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【第3話】飛び蹴りオヤジと逃走アニキ

皆さんは小学生のとき、何を思いながら家に帰っていましたか?

 「友達と遊びに行こう!」
 「今日のおやつは何かな?」
 「宿題が終わったら、好きなマンガ読もう!」

こういう事を思った人も多いと思います。私はと言うと…

 「はぁ。家に帰るの嫌やな…」

大人が「会社に行くの嫌やな」と思うくらいの憂鬱さだった。家に帰れば、父の機嫌を伺わなければならない。父の機嫌が悪ければ、母もイライラしている可能性がある。めんどくさい。

そんなある日、思いもよらない光景を目の当たりにする。

*読む時のお願い*

このエッセイは「自分の経験・目線・記憶”のみ”」で構成されています。家族のことを恨むとか悲観するのではなく、私なりの情をもって、自分の中で区切りをつけるたに書いています。先にわかって欲しいのは、私は家族の誰も恨んでいないということ。だから、もしも辛いエピソードが出てきても、誰も責めないでください。私を可哀想と思わないでください。もし当人たちが誰か分かっても、流してほしいです。できれば”そういう読み物”として楽しんで読んでください。そうすれば私の体験全部、まるっと報われると思うんです。どうぞよろしくお願いします。

*読む時の注意*

このエッセイには、少々刺激が強かったり、R指定だったり、警察沙汰だったりする内容が含まれる可能性があります。ただし、本内容に、登場人物に責任を追求する意図は全くありません。事実に基づいてはいますが、作者の判断で公表が難しいと思われる事柄については脚色をしたりぼかして表現しています。また、予告なく変更・修正・削除する場合があります。ご了承ください。

登場人物紹介はコチラ→『バッタモン家族』

当時私が住んでいた家は、商店街のように一直線に家やお店が立ち並ぶ場所にあった。毎日、家路への足取りは重い。トボトボ…。家がすぐ目の前に差し掛かった時、

 「おい!待て!」

父の怒鳴り声が聞こえてくる。近所の人も何事かと顔をのぞかせている。思わず顔をあげて見る。目に飛び込んできたのは…

父が格闘ゲームのキャラのような飛び蹴りをしながら、玄関から勢いよく出てくる姿!飛び蹴りを命中させたい相手は兄(三男)だった!キレイなフォームで宙に浮いていた父だったが、兄はそれを瞬時に交わす。そして、目にも止まらぬ早さで逃走!父、無事に着地。

 「またか…」

ランドセルを背負った小学生は頭を抱える。学校に引き返そうかと思った。だけどその場を動かずに父と兄の様子を見守ることにした。

 「戻ってこい!しばいたる!!」

そんなこと言うて戻ってくる奴、どこにおんねん。兄は完全に逃走せず、100mくらい先からこっちを見ている。父は私の存在に気が付き、

 「お前、今すぐあいつ連れ戻してこいや。」
 「ええ〜〜〜!なんでなん?!嫌やぁぁぁ〜〜!」 
 「ええから、連れ戻せって言うてるやろが!行け!」

いくら抵抗しても彼の命令は絶対。父と兄のケンカに巻き込まれて、八つ当たりなんて理不尽だ!仕方なく、今もこちらを見ている兄を迎えに行くことに。…だりー。

 「っしれ!!!」(走れ、の意)

背中に父の怒号が聞こえる。なぜ私が怒られてるんだ?小走りしてみる。兄は私を待っている。ちゃんと待つんかい。兄の元まで行く。

 「お兄ちゃん、”また”何したん?」
 「…」

だんまり。ドラマクイーンなので、付き合ってやることにしよう。兄の手首を握り、優しく言った。

 「もう、お父さんウルサイから戻ろう。近所の人も見てるやん。な?」 
 「手、離せやっ!触んなや!」

…だりー。こっちも八つ当たりかよ。私まだ小学生なんですけど。父はまだ叫んでいる。疲れないのか。

 「お兄ちゃんを連れ戻さな私が怒られるやん」
 「知るか!俺のことは放っておけ!」

汚いもののように私の手を振り払う。お!ドラマクイーンっぽいぞ!でも、私も黙ってられない。

 「あ゛〜!めんどくっさッッ。自分ら何なん?あのオッサンは人使い荒いし、お兄ちゃんもそうやって逃げるん止めたら?私より子供か!逃げてもしゃーないやん。今怒られとけば、あのオッサンの気も収まるやん!」
 「…」

こうなったら、強制連行だ。男性の力には敵わないのは分かるが、これ以上ドラマクイーンとお怒り魔人の相手はゴメンだ。力の入った兄を引っ張っていく。さすがに堪忍したのか、しぶしぶ戻ってくれた。何度も言うが、この様に諭す私は当時まだ小学生だ。

よし。ドラマクイーンの方は解決。お怒り魔人に「ただいま連れ戻して参りました」と兄を差し出したら、こっちを見ただけで何も言わない。あれ?ふてくされた兄は、父の顔も見ずに家の中に戻っていく。父、スルー。あ、もう気は済んだのね、と悟る小学生。この家族は、学校よりも疲れる。まさか、まさか。玄関先で飛び蹴りを見せつけられるなんて、思わなかった。

当時50代で華麗な飛び蹴りを見せた父ですが、後日筋肉痛に苦しみ、以降飛び蹴りを見ることはありませんでした。兄はその後も、父とケンカするたびに逃走を繰り返してました。

小学生の頃の私が、家に帰りたくなかった理由はおわかりいただけただろうか。


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