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【第6話】夜、不気味なうめき声

「う゛…ぅぉおン…」

まだ私が小学生だった頃の話。家の裏山の方から聞こえてくる不気味なうめき声。それが聞こえないように、毎夜、布団で目と耳をぐっと覆って眠っていた。当時私は、両親と同じ部屋で寝ていたのだが、彼らが毎晩布団に入ってくるのは、私が深い眠りについたあとだ。

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*読む時のお願い*

このエッセイは「自分の経験・目線・記憶”のみ”」で構成されています。家族のことを恨むとか悲観するのではなく、私なりの情をもって、自分の中で区切りをつけるたに書いています。先にわかって欲しいのは、私は家族の誰も恨んでいないということ。だから、もしも辛いエピソードが出てきても、誰も責めないでください。私を可哀想と思わないでください。もし当人たちが誰か分かっても、流してほしいです。できれば”そういう読み物”として楽しんで読んでください。そうすれば私の体験全部、まるっと報われると思うんです。どうぞよろしくお願いします。

*読む時の注意*

このエッセイには、少々刺激が強かったり、R指定だったり、警察沙汰だったりする内容が含まれる可能性があります。ただし、本内容に、登場人物に責任を追求する意図は全くありません。事実に基づいてはいますが、作者の判断で公表が難しいと思われる事柄については脚色をしたりぼかして表現しています。また、予告なく変更・修正・削除する場合があります。ご了承ください。

登場人物紹介はコチラ→『バッタモン家族』

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その夜も、小さく聞こえてくるうめき声が怖くて、隣室でテレビを見ている両親の元へ向かうため、ふすまをスーッと開けた。父の姿が見えた。

 「お父さん…あんな、寝てたr…」

全部言い終える前に、

 「まだ起きてんのか!はよ寝ろや!部屋に戻れ!」

と怒られて、しぶしぶ布団に戻る。今は機嫌が良くないらしい。不安な上に怒鳴られて、その時はうめき声よりも父の方が怖くなった。

 「お父さんもあの声も怖い…嫌や…」

頭からそれらを締め出すように、布団を頭までかぶって、硬く目を閉じ、耳を塞いで、なるべく寝ることに意識を集中させた。

そして、次の日。父は打って変わって機嫌が良さそうだ。チャンス。
 
 「お父さん。夜な、ずっとな、怖い声が聞こえるねん。あれ、何なん?」
 「え?お前知らんのか?」
 「知らへん。お父さん、知ってるん?」
 「お前を怖がらせないために言わへんようにしてたんやけどな…うちの家は山に近いやろ?」
 「うん。」
 「お父さんらが小さい時は、充分なご飯も食べられへんくて、子供や老人はあの山に捨てられに行くんや。」
 「え!」
 「だからあの声は、捨てられたおばあちゃんや子供が、苦しんですすり泣く声なんやで。聞こえたら、そいつらが近くに来とる。ええ子にしてな、お前も連れて行かれるぞ。」

んな、アホな。でもね、私は純粋な子供やってん。当時は田舎の日本家屋に住んでいて、近くに山があったし、実際にそういう話もありそうな場所。悪い子にしてたら、私も山に捨てられるかも…。子供ながらにその可能性に考えを巡らせたことに大きく後悔をした。残酷にも、夜は今日もやってきてしまう。
 
 「(今日も聞こえたらどうしよう…。私もいい子にしないと捨てられる…)。」

だけど、その夜は静かだった。今日は誰も捨てられなかったんや、と見知らぬ誰かのために安堵した記憶がある。気がつけば朝だった。お父さんは、私に嘘ついたんや。怖がらせたかっただけや、と安心した次の夜…

 「う゛…ぅぉおン…」
 
…聞こえる。誰かが捨てられに行ってる!外を覗く勇気もなく、今までに無く、目をぎゅっとつぶり、耳をふさいだ。不安に必死で抵抗し、寝付くまで時間がかかった。

翌朝。

 「お父さん、もう怖い。毎晩誰かが外で泣いてる。連れて行かれてる!」
 「お前、あの話ホンマに信じてたんか!おもろいなー!あんな話ウソに決まってるやろ!」

と、心底楽しそうに大爆笑している。こっちは笑えねー!毎晩泣きそうで、自分が捨てられるとまで思ったのに。
 
 「じゃあ、あの声は何?」
 「あー!あれか!ネコがセックスしとんねん!ハハハ!」

言葉をボカせ。こっちは当時、まだ小学校低学年やぞ。

 「セックス?」
 「子作りや!ハッハッハ!夜、その声聞こえたら外見てみ。ネコおるわ。」

その夜、混乱を抱えたままの私の耳に、またあのうめき声が聞こえてきた。勇気を振り絞って外を見ても、暗すぎて何も見えない。気になるし、怖いし、父親は笑ってたし。”ねこのせっくす”の説明も、放送禁止用語を連発でよくわからなかった。当てにならないので、別の日に学校で先生に聞くと…

 「それ、『うぉ~〜ん』みたいな声?赤ちゃんが泣いてる声に似てるかな?」
 「そう、怖くて。お父さんは”ねこがせっくすしとる”って言ってた。」

先生は一瞬、憐れむような、少し困るような様子で優しく微笑みかけ、私の手を引いた。連れて行かれたのは、学校裏手の茂み。そこからは、姿は見えないものの、確かにあの同じ声が聞こえている!”ねこのせっくす”や!

 「あれと同じ声?」
 「そう!あれ!!ほんまにネコなん?」

その後先生は、ネコの発情期と子作りについて”やんわり”と説明してくれた。父とは違い”やんわり”の部分において、先生には非常に感謝している。が、先生がネコの鳴き声を「赤ちゃんの鳴き声」と表現したので、その夜からその声を聞くたびに”暗闇の中で捨てられた赤ちゃんがうめき泣いている”様子をどうしても連想してしまい、しばらくそれまで以上に怖い思いをしながら布団に入らなければいけなかった。

先生、ある意味では父よりもいらんことをしてくれたと思っている。

前回のエッセイ『家族の本当の闇』が少々重い内容だっただけに、今回は軽めに、おバカなお話でした。

次の話は、片付けられていたチャイルドシートで死んでいた”ある物”と、それに関わる家族の騒動について書こうと思います。

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