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【第9話】私、宙に浮いたことがあります。

本日は、まだ幼かった自分が家で一人で遊んでいると、突然父に張り手をかまされイスからふっとんだ話を書こうと思う。(この話は今となっては、笑い話の1つなので重く受け止めずに読んでほしい。)

私は、子供時代の大部分と、ここで挙げた大事件が起こる4〜5年程前の記憶がひどく曖昧だ。ただ、学校や友達のこと、自分が普段何を考えどんな気持ちだったかはほとんど思い出せないのに、家族から受けた「理不尽」なことに関しては、まるで昨日のことの様にはっきり覚えている。人の記憶というのは不思議なものだ。

*読む時のお願い*

このエッセイは「自分の経験・目線・記憶”のみ”」で構成されています。家族のことを恨むとか悲観するのではなく、私なりの情をもって、自分の中で区切りをつけるたに書いています。先にわかって欲しいのは、私は家族の誰も恨んでいないということ。だから、もしも辛いエピソードが出てきても、誰も責めないでください。私を可哀想と思わないでください。もし当人たちが誰か分かっても、流してほしいです。できれば”そういう読み物”として楽しんで読んでください。そうすれば私の体験全部、まるっと報われると思うんです。どうぞよろしくお願いします。

*読む時の注意*

このエッセイには、少々刺激が強かったり、R指定だったり、警察沙汰だったりする内容が含まれる可能性があります。ただし、本内容に、登場人物に責任を追求する意図は全くありません。事実に基づいてはいますが、作者の判断で公表が難しいと思われる事柄については脚色をしたりぼかして表現しています。また、予告なく変更・修正・削除する場合があります。ご了承ください。

登場人物紹介はコチラ→『バッタモン家族』

◇◇◇

私はそもそも子供の頃から、外で遊ぶよりも、家の中でひとりで絵を書いたり絵本を読んだりするのが好きな、物静かな子供だった。「静かにしてるならいいや」という考えだったのだろう。それに関しては両親も「外で遊びなさい」とは言ってくることはなく、私を放っておいてくれた。

”張り手”がぶちかまされた当時、父は自営業主だった。建物の一部がお店になっている感じの家に住んでいた。店内にはバーカウンターのようなテーブルとイスが置かれている。若干4歳の小さな子供だった私は、そこに座る時は家族に座らせてもらうか、何か踏み台を置いてよじ登ることになる。

私はいつもそのテーブルで、静かに絵を描いていた。お店には両親がいるが、彼らはお客さんの相手や経営に忙しいようで、必要以上に私にかまうことはなかった。でも、両親が見える場所にいたので寂しくはなかったし、夢中で絵を描ける。外に行くよりも、ここでお絵かきする方が楽しいや、とそのテーブルとイスは自然と私のお気に入りスポットになっていった。

そんなある日。私はいつものようにお気に入りスポットで、鼻歌を歌いながら自分の世界に浸っていた。クレヨンを使って、ぐるぐると何とも言えない”絵”をカラフルに彩ったり、動物の絵を描こうと、子供なりの試行錯誤をしているときだった。

突然、体がフワッと浮いたのだ。

(抱っこ…されている?)

と思った瞬間、

体が傾き、スローモーションで天井が動いていくのが見えた。味わったことの無い感覚に呆然と天井を眺めながら、重力に従い体が落下していく。

ズサーーーッッッ。

体が勢いよく、床の上を滑った。熱いやかんを押し当てられたような、頬のジンジンする感じがようやく追いついてくる。その時、初めて「叩かれて、イスから落ちたんや」と自分に何が起こったかを理解した。

軽く2mはふっ飛ばされた。人生でこれだけふっ飛んだのは、今にも後にもこの時だ。ある意味貴重な体験だったのかもしれない。ただ後から考えて怖いと思ったのは、もう少し勢いが良ければ、落下した後ろの棚に頭をぶつけていたかもしれないということだ。

当時まだ4歳。叩かれたことは分かっても、叩かれた「理由」が理解できない。私は、本当に一人で大人しく絵を描いてただけなのだから。未だジンジン痛む頬をさすりながら、「え?なんで?」と怯えた目で父の顔をみる。父は私を見下ろしたまま何も言わずに、踵を返して別室に行った。これを理不尽と言わずして何というのだろうか。

最初は宙に浮く不思議な感覚。次は頬の痛み。その次は、父にふっ飛ばされたという事実。その後に私を襲ったのは、止めどなく流れてくる涙だった。ただし、大声で泣くと父に怒られてしまう。だから声は殺したまま、溢れてくる涙を拭って、散らばったクレヨンと絵を片付けた。泣いてたら怒られる。散らかしたままでも怒られる。どうしよう、早く”普通”に戻らないと…

ニコニコと笑った動物の絵が、涙で滲んでさらに悲しくなった。

それからしばらくは父に抱っこされたり、頭を撫でられたりするのが怖かった。今度はボールのように、投げられるかもしれない…そんな想像をしては体がこわばった。

今思うとこの時からなのかもしれない、過去の記憶を、頭の奥の、更に奥の自分でも見えないところに隠すようになったのは。このエピソードもふっ飛ばされた印象が強すぎて、その前後のことはおぼろげにすら思い出せない。

今だに謎なのは、なぜ父に突然張り手をされたのかということ。この状況だけ見ると、多分100%私に非はないはずなのだが…(ちなみに、こういうエピソードはこれからもたくさん出てきます)。

私のも含め、世のバッタモン家族にこれだけは言いたい。自分の機嫌で、人を(手や言葉の暴力で)サンドバックにするのは止めようね。

「I can fly~~!」って言うてる場合じゃないからね。


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