ロボコン6205

ロボコン6205

「ロボットを用いたロボコン対戦部門、今年は四体ずつの自律型ロボットを用いた対決です!」

「さて、毎回工夫されたロボット対戦ですが、今年のチームはどうでしょうか」

「どのチームも、けっこう厳しい制約の中、非常に個性的なロボットチームを作ってますね。この部門も今年で一五回目になるのですが、このあたりは、まだ〈最適解〉が無いということなんでしょうか」

「そうですね。条件も年ごとに微妙に違いますし、なにぶん、対戦相手にバラエティがある状況でまだまだパターンが出尽くしてない、ってところでしょう」

「なるほど。人工知能の性能もこの十五年で飛躍的に向上してますが、それがバラエティを生み、さらにパターンを拡げていっているという一面もありますね」

「そういう面もあると思います。それはそれで大変興味深いですね。この調子だと、〈最適解〉なぞ、無い、という結論に達してしまいそうですが」

「我々だって、最適な行動、なんてものは無いですからね。人工知能の能力が我々に近づくほど、そういう結論になってしまうというのも解る気がしますが」

「そのうち我々を追い抜いたら、どうするのでしょう」

「それが、求めていた〈最適解〉が見つかる時かもしれないですね」

「なんだか恐ろしいような、楽しみなような。さて、今年の第一戦目は、例年参加しております民間の研究所、カブラ・リサーチと、セルラン大学工学部のチームです」

「セルラン大学は、研究費が限られている中で、ここ二年頑張ってますね」

「そうですね。開学してまだ五年の新しい大学ですからね。ここで勝ち進めば、企業の研究への出資や助成金も期待出来るでしょう」

「最近は産学連携も一般的ですからね」

「セルランチームの四体のスタイルは、これは、リーダーがいるタイプでしょうか」

「そうですね。セルランチームは、中央集権型といいますか、リーダーが情報を集めて部下をコントロールするタイプのチームですね」

「デザインもそれぞれ違いますね」

「リーダー機がアンドロイド型の汎用型でしょうか。あとの三体は、それぞれ何かの機能に特化している印象がありますね」

「このスタイルにしたのは、何故なんでしょう」

「やはり、資金面でしょうか。四体全てを汎用機にして特殊な作業も出来るように、というのはそれなりに資金も要りますからね」

「なるほど。限られた費用で、多彩な攻撃が出来るように工夫したわけですね」

「しかし、ある程度攻撃パターンに限度は出来ますし、一部の機体が動作不能になった時に作戦変更が難しくなりそうですが」

「どうでしょう。そのあたりも、若いなりのアイデアで戦略を練っているのでしょうか」

「人工知能の出来具合にも左右されそうですね。リーダー機に強い権限を与えて、リソースを集中させたことが、吉と出るでしょうか、凶と出るでしょうか。これは、やってみなければ分かりません」

「さて、対するカブラチームは、似たようなタイプのアンドロイド型の四体を用意してますね」

「そうですね。これは、屈強そうな機体ですね」

「さすが、世界に羽ばたくカブラ・リサーチのロボットで、資金面も潤沢です。汎用アンドロイドに見えますが、おそらくは個別の特殊な能力もブラッシュアップされているでしょう」

「でしょうね。通常のアンドロイドよりも一回り大きい。これは制限ギリギリのサイズでしょう。あまり大きいと取り回しもスピードも限られますから、最近はどのチームでも大型機は敬遠され、小型化・スピード重視型に偏る傾向にありますが」

「そこを逆に大型機を出してきた。ここはカブラ・チームに勝算があるということでしょうか」

「あるいは、重量機でも機敏に動けるノウハウを投入してきた、ということかもしれません」

「そうだとすれば、恐ろしいですね。今までどこのチームもそれを実現したところは無かった。自律型ではエネルギーも内蔵ですからね。重い機体はそれだけ不利というのが〈常識〉的だったのですが、あえてそれを向こうに回してきた」

「〈超えてみせた〉ってことでしょうかね」

「まあそれは、結果を見てみなければ、わかりません」

「そうですね。さあ、両チームとも準備が整ったでしょうか。今回の対戦の舞台は、ラシューです」

「ラシューは、三年前の大会でも舞台になりましたから、研究されているチームも多いでしょうね」

「とはいえ、地形が非常にバラエティに富んでいますから、全てを把握しているチームは無いんじゃないでしょうか」

「でも、カブラはわかりませんよ」

「ああ、カブラは把握してそうですね」

「しかし、地形を把握していてもスタート地点はランダムですから、それなりに公平性は保たれてはいますかね」

「どうでしょう。その後の戦術に活かせるデータですから。ちょっとこれはカブラ・チームが有利かもしれません」

「それでも、カブラは意外に優勝経験は無いんですよね」

「いいところまでは行くんですけどねえ」

「今回はどうでしょうか」

「さてそろそろ、発射の時間です。四つずつのポッドに入れられたそれぞれのチームのロボットが、ラシューに向けて発射されます」

「発射された後は、どのロボットもコントロール不能です。完全自律型の対戦は、第七回大会から採用されましたね」

「それまでは、投下後もある程度コントロールできましたからね」

「自律型の人工知能の発展が主目的ということで、現在では完全自律の対戦です」

「ロボット達が、計画当初の想定外の行動をとってしまうというのも、この対戦の醍醐味ですね」

「さあ、投下カウントされます。十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、ゼロ!」

「チーム船から八つのポッドがラシューに向けて次々に発射されました」

「今回は、ランダムとはいっても、方向が近いですね」

「ほぼ一塊で落ちて行きますね」

「前回の反省から、ランダムとはいってもある程度、範囲を絞ったという話もあります」

「ああ、前回のは、範囲が広すぎて、対戦相手どころか仲間と出会う前に全ての機体が動作不能になってしまうチームが続出してしまいましたからね・・」

「今回は、やはり一生懸命作った機体が有効に活動したところを見てみたいですね」

「そうですね。あ、ポッドから光が尾を引いています。大気圏に突入したようです」

「それでは、こちらも観察ドローンで追いかけていきましょう」

「それぞれのポッドを、ドローンが追いかけています」

「対戦チームも一緒に映ってしまってますが、あ、徐々に離れていっています」

「さすがに最初から同じ場所、というのでは面白くありませんね」

「チーム内では、それなりに互いに見えています」

「今年のルール改変では、チームプレイを見せるということで、仲間同士はそれほど離れないようになっていますね」

「仲間を探すところから、というのも面白そうですけどね」

「まあそれも面白いですね。それを主目的にした新たなゲームを作っても良さそうです」

「さて、八っつのポッドはそろそろ雲を抜けて、地表に向かって・・おや?」

「あ、何でしょうあれは」

「・・ひょっとして・・都市・・?」

「都市!ということは、ここに、文明!?」

「ラシューに知的生命体が居るなんて話はありましたか?」

「前回大会では、調査でもそういった話はなかったです。原始的な生命体はいますが道具を使うような知的生命体は存在しなかった筈です」

「今回の調査では、どうなっていたんでしょうかね」

「三年でそういうことがあるとは想定外でしょう。前回のデータをそのまま利用しているはずです」

「これはまずいですかね。我々の対戦が何か文明に影響を・・」

「まあ、いいんじゃないでしょうか。それもまた、文明への刺激です。吉と出るか凶と出るか、そんなの分かりませんから」

「そうですね。さて、両チームのポッドともに、やや近い場所に落下しましたね」

「カブラチームは、島嶼部でしょうか。小さな島に落下しているようです」

「セルランチームは、ちょっと離れた大陸ですね。幸い、都市には落下せず、辺境の地に落ちたようです」

「それは良かったですね。災害を起こすのは、我々としても心苦しいですからね」

「カブラチーム、四機のポッドが島に落下して、それぞれ活動を開始しています。まずは何をするのでしょうか」

「カブラチームは、地形を熟知していますからね。まずは周囲の水を越える方法を考えるでしょう」

「ここ数回で、大量の水のある戦場への対応を、みなさん工夫してますからね。しかし、カブラチームの四体は、どれも大量の水には最適化されていないようですが」

「ほら見てください。連携して、材料を集めて水上を移動できるような船を作っていますね」

「カブラチームの皆さんの様子です。皆さん、自信たっぷりでガッツポーズをしています」

「さすがですね。そこまで人工知能を作り込んでいるとは。カブラチームには〈想定外〉が無いのかもしれませんね」

「さて対するセルランチーム。四機のポッドが、辺境の山岳地帯に落ちていきましたが、どうでしょうか」

「無事、地上に、あれ、ドローンの映像を見ますと、これはどうなってますか」

「セルランチームのポッドの一つが、大量の水の上に浮いていますね」

「大丈夫でしょうか。他のポッドは」

「他のポッドは、地上で無事に展開して、それぞれ活動開始しているようです」

「残った一つ、展開してないですか」

「してないですね。どうしたのでしょう」

「ポッドの故障の可能性もありますが、どうでしょう。地上への落下の衝撃で展開する筈なんですが」

「水の上に落下して、そのメカニズムが働かなかったんでしょう。ポッドは陸地に向けて発射されることになっていますが、陸地は陸地でも大量の水がある場所に落下してしまいました。これは、運が悪いとしか言いようがありません」

「あのポッドは、セルランチームの、どの機体でしょう」

「データによれば・・ああ、リーダー機ですね・・」

「セルランチームの皆さんの様子は・・ああ、どんよりしています」

「もう荷物を片付け始めている人もいますね」

「リーダー機のある中央集権型のチームですから、リーダー機が失われたら、もう負けも同然でしょう・・ご愁傷様です」

「さてやはり、セルランチーム、残された三体のロボット、てんでバラバラに活動を始めました。やはりこれでは、対戦になりませんね・・」

「おそらく、三体それぞれだけでは、自分たちの活動の目標や目的すら、明らかには出来ないんじゃないでしょうか」

「残念です。スタート直後から、勝敗が決してしまったようです。それでは、別の対戦会場に移っていきたいと思います。ラシュー会場からは、また状況に変化があったらピックアップして放映したいと思います。それでは、次の会場のペントホルムは・・」


 ある晴れた日の昼時、おばあさんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。

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