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山とお酒の買い出し(Scene6)

 先日久しぶりに雪山へ行った。どのくらい久しぶりかと言うと、もう10年近くぶりの様な気がする。アイゼンやワカン、ピッケルの使い方はもちろん、そもそもそれらが錆びついていないか、ウェアが経年劣化でやられていないか、そう言う確認を一つ一つするところから始まった。幸い道具で使えなくなった物はない。良かったよぅ。これ、一つ買ったら何万円するんだよっていうものばかりだから。

今回の行き先は群馬県の谷川連峰の一つ、白毛門。

白毛門から一ノ倉沢方面

 人気の理由がわかる、素晴らしい眺望だった。白毛門まではひたすら急坂を登り続けるのも楽しい。とは言え、久しぶりの雪山に浮かれて飛ばしすぎた僕は途中で脚が攣ってしまい、終わる。同行してくれた方の芍薬甘草湯と励ましが無ければ泣く泣く下山せざるを得なかった辺りは反省である。

 とは言え、一度止めてしまった雪山登山もひょんなことから再開することになった。これをどこまでやり込むか言う事はなかなか難しいのだけれど、折角の日曜定休にしたということで色々やっていけたら良いなぁと白銀の世界の中で思った。

 下山後、これもまた折角だからということで酒の買い出しに出ることになった。群馬の山に登りながら、買い出し先は湯沢まで足をのばすことに。そう言うわけだから、今回のお酒の紹介は新潟県の日本酒三種類である。「群馬県じゃないのかよ!」と突っ込まれそうだが、まぁ、それはまたいずれ。


出会った日本酒のご紹介

ネーミングに特長のあるお酒たち

①鮎正宗 特別本醸造

蔵元(エリア):鮎正宗酒造(妙高/猿橋)
使用米:五百万石、こしいぶき
精米歩合:58%
アルコール度数:15〜16%

 「鮎正宗」と言う名前がキャッチーで、思わず手に取ってしまった。鮎正宗酒造は1875年(明治8年)創業と言う。何となく一大日本酒勢力の新潟にあって最古の酒蔵は1548年(天文17年)からすると歴史の若い蔵元のような印象だが、調べてみたらこの年に開業した酒蔵は少なくないこともわかった。広島県の相原酒造(銘柄は“雨後の月”)、山形県の亀の井酒造(くどき上手)、千葉県でも豊乃鶴酒造(大多喜城)が開業されたそうだ。生まれ年で『昭和◯年組』みたいな繋がりがあるように、『明治8年開業組』もあるのだろうか。さすがにそこまでは遡れないか。

 鮎正宗という名前の由来は、昭和初期に赤倉に滞在した伏見宮家の若宮博義殿下が近くの清流で鮎釣りをした際に同行した際に命名していただいた事がきっかけだそうだ。「清流に踊る若鮎のごとく美酒に酔う」というコンセプトで造る酒は、キレとコクを備えつつ、口に含むと柔らかな旨味が広がると紹介されている。妙高山の麓、猿橋で造られる特別本醸造。本醸造と名が付きながら精米歩合を58%にしてある辺りに蔵元の心意気を感じて既に好き。
 

②吟田川 純米吟醸

蔵元(エリア):代々菊酒造(柿崎)
使用米:高嶺錦
精米歩合:55%
アルコール度数:16%

 寒い時期におでんを出していたら、常連さんの間で「チビ太のおでんって知ってる?」という話題が出てきたことがある。あまりにその頻度が多いから、「ちびた」という発音に敏感になっていた僕は商品棚に陳列された吟田川を見て一発で気に入ってしまった。もちろんこのお酒と赤塚不二夫先生のチビ太には何の関係もないのだけど。

 代々菊酒造の創業は1783年(天明3年)。この年には浅間山の噴火があった。柿崎はその浅間山から見てほぼ真北にある、比較的海寄りの地域だ。ここは昔から頸城杜氏(くびきとうじ、と読む)と呼ばれる杜氏集団があった。新潟の越後杜氏と言えば南部杜氏、丹波杜氏と並ぶ三大杜氏集団とされていたわけだから、頸城杜氏は当時から酒造りのスーパーエリートだったのだろう。

 ちはみに吟田川は霊峰米山の中腹、標高250mあたりの湧水地であるそうだ。一説によると「冷たい水」の『冷』が転じて『吟』となったと言われている。「つめたい」ことを「ちびたい」と言うのは新潟の方言だから、これが由来なのだろう。ちびたい、ちべたいって発音、凄くかわいいよね。この水で造る酒は淡麗でありながら味のしっかりした旨口になる超軟水なのだとか。

「淡麗でありながら旨口」なんて、何て相反的な表現だと思ったが飲んでみて納得した。味乗りが良くコクがあるが、芯の部分がサラリとしていて流れるように消えていく。飲みごたえがあり引きが良い。

 「蔵の規模上、量を増やせないから質を上げる」と言う蔵元。個人的にすごく好きな味わいだ。これは…ちょっと追いかけてしまいそう。かわいいし。


③越後秀山 巻機 純米吟醸

高千代の別ブランド

蔵元(エリア):高千代酒造(南魚沼)
使用米:新潟県魚沼産契約栽培米「一本〆」
精米歩合:53 %
アルコール度数:15〜16%

 高千代酒造と言えば近年新潟の日本酒業界をリードする地酒蔵の一つ。東京でも取り扱いの酒屋も居酒屋もあまりにも多くて、「別にうちで置いとかなくてもいいか…」と思ってしまう銘柄と言うのが本音ではあった。商品棚に並んだ数々の高千代。ここでもやっぱり高千代かぁと思いながら眺めていると、山の名前を冠した酒があった。それが『巻機』との出会い。どうもこれは、高千代酒造の造る巻機会限定酒なのだそうだ。

 巻機山と言えば、日本百名山にも数えられる人気の名山だ。調べてみたら高千代酒造は巻機山山麓に蔵を構え、その伏流水で酒を造っている。酒米に一本〆が使われているのも珍しいと思い、思わず手に取った。

 『巻機』というブランドは、巻機山の伏流水をはじめ全量魚沼の原材料を使い、魚沼の食材や歴史に寄り添う味わいを目指す。自社契約農家栽培の酒米にこだわって、ドメスティックかつ手造りにこだわる。というブランドコンセプトのもと造られる。
 その他『たかちよ』も『高千代』も、それぞれに細やかにブランドコンセプトが設定されている辺りが近代的だなと思いながら早速飲んでみた。

 良い。甘やかで華やかという個人的なイメージとは違う、地に足ついた食中酒としてのうまさがあって良い。こういうお酒もあるんだと自分の不勉強を反省した。ブランドコンセプトを読んでから飲み直すと、ちゃんとそう言う味がする。醸造技術の高さがなければ、ブランドごとの幅は表現するのは難しい。「フルーティーで華やか」と言う言葉自体は聞こえが良いし美味しいのだけど、そのイメージが先行すると「何でそのお酒を出したいか」となった時に勉強が足りないと「流行りだから」「人気だから」に留まってしまい差別化が難しい。巻機はそう言った潮流の外にある酒だと思う。確かに、これを飲むと魚沼に行ってみたくなる。


日本酒と山の物語を調べていく

 こうやって調べていて、noteが備忘録として凄く自分にいいことに気づく。こうやって調べていって、自分のその時の感想を積み上げていって、まぁ、適当に誰かに読んでもらえれば良いなと思う。
まだまだ勉強不足の身ではあるが、がんばって続けていこう。


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