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地元で女装する

大都市圏は比較的女装しやすい環境にある。
東京や大阪、名古屋、福岡などアーティストの全国ツアーの拠点になる都市では、女装のお店があったり、イベントが開催されたりしているものだ。
同時に人口の圧倒的な多さや、「自分が思うほど周りの人が自分のことを気にしていない」という空気も作られやすい点もあるだろう。

一方地方で女装をするというのは、なかなか勇気がいる。
特に田舎の地域に行けば行くほど、やたら人の目を気にする。
そして人の目が気になる人達が多い。うっかりバレようものなら、ただならぬ色眼鏡で見られそうな気さえする。
地方都市のド田舎で育ってきた私も、もし実家に今も住んでいたら女装なんてできなかっただろう。
女装外出なんてもってのほかだったと思う。

そんな私だが、地元に帰った際2度ほど女装したことがある。
熊本に住む女装友達と会うためである。

まず女装用の荷物が必要である。
服は特段普段来ているもので事足りるので、スカートかフレアパンツを一枚足せばよかったが、ウィッグや化粧道具、補正下着など女装で必要となる道具も入れなければならない。
通常帰省の際は2~3日分の着替えを入れていくのだが、これにプラス女装道具も追加されることとなる。そして実際にキャリーケースに荷物を詰めていくと、荷物の大半は女装関連の道具で占拠された。
「コスプレイヤーの人はいつもこれ以上の荷物を抱えて会場に行くんだろうか」
などと池袋などで見かけるコスプレイヤーたちに思いを馳せつつ、何とか荷物を小さなキャリーバックに詰め込んだ。

次に考えなければならなかったのは、着替える場所だ。
流石に実家から完全フル装備で出ていく勇気はない。
さらに駅までの足がないため、親か妹に駅まで送ってもらうことが必要となる。バンド活動などで女装をしていることをなんとなく知っている家族でも、いざフルメイクの状態でその姿を晒し白昼堂々外出するのは、少し気が引ける。そのため出先で着替えるという方法一択しかなかった。

流石にキャリーバックを持っていくわけにはいかないので、リュックサックにメイク道具とウィッグ、ガウチョパンツを入れた。
そこで導き出されるのは、リュックサックが似合う服装にすることだ。あれこれ着るものを迷うより、こういう縛りがあることですんなり決まるので良いなと思った。

着替え場所は待ち合わせ付近にあるビジネスホテルのデイユースを利用した。シャワーもあるし、早めにチェックインすれば余裕をもって準備することもできる。最近は無人チェックインなどもあるが、私の場合は別に赤の他人のホテル従業員に女装を見られるのは抵抗はないのでさほど迷うことはなかった。

四苦八苦しながらなんとか女装を完成させ街に出た私であるが、繁華街まで出てしまえば、さほど人の目を気にする必要はない。
ド派手な格好をしているわけでもなければ、リュックを背負って歩いている化粧をした小柄な人に過ぎない。完全にモブである。

そういった見た目の問題とは別に、女装というフィルターを通して歩く地元はなんだかまた違って見える気がした。
10年以上歩きなれた繁華街さえ、女装をして歩くのとは少し気持ちが異なるものだ。いつも歩幅広めでつかつか歩く私であるが、どこかすまし気味に歩いてしまう。

そしてすれ違う人々の姿もいつもより気になる。
「熊本の人って割とおしゃれな人多いな」
「若い子も割といい服着てるな」
などということが、いつも以上に気になってしまう。
どこかピリッとした緊張感を持って歩いてしまうのは、女装で歩き慣れていない街を歩いているからだろう。
入り慣れた店に入るにも、ついつい
「え?女装??」
というようなそぶりを見せられないかドキドキしていた。
やはり女装というのはどこか”異質”なものに映ってしまう。東京でもそういう空気感はゼロではないが、地方と比べるとましなのだと思う。

【女装の鉄則】自分が思うほど他人は自分のことを気にしていない

とはいえ、さほど問題なく遊べたのは、地元の人々の心が寛大だったのか、それとも気にも留めていなかったのか。杞憂に終わったといっても過言ではない。


「気を張りっぱなしの女装は疲れる」そう実感した。
しかしここまでして地元で女装をしなければならないのか。
つくづく己の面倒くさがりな性分と、遠征女装をする人々の逞しさを感じたいい機会でもあった。

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