタイミングで、最適なオファーを、最適な顧客にするというマーケティングを実行するために努力しています。でも、こうしたデータドリブン・マーケティングだけで消費者のことが理解できるでしょうか。答えは「ノー」です。 (以上:第4章「消費者理解」84Pより引用)

筆者がそう書いたのはなぜでしょうか?インサイト洞察に強みを持つデコム社のデータサイエンティストの松本健太郎さんのnote「データデータデータデータデータデータ」って聞き飽きたのでなんとかしたい」も読んで頂くと、より、その意味が分かると思います。


5章:新製品開発

筆者は新しい製品やサービスを考える時は、今自分が関わっているビジネスから一旦離れて考えることが重要だとしています。「自分のビジネスを脅かすものは何か」という視点で常に世の中を見ていくことです。大人用紙オムツのアテントは、日本初の大人用紙オムツとして1984年に発売され大ヒット製品となっていましたが、1990年代前半に後発のユニ・チャームが「ライフリー」のブランドで尿取りパッドをヒットさせました。紙おむつの中に尿とりパッドを使うことで、紙おむつを取り替えなくても、尿とりパッドだけを取り換えればよくなったので、尿漏れの程度が小さいのに、大きいゴワゴワしてつけ心地の悪いかみおむつをじゃまに感じながら仕方く使っていた人たちと、介護する側の人たちのニーズを的確に捉えて大ヒットしました。既存品の大人用紙おむつの使用頻度や売上は落ちました。こうしたニーズがあることは自明でしたが、アテントは今自分のブランドを支えている大人用紙おむつの売上が減ることを恐れて、尿とりパッドの開発が遅れたのです。(アテントは2007年に大王製紙に譲渡されるまではP&Gが製造・販売)「自分のビジネスを脅かすものは何か」を常に考えていれば、アテントは先に尿とりパッドを市場投入できて成功できたかもしれません。

マーケティングの現実では、長期的視点になった新商品の開発よりも、今この瞬間の勝ち負けを競う新商品の開発に携わっているマーケティング担当者が多いと思います。そのためにすぐ役立ちそうな戦略立案の手法として、競合に勝ちぬくためのウォー・ゲーミングという手法も紹介しています。戦略を立てる時に、自社視点だけではなく、「競合が何をやられたら一番嫌か」を競合視点から考えるという、コンサルティングではおなじみの手法だそうです。(私は知りませんでした。勉強します!)マクドナルドは喫茶店で1杯数百円以上はしていた珈琲市場に「100円」で参入して、大成功を収めました。喫茶店がやられたら嫌なこと、主力で利益率の高いコーヒーを安く提供されることを実行し、マクドナルドは「カフェ使い」という新しい顧客層を獲得しました。それに目をつけたコンビニは後発で「コーヒー100円」を大々的に開始し、マクドナルドのシェアを大きく奪いました。マクドナルドのコーヒーは作り置きで忙しさのピーク時に一杯ずつ作って提供するようなオペレーションは不可能ですが、コンビニはお客様が「一杯ずつ抽出する」できた感を提供できます。マクドナルドが絶対にマネができないポイントでお客様に説得力をもたせたのです。

P&Gが行ってきた外部から製品やアイデアそのものを買う「サーチ・アンド・リプライ」という戦略や、ネーミングというコミュニケ―ションについても紹介しています。今日においては「全て一緒に考える」ことが重要です。「こんなコンセプト・ネーミングの製品・サービスがほしい」と最初に決めて、それに合った製品・サービスを開発し、それに合った売り方をする一貫性のあるマーケティングとして、マクドナルドの「チキンタルタ」の事例を紹介しています。「チキンタツタ」は根強い人気があり、何度も期間限定で復活販売されていました。チキンタツタはさっぱりした味付けなので、ガッツリした味付けを好むお客様は物足りなさを感じていため、こってりした新アイテムを同時に販売し、「どっちがおいしいんだ?」という対立構造を作って話題化しようという最初のアイデアが生まれました。そうしたこってりした新商品の候補のひとつがタルタルソースを使った製品でした。「それなら、チキンタツタに対して、チキンタルタだ」と覚えやすさや語感のよさで先にネーミングを決めてから、そのネーミングでコンセプトテストを行い、「タツタ対タルタ」という対立構造のキャンペーンを開発しました。どのように話題化するか(対立構造)を先に決め、それにあった製品の方向性(こってり)を定め、候補の中から「タルタ」のネーミングを決め、製品とコンセプトを再集化し、実際のキャンペーンを企画していくという順番でした。

【感想】こうしたマーケティング主導の話題化やコンセプト・ネーミングを優先した製品開発のやり方を組織に根付かせることは簡単ではないでしょう。理想的なマーケティング組織論を示した書籍はいろいろありますが、「全て一緒に考える」を実現するには誰かが、既存の組織のルールを壊すほど強い意思で企画を推進することだと思います。私も、そうした行動が組織の変革につながったことがありました。理想的には経営者やCMOが「全て一緒に考える」をけん引すべきですが、そうではない場合、皆さんが思い切って大胆に動いてみてはいかがでしょうか?仮にその組織が変わらなくても、そうした経験はあなたが「全て一緒に考える」本質的なマーケティングを推進するスキルにつながるはずです。


6章:話題化

今日の日本を含む先進国ではモノが余りに余っており、消費者はあまり不安を感じていないため、新製品や新サービスが出て皆がそれに群がるという現象はなかなかおきません。なので、「ディマンド・クリエーション」(需要創出)がとても重要です。新しい市場を作る、または新しい需要を掘り起こして製品やサービスを売る手法であり、それがまさに話題にならないと売れない時代のマーケティングの大きなテーマです。マクドナルドも以前は製品を作ってから、それをどう売るかを考えていたそうですが、近年はその順番を変えて、どんなプロモーションで、どんな話題が欲しいかを先に考え、そのアイデアに合わせて商品を開発する順番を変えてから復活しています。そうしたマクドナルドの話は「ほぼ実話」としてまとめられた足立氏が書いた別の書籍で詳細に知ることができます。

近年、多くのマーケターの期待値が高い、インフルエンサー・マーケティングの本質や問題、話題化に有効なソーシャルメディアとしてのツイッターの有用性などについても言及しています。

【再掲】ソーシャルメディアはすべて同じだと理解している方もいるかもしれませんが、数あるソーシャルメディアのなかで、実は構造的に話題化できるのはツイッターしかありません。他のソーシャルメディア、たとえば、フェイスブックやインスタグラム、LINEもコミュニケーションツールですが、ほとんどの方は「いいね!」はするかもしれませんが、読んだ記事や意見を「シェア(共有)」することはごくまれです。つまり、それらのソーシャルメディアでは話題の拡散(話題化)は難しいのです。(以上:第6章「話題化」131Pより引用)

話題化に対する炎上のリスクについてそれを覚悟しないと大きな話題化が狙えないことについて言及しています。また、昔から人が話題にしたくなるポイントはまったく変わっておらず、そうしたポイントをうまくまとめている電通グループのPR IMPAKT®を紹介しています。

Inverse  逆説、対立構造
Most 最上級、初、独自
Public 社会性、地域性
Actor/Actress 役者、人情
Keyword キーワード、数字
Trend 時流、世相、季節性
PR IMPACT®(メディアが報道したくなる6つの視点より)

多くの企業はまずマスやデジタルでの広告を考えて、時間と資金があったらソーシャルメディア、最後にPRを考えるという順番だと思いますが、話題化しなくては売れない今日においては、その順番を改め、まずはソーシャルメディア(実質的にツイッター)とPRでどのように話題化するかを考え、足りない認知を捕捉するために最後に広告を考えるほうが、効率的かつ効果的だと思います。筆者は広告のメディア自体は先に押さえてもかまわないが、常にソーシャルメディアやPRと一緒に考えるべきだとしています。


【感想】話題化しなくては売れない今日において、筆者らが提唱するような構造でコミュニケーションを設計し実行できている企業はどれだけあるでしょうか?ごくわずかだと思います。戦略的に話題化し成功するためのツイッター活用について以前執筆したnoteを紹介します。Oisixのクレヨンしんちゃん企画が売上にどれだけ寄与したか?定量化するための分析のデザインなど、まとめました。

マーケティング大原則の書籍を全て読むことで、日本のマーケティングの意思決定がいかに曖昧なものか分かると思います。

今後、足立氏や土合氏のようなマーケターを目指すために、何を心がければ良いかを突き詰めて考えてみました。それは、先行知見となる過去のマーケティング事例などから、成功、または失敗の「本質は何か?」を読み解くことを習慣にすることだと思いました。講師として行うワークショップなどを通じて多くのマーケターと交流してきましたが、優秀な方は本質を追求する力があります。過去、電通グループに在籍していた際、大クライアントの支援で偉業を成していた重鎮のかたから、仮に1分しかプレゼンする時間が無くなった時にクライアントに何を提言できるか?常に情報を整理して本質を捉えられているかが重要であると学びました。膨大な情報を咀嚼してたった1行のコピーに集約するような技術や、ビジネスを動かす力点を見定める力がマーケターに求められる最も生産性の高いスキルではないかと思っています。

あなたの知らない「次世代UX」

書籍の333ページに下記の記載がありました。

「たとえば消費者購買行動の7割をカバーするような、ちゃんとIDで個別に全部管理されたビッグデータがあったら、もしかしたらまったく新しいマーケティングができるかもしれませんが、プライバシー保護などの問題があるので実現することはないと思います。」

確かにここ1~2年と考えた場合は、実現はないはずですが、もしかしたら、それ以降の未来では、ユーザーIDで個別に全部管理されたビッグデータを消費者目線で有益な便益に変えるエコシステムが実現される可能性もあるのではないか?という展望に近い考えをご紹介させて頂きます。

最近、マーケティング業界では、クッキー規制など、パーソナルデータの利活用に対する制限にまつわるニュースを聞くことが増えてきました。今年予定されている個人情報保護法改正の内容など、パーソナルデータの利活用についての法整備の検討も進んでいる模様です。

「今まで利活用していた行動ログデータ」が使えなくなるのではないか?と不安視されています。ユーザーに対して不利益や不安を与えるようなパーソナルデータの利活用を是正するための法整備が具体的に定まれば、なんらかの対応は発生すると思います。とはいえ、1~2年ではなく10年位先を見据えたポジティブな未来に向けた検討も必要ではないでしょうか?NTT DATA PRのYOUTUBEに未来を予見させる映像があったので、埋め込み参照させて頂きます。


水難事故でしょうか?10年間寝ていたと思われる主人公が目覚めると、耳の裏に光る端末が埋め込まれており、エンティティという対話できるAIの存在を確認します。

自動運転のドローンが同窓会の案内らしき端末を届け、それについてエンティティが案内しながら、情報が集約され交通事故が大幅に減った社会について説明します。最後に行動予定など様々なデータが統合された上で運用されるUberのようなサービスで、同窓会の仲間たちとの相乗りが提案されます。

これは9個の動画のシリーズものみたいです。テクノロジーの進化が作り上げる10年後の社会がテーマになっているようです。パーソナルデータを含めた多くのデータがつながる未来を示唆する内容です。

本シリーズでは、NTTデータが年に一度「近未来の展望と技術トレンド」を導き出す、”NTT DATA Technology Foresight”をもとに、テクノロジーの進化が作り上げる10年後の社会において、企業や人が進化する世界に適応し、新たな価値を創造していく様子を描きます。※下記リンクのNTT DATA PRのYOUTUBEアカウントの「Foresight Stories - WAKE UP」動画リストのコメントより参照引用

また、「情報銀行のすべて」という書籍には、パーソナルデータの利活用を取り巻く動向と、パーソナルデータ活用の未来像について書かれています。後半に書かれている内容は先程紹介した10年後の未来と似ています。パーソナルデータがつながることで、これまでの常識外のユーザーエクスペリエンスがある未来だと思いました。

パーソナルデータの利活用についての法整備が進み、対応が不可避になるのであれば、数年後の未来を予見し、先手を打ち動いていくべきではないでしょうか?パーソナルデータの利活用を取り巻く動向を知るために、この書籍は役立つと思います。情報銀行はユーザーが個人情報を提供する代わりにお小遣い程度のインセンティブを享受できるといったビジネスモデルとしてしか捉えられていないと思います。かくいう私もそうでした。(重要な)個人情報が洩れるリスクを鑑みたら、相応のリターンを会員に提示しない限り浸透しないでしょう。しかし、この本を読んで捉え方が変わりました。ユーザーへのリターンを金銭で考えず、さきほどのムービーで描かれていたような、これまでになかった便益のある新たなユーザーエクスペリエンスとする場合、情報銀行は次世代UXの実現に向け必要なスキームになるかもしれないと思いました。

デコム松本健太郎氏のnote「マクロデータでミクロな視点は持てない」

より参照引用させて頂いた画像で説明すると、

画像1

1行の個人に対して列を追加する取り組みについて、単体企業が把握できるデータは、ユーザー行動のごく一部でしかありませんでした。仮にAmazonのような巨大なデジタルプラットフォーマーでさえ、そうだと思います。しかし、「すべての企業や団体が管理できるデータの列をつなげる(個人の了承のもと)」ことで、最適化された新しいユーザーエクスペリエンスを提供できる可能性が生まれます。


9つのシリーズ動画のうち、以下の動画では、主人公は娘のプレゼントなどの成功確率をエンティティとの会話から探ろうとしますが、娘さんが知られたくない分析については、エンティティが口を閉ざすシーンが印象的です。

同じ情報も、提供する相手やシチュエーションによって知って欲しいこともあれば、絶対に知られたくないこともあります。そうした取捨選択までAIに委ねて、情報の流通を最適化し、パーソナルデータの利活用から便益を得るユーザーエクスペリエンスを実現するためには新たな倫理観が必要になるかもしれません。


今後も必要とされるのは「トップマーケター」と「マーケティングサイエンティスト」と「マーケティングエンジニア」と「真のデータサイエンティスト」ではないか?

ネット上のリアルの消費者IDを結び付けて、最適なタイミングで、最適なオファーを、最適な顧客にするというマーケティングを実行するために単体企業が努力していたことが、複数企業のデータをつないだ状態で行う新しいサービスデザインを考えることに変わるのかもしれません。そうした時代に企業はどんなマーケティングを行うべきでしょうか?テクノロジーがど真ん中になった新しいマーケティング組織を想像したとき、今までのマーケターが行ってきた仕事のいくつかは形を変えたり、なくなったりするものもあるかもしれません。そんなことを考え出すと私も今のスキルの延長で稼いで行けるのか?多少の不安がよぎります。

テクノロジーの影響がより大きくなったとしても、確実に必要とされるのは著者のお二人のような「トップマーケター」と、データサイエンス力またはエンジニア力を併せ持つ「マーケティングサイエンティスト」または「マーケティングエンジニア」または「真のデータサイエンティスト(ビジネス力、サイエンス力、エンジニアリング力を兼ね備えたスーパーマン)」ではないかと思います。

私を含め、今、マーケターとして取り組んでおきたいことは、質の良い仮説を導き、本質を見抜く力をさらに鍛えておくことだと思っています。「あなたの知らない」マーケティング大原則

で得た知識を実践で使えるときは使ってみて咀嚼し、バックフローシンキングなどのトレーニングを習慣化して、思考の筋肉をつけておくことです。それこそが、複雑な右脳思考を形にする人間(マーケター)の独壇場だと思います。

とはいえ、次世代UXなど今後の新たな潮流を踏まえ、テクノロジーがど真ん中にくる新たなマーケティング時代には、左脳的な思考やデータサイエンスやエンジニアリングの最低限のスキルや基礎リテラシーとしての知識までは抑えておきたいところです。よろしければ冒頭ご紹介した私の書籍もご検討頂けますと幸いです!私もまだまだまだまだ勉強が足りないので、マーケターの皆さまと共に学び、次の新しいマーケティングを考えていきたいと思っております。長くなってしまいました。ここまでお読み頂きありがとうございました!

追加情報(2023年12月18日更新)

クッキー規制で目減りする効果計測の課題を解決法をnoteにしました。無料で使えるMETA社の高機能なMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)ツール「Robyn」を徹底解説する2時間強のYouTube講義を公開しました。