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新事業を成功に導く4つのプロセス

この記事は、「新事業を成功に導く4つのプロセス」というテーマで、新事業を始める際に経るべき4つの段階について詳細に説明します。

中小企業診断士として、認定経営革新等支援機関として、数々の新事業立ち上げを計画段階から伴走支援してきた経験を詰め込んでいます。あらゆる業界においてお役に立てるよう少し抽象的な表現も多くなっていますが、新事業展開を実行する際のガイドラインとして、ぜひご参考になさってください。


序章:新事業の必要性と背景

コロナ禍の影響と新事業の重要性

2020年に端を欲した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界中に広がる大流行を見せ、社会的および経済的な景気を大きく変えました。このパンデミックは、一般市民の消費活動を大きく制限したことに特徴があり、多くの企業にとって未曾有の試練となりました。各企業では、事業の存続や成長のために新たなアプローチを取る必要性に迫られたのです。

コロナ禍は、消費者行動の変化、供給チェーンの混乱、リモートワークの普及など、多くのビジネスモデルに影響を及ぼしました。これにより、企業は従来のビジネス戦略を見直し、変化する市場環境に適応する新しい方法を模索する必要に迫られ、DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速やオンラインビジネスの拡大など、新しい機会も生まれてきました。

このような状況の中、企業にとって必要不可欠な戦略の筆頭として新事業の立ち上げがあります。新事業がうまくいけば、不確実な市場環境においても、新たな収益源を生み出すことができ、経営リスクを分散させることができます。また、革新的なアイデアやサービスを通じて、企業は新しい顧客層を開拓し、ブランド価値を高めることも可能となります。

日本政府も、このような新事業の取り組みを支援する方向で動きました。例えば、「事業再構築補助金」は、新たなビジネスモデルの開発や事業の転換を支援するために提供されており、多くの企業がこの機会を利用して新事業に挑戦しています。このような政府の支援策は、特に中小企業にとって重要な資金源となり、新たな挑戦を後押ししています。

コロナ禍を通じて、企業は新しい市場の機会を捉え、変化に柔軟に対応する必要があることを痛感しました。新事業の立ち上げは、VUCA(*)と言われる現代の中で生き残るための鍵となり、持続可能な成長を実現するための重要なステップです。政府の支援策も活用し、新しいビジネス環境に適応することで、企業は今後も繁栄を続けることができます。

*VUCA
Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った略語

政府の支援策と企業の取り組み

コロナ禍で、政府は経済の回復と企業の支援に重点を置いてきました。特に注目すべきは、先ほども挙げた「事業再構築補助金」のような大規模な中小企業向け経済支援策です。

  1. 令和2年度第3次補正予算:1兆1,485億円

  2. 令和3年度補正予算:6,123億円

  3. 令和4年度予備費:1,000億円

  4. 令和4年度第2次補正予算:5,800億円

これは事業再構築補助金の予算の変遷ですが、事業再構築補助金のこれまでの総予算を合計すると約2兆4,408億円となります。これは、新事業を始める企業や、既存事業の変革を図る企業に対して資金援助を提供するプログラムとなっており、特に中小企業が新たなビジネス機会を探求し、事業の多様化を図る上で重要な役割を果たしてきました。

政府の支援を受けて、多くの企業が新事業への取り組みを加速させてきました。この中には、デジタル技術を活用した新サービスの開発、エコ関連事業への進出、健康・ウェルネス市場への参入などさまざまな事業展開が含まれます。こうした新事業は、コロナ禍における消費者のニーズの変化に対応すると同時に、企業の成長戦略の多角化にも寄与しているのです。

政府が実施してきた支援策の効果に対する評価は分かれるところですが、政府の資金援助は、特に初期段階においては、リスクが高く資金調達が困難な新規事業にとって大きな助けとなり、多くの中小企業の事業の多角化を後押ししてきたと言えます。また、新事業展開に関わる事業者への発注など、政策による市場の活性化は、企業が新たな市場を開拓しやすくすることで経済全体の回復に貢献していることは間違いないと考えられます。

政府の支援策は、コロナ禍における企業の新事業への挑戦を可能にし、経済の持続的な成長を促進しました。こうして展開された新事業がその後どうなったのか、実際の評価はこれから行われますが、各企業は、これらの支援を活用しながら革新的なアプローチで市場の変化に対応することが求められていることを実感したのがコロナ禍で得られた教訓でしょう。このような政府と企業の協力関係は、今後も経済発展のための重要な鍵となります。

第1部:新事業検討段階

新事業の概要と重要性の理解

さて、ここからは、新事業をどのように立ち上げていくのか、そのプロセスと具体的な考え方を紹介していきます。
新事業とは、既存の市場や業界において新しい価値を提供する事業のことです。これは、新製品やサービスの開発、未開拓市場への進出、または既存事業の革新的な変革を意味します。新事業の立ち上げは、企業の成長やリスク低減において有効な手段であり、競争優位を確保し、長期的な成功を達成するための鍵となります。

新事業の検討は、まず市場と顧客のニーズを深く理解することから始まります。市場調査を通じて、顧客の現在および将来の要求を特定し、これらを満たすことができる製品やサービスを開発することが重要です。また、競合他社の動向を分析し、自社の事業が市場でどのように差別化されるかを明確にすることも、成功への重要なステップです。

新事業を検討する際、明確なビジョンと戦略が必要です。これは、事業の目的、目標市場、主要な競争優位点、収益モデルなどを含めて考えるべきものです。ビジョンとは企業としてどのような姿になりたいのか、戦略とはビジョンを実現するためにどのような考え方で施策を講じていくのか、と言うことです。ビジョンと戦略は、新事業の方向性を定め、関係者全員が共通の目標に向かって努力できるようにする基軸となります。

当事務所において建築事業者がネイルサロンを新たに開業した新事業展開を伴走支援した事例では、女性が働く場所を作ることをビジョンに掲げました。そして、その施策として建築デザイン技術を活かした内装工事によってネイルサロンを開業し、女性が働ける場所を生み出したのです。

新事業にはリスクが伴います。そのため、リスク管理計画を策定し、不確実性に対処するための戦略を用意することが重要です。また、環境、社会、ガバナンス(ESG)基準を考慮に入れ、持続可能な事業モデルを採用することで、長期的な成功の確率を高めることができます。

企業における新事業の概要と重要性を理解することは、事業の成功のための最初のステップです。市場と顧客のニーズを深く理解し、明確なビジョンと戦略を持って臨むことで、新事業は成功への道を歩むことができます。この段階では、リスク管理と持続可能性にも注意を払い、長期的な視点で事業を展開することが求められます。

市場分析と機会の識別

市場分析と機会の識別の段階では、市場の深い理解に基づき、潜在的なビジネス機会を明らかにすることが求められます。コロナ禍の影響によって多くの業界が急速な変化を遂げており、従来のビジネスモデルが通用しない状況に直面しています。このような環境では、柔軟性と革新性が新事業の成功に不可欠で、そうした対応が可能かどうかも市場分析と機会の識別をする判断基準になります。

市場分析では、顧客の動向、競合分析、業界のトレンド、技術進化など、さまざまな要素を総合的に考慮します。ここで重要なのは、単にデータを収集するだけでなく、それらのデータから意味ある洞察を引き出すことです。例えば、リモートワークの普及によりオフィス関連製品の需要が減少する一方で、在宅勤務用の設備やサービスへの需要が高まっていることや、オンラインショッピングやデリバリーサービスの需要が増加していることなども注目するポイントでしょう。このように、消費者の行動パターンの変化を理解することで、新しい顧客ニーズを見出し、それに応える新サービスや製品を開発することが可能になります。

また、市場分析の一環として、SWOT分析(*)を実施することは非常に効果的です。自社の強みと弱みを理解し、外部環境の機会と脅威を特定することで、戦略的な意思決定を行う基盤を築くことができます。この分析を通じて、新事業が直面するであろう課題やリスクを事前に識別し、計画の段階で対策を講じることができるのです。特に、強みと機会を組み合わせたビジネスチャンスの理解と、弱みや脅威の対策を予め講じておくことは、新事業展開の失敗のリスクを低下させます。

*SWOT分析
強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を分析するツール

市場分析を行う際には、多角的な視点を持つことが肝心です。例えば、同業他社の成功事例や失敗事例を分析し、それらの経験を自社の事業計画に反映させることで、失敗を避け、成功の確率を高めることができます。また、新しい技術やイノベーションを取り入れることで、市場に新風を吹き込み、競合他社との差別化を図ることも重要です。貸コテージ事業の事例では、これまでの管理人常駐の常識を覆し、貸会議室等で利用され始めていたスマートフォンアプリによる鍵の受け渡しの自動化を進めました。こうすることで、人件費の削減が可能になり、他社と比較して優位性を持たせることができました。

最終的に、市場分析と機会の識別を通じて、新事業の具体的な方向性を定めます。この過程では、市場のニーズに応えるだけでなく、社会的な価値や環境への配慮も重要視する必要があります。持続可能で社会的な影響力を持つ事業は、長期的な成功の可能性を高めるとともに、企業のブランド価値を向上させるからです。言い換えれば、そうした社会的価値も同時になければその事業は長く続かない可能性が高いでしょう。

リスク評価と初期計画

新事業を進める際のリスク評価と初期計画は、新事業の構想を実現するための具体的なロードマップを作成するためのものであり、その中で様々なリスクを特定し、それに対処する方法を計画します。

まず、新事業のリスク評価においては、既存事業の現状を把握することが重要です。既存事業がトラブルに直面している場合、新事業を進める前にこれらの問題を解決することが不可欠です。新事業への取り組みは、既存事業の効率化と利益率の向上が確立した後に行うべきだと考えます​​。

次に、新事業の初期計画を立てる際には、しっかりとした土台を築くことが重要です。事業の成功は、その事業の基礎がしっかりと固まっているかどうかに大きく依存します。初期計画段階で、事業の目的、ターゲット市場、競合分析、財務計画などを明確に定義し、それに基づいて戦略を策定する必要があります​​。

新事業を立ち上げるには、過去の経験から学び、将来のリスクを予測することも重要です。これまでに行った検討や戦略立案を振り返り、顧客ニーズの誤解や読み違いがないかを確認します。特に、クラウドファンディングなどを通じて明らかになった顧客ニーズは、戦略を再考する機会を提供してくれます​​。

また、顧客獲得戦略においては、具体的な根拠に基づいて計画を立てる必要があります。たとえば、飲食店の場合、最寄り駅の利用者数や近隣の大学に通う学生数などの具体的なデータを基に顧客数を推定し、それに基づいて売上目標を設定します​​。こうした人口数や年齢構成などのデータは、各自治体のウェブサイトから得ることができます。

リスク評価と初期計画を丁寧に行うことで、新事業は実現可能性が高まり、成功への道を切り開くことができます。このプロセスは、新事業の持続可能な成長と進化に対する基礎を築くために不可欠です。

第2部:戦略立案段階

戦略の方向性の決定

新事業を成功に導くための戦略立案段階では、まずはしっかりとした土台を固めることが重要です。この段階は、新事業の将来の方向性を定め、具体的な行動計画を策定するためのものです。このプロセスでは、戦略立案の土台となる3つのフレームワークを用いて、事業の方向性を決定します​​。

第一に、先述したSWOT分析を活用します。この分析では、Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの側面から事業を評価します。この分析により、自社の強みを最大限に活かしつつ、弱みを克服する方法を考えることができます。また、外部環境における機会と脅威を特定し、機会を掴みに行く方針と脅威を回避もしくは脅威に備えた対策を講じるなど、事業計画に反映させます。

次に、3C分析を行います。この分析では、顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の視点から市場を分析し、事業の競争優位を明確にします。この分析により、ターゲット顧客のニーズを深く理解し、競合他社との差別化を図ることが可能になります。特に競合の調査は、ターゲットにしている市場が現時点で不足している点や自社の特徴を浮き彫りにさせます。多角的な観点での分析を行いましょう。

最後に、マーケティング4P(Product、Price、Promotion、Place)または4C(Consumer、Customer cost、Communication、Convenience)を用いて、具体的なマーケティング戦略を立案します。これにより、どの製品をどのような価格で、どのように販売し、どのように顧客にアプローチするかを決定します。

これらの分析を通じて、新事業の戦略の方向性を決定し、実行に移すための具体的な計画を立てることができます。この段階では、情報を十分に収集し、それを基に戦略を練ることが重要です。行政や自治体が公開している各業界の状況をまとめた情報や住民に関する情報のオープンデータの活用が有効です。また、このプロセスは事業の成功を大きく左右するため、慎重に取り組む必要があります。

目標設定と戦術の開発

新事業を成功に導くための戦略立案段階における目標設定と戦術の開発は、事業の将来像を形成し、その実現に向けた道筋を定める重要なプロセスです。この段階では、明確な目標と具体的な戦術を組み合わせることで、新事業の方向性を定め、成功への土台を構築します。

まず、目標設定においては、新事業の目指すべき具体的な成果や達成すべきキーパフォーマンス指標(KPI)を定義します。これには、売上目標、市場シェア、顧客獲得数などが含まれ、事業の進捗を測定し調整する基準となります。

例えば、ラーメンチェーン店が新たに焼肉店を開店した事例では、ランチ営業と夜営業のそれぞれの来店顧客数(新規顧客数+リピート客数)、顧客一人当たりの平均単価をKPIとし、そのKPIを達成するための戦術を検討していきました。

次に、戦術の開発では、目標達成のための具体的な方法論やアプローチを策定します。これには、製品開発の方針、マーケティング戦略、販売チャネルの選定、運営体制の構築などが含まれます。ここでの重要なポイントは、市場や顧客のニーズを踏まえた戦略の立案です。

BtoBの板金加工業を営む事業者が、BtoCとなるキャンプ用焚火台を開発し、製造および販売事業を展開した事例では、アウトドア用品の展示会への出展や、キャンプ場現地で行っているイベントへの出展を通じて、キャンプに訪れる顧客が他人とは違った自分オリジナルのキャンプ用品を使用したいニーズをつかみ、レーザー加工によるデザインを施すサービス開発をしました。

また、状況の変化に対応する柔軟性も重要です。市場の動向や顧客の反応に基づき、戦略を柔軟に調整することが求められます。例えば、予期しない市場の変化や競合の動きに対応するため、戦略を修正することが必要になる場合もあります。この際、「検討が悪かった」と考えるのではなく、「この段階で分かって良かった」と捉え、柔軟に戦略を変えていく姿勢が重要です​​。

目標設定と戦術の開発を通じて、新事業はそのビジョンに向かって確実に進むことができます。このプロセスは、新事業の成功に向けた明確なガイドラインを提供し、事業の成長と進化に貢献することになります。

リソースとタイムラインの計画

新事業を成功に導くための戦略立案段階では、リソースの確保とタイムライン(日程計画)の精密な計画が極めて重要です。この段階では、新事業の特性に合わせて必要な人的、物理的、財務的リソースを特定し、それらを効果的に割り当て、進捗を追跡するタイムラインを策定します。

リソースの計画では、特に人的資源の確保が重要です。新事業においては、既存の従業員のスキルを活用するだけでなく、必要に応じて新たな才能を採用し、または外部の専門家を活用することがあります。日本の企業においては、「仕事に人を割り当てる」のではなく、「人に仕事を割り振る」傾向があるため、新事業の成功のためには、この慣習を見直し、適切な人材を適切なポジションに配置することが重要です​​。

言い換えると、新事業においては戦略を実現するための課題や、課題解決に必要なタスクを分解してリスト化およびスケジュール化し、その課題解決やタスクに適した人材を配置する、ということです。そして、その人材が内部にいないのであれば、外部の専門家を登用することも必要でしょうし、能力を持った人材がいたとしてもスケジュールが間に合わないのであれば、スピードを速めるために外部の事業者に委託することも選択肢となります。

物理的リソースに関しては、新事業の展開に必要な設備、技術、オフィススペースなどを計画的に確保します。また、財務資源の面では、新事業の開始と継続に必要な資金調達と適切な配分を行います。この段階では、資金調達のためのさまざまなオプションを検討し、最適な選択を行うことが求められます。このように、人的リソース、物理的リソース、財務的リソースは密接に絡み合う関係性になっており、それぞれの検討をする場合には質の高いコミュニケーションが求められるのです。

タイムラインの計画では、新事業の重要なマイルストーンを定め、それぞれの段階での目標と期限を設定します。目標達成のための課題や課題解決のためのタスクが明確になっていないとき、会議などの場でも期限が明確に設定されないことがありますので、時間軸には特に注意をしておくと良いでしょう。新事業の各フェーズにおける目標の達成度を定期的にモニタリングし、必要に応じて計画を調整します。市場の動向や競合他社の動きなど、外部環境の変化に対応するための柔軟性も重要です。環境が変化した際に、スケジュールに影響があるのか、影響があるとすればどの程度影響があるのかを慎重に検討しましょう。

コロナ禍での例を挙げれば、人的リソースにおいてはコロナ感染により出勤できないために生産活動やサービス活動が限定的になってしまうなど、労働人材不足などの問題が明るみになってきました。また、同様の影響で半導体関連製品を中心とした供給力不足も問題となり、サプライチェーンが混乱し、受注はある一方で部品の納入ができずに生産できない事態に陥りました。財務的リソースにおいては、いわゆる“ゼロゼロ融資”や補助金・助成金を中心に資金調達に関する施策は実施されたものの、生産できないことやサービスが限定的になるなどのキャッシュインは滞り、一方でキャッシュアウトはなかなか減らすことができないなどの問題が生じました。こうしたさまざまな方面で生じる問題に対して、解決しなければならない課題や、実行しなければならないタスクを柔軟に管理する必要があったのです。

新事業の戦略立案段階におけるリソースとタイムラインの計画は、事業の成長と成功に向けた基盤を築くために不可欠です。このプロセスを通じて、新事業は方向性を維持しつつ、市場の変化に迅速に対応し、持続的な成長を目指すことができます。

第3部:課題形成段階

実行のための具体的な課題の特定

新事業展開における課題形成段階は、事業の成功を左右する重要なプロセスです。この段階では、新事業の実行に向けた具体的な課題を明確にすることが求められます。新事業に取り組む際には、大きく6つの視点から網羅的に課題を特定することが重要です。これらの視点は、一般的に“経営資源”と言われる「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」に加えて、「過去」「未来」を加えたものとなります。

  1. ヒト(人的リソース): 新事業の成功は、適切なチーム構築に大きく依存します。事業を推進するために必要なスキル、経験、リーダーシップ能力を持つ人材の選定と配置が重要です。また、既存従業員のスキル向上や新たな才能の採用とともに、前述したとおり外部の専門家の活用なども検討されるべき内容です。

  2. モノ(物理的リソース): 新事業に必要な物理的資源、特に設備やITシステムの確保は、事業の効率と品質に直接影響を与えます。必要な設備の有無、新たな技術の導入、ITシステムのアップグレードやカスタマイズの必要性を評価します。

  3. カネ(財務的リソース): 資金は新事業の命綱です。資金調達の戦略、予算配分、財務管理の計画が必要です。資金調達の方法として、銀行融資、クラウドファンディング、投資家からの資金調達など、さまざまな選択肢があります。昨今では、クラウドファンディングは市場のニーズも把握できる点で非常に有効な手段と考えています。

  4. 情報: 市場の動向、競合分析、消費者行動の理解など、正確かつ最新の情報を基にした意思決定が重要です。成功事例や失敗事例からの学びも新事業の方向性を定める上で役立ちます。新事業展開においては、情報を得ている範囲やその情報の正しい解釈が成否を分けると言っても過言ではありません。

  5. 過去: 過去の経験や過去の取り組みからの学びは、新事業の計画において重要な指針となります。過去の成功や失敗から得た教訓を活かし、新事業に応用します。ただし、過去の失敗を過度に評価することは禁物です。失敗の原因分析とともに、現在の環境も正しく理解し、得てきた教訓を改めて整理・整頓してみると良いでしょう。

  6. 未来: 長期的な視野で将来の市場動向や技術革新、競合の動きを予測し、それに対応する戦略を立てることが重要です。特に、大企業による模倣のリスクや市場の変化に対する迅速な対応計画が必要です。一方で、未来を完全に予測することは困難を極めます。“分析麻痺症候群”になりいつまで経っても計画を実行できない事態を避ける意識を持ちつつ、進めてみなけ出れば分からないことは進めてみてから検証を進めるなど、一定の勇気は必要です。

これらの視点を基に、新事業に対する包括的な課題を形成し、具体的な取り組み内容を計画することで、新事業の立ち上げと成長をスムーズに行うことができます。新事業の課題形成段階は、事業計画の成功を左右する重要なプロセスであり、慎重かつ総合的なアプローチが求められますが、課題を正しく設定できればその課題解決策も解決するためのリソースも明確になるため、実行の自走フェーズに乗ったと言えるでしょう。

チームと資源の配置

新事業の成功には、チームと資源の適切な配置が不可欠です。この段階では、新事業に必要な役割とそれを担うチームメンバーの選定、必要な資源の割り当てに重点を置きます。日本の企業文化においては、従来「人に仕事を割り振る」方法が一般的でしたが、新事業の成功のためにはこのアプローチを見直し、「仕事に人を割り当てる」必要があります​​。

余談ではありますが、「適材適所」とは昔から言われている言葉ですが、これはまさに適材があって適所を割り当てる考え方です。むしろ逆で、「適所適材」の考え方で、適所が合って適材を割り当てていくのです。

まず、新事業における必要な役割を明確に特定することから始めます。これには、製品開発、マーケティング、営業、財務管理など、新事業の運営に不可欠な各種機能の特定が含まれます。この役割の特定では、前述した課題とタスクの明確化を参考にされると良いでしょう。役割の特定が完了したら、それぞれの役割に最適な人材を配置します。これは、既存の従業員のスキルセットを活用することを意味するだけでなく、新たな才能の採用や外部の専門家の活用も含まれることは再三申し上げている通りです。

次に、新事業の運営に必要な物理的および財務的リソースの割り当てに着目します。これには、新事業に必要な設備、技術、オフィススペースの確保や、資金調達および予算配分の計画が含まれます。新事業の目的と戦略に合致する資源の割り当てが、事業の効率的かつ効果的な運営を可能にします。いずれも、「利益を生むための投資になっているか」を考えてみると良いでしょう。

また、新事業における体制整備には、越境思考、いわゆるオープンイノベーションへの意識も重要です。これは、社内外のリソースを組み合わせ、革新的なアイデアや技術を積極的に取り入れることを意味します。なにかと部署の壁や企業間の壁などがプロジェクトの進行を阻害することがありますが、新事業の場合にはオープンイノベーションを通じて、外部のアイデアや技術を取り入れることで、競争力を高めることができます。

このように、新事業の課題形成段階におけるチームと資源の配置は、事業の成功に向けて重要なステップとなります。適切な人材の配置と資源の割り当てにより、新事業はその目標に向かって確実に進むことができるようになります。

監視と調整の戦略

新事業展開において、監視と調整の戦略は抜けがちな概念なので改めて記述します。この段階では、事業の進捗を適切に監視し、必要に応じて迅速に調整を行う方法に重点を置きます。

監視戦略の第一歩として、新事業の各側面に対する定量的および定性的な評価指標を設定します。これには、売上、利益、市場シェア、顧客満足度などのここまでのプロセスで設定したいわゆるKPI(定量的指標)のほか、ブランドイメージ、顧客ロイヤリティ、従業員のモチベーションなどの定性的指標が含まれます。これらの指標を用いて、新事業のパフォーマンスを定期的に評価し、目標達成に向けた進捗を確認します。顧客を含む関係者のロイヤリティには特に注意を払う必要があり、新事業に対する期待を裏切らないための報告や問題に対する対策の立案が必要になります。

調整戦略では、市場の動向や内部環境の変化に柔軟に対応することが重要です。たとえば、市場の需要が予想と異なる場合や、競合他社の動きが事業に影響を与える場合、迅速かつ適切な調整が必要です。このためには、組織内の意思決定プロセスを効率化し、変更が必要な際には素早い行動が取れるように準備します。

コロナ禍では、資材の調達に大きな支障がありました。必要な部材の入荷が遅れることや、その部材を短納期で調達する際には高額な費用が必要になるなど、新事業展開のスケジュールや財務リソース管理に大きく影響しました。また、内部環境の変化の例では従業員の退職があります。市場環境が複雑に変化する中で、別の業界に転職するなど人材の流動化も進みました。そうした状況を踏まえ、人員配置や新たな人材の採用戦略なども再考する必要に迫られるなど、新事業展開には大きな影響があったことでしょう。

そして、新事業に関連するリスクの管理も重要な要素です。リスク管理計画を策定し、潜在的なリスクを予測し、それらに対する対策を講じることで、新事業の持続可能性を高めることができます。リスク管理は、財務的リスク、運営上のリスク、市場リスクなど、多岐にわたるリスクをカバーしなければならず、多面的な視点が必要になります。こうした多面的な視点を補うための専門家の活用なども積極的に行われるようになってきました。

さらに、新事業の進捗に応じて、チーム構成やリソース配分を見直すことも重要です。特定の領域で人的資源や技術的な知見が不足していることが原因でスケジュールに送れが生じている場合、社外の力を借りることが企業全体にとってメリットがある場合が多いです​​。そのためには、スポット的に社外の資源を活用し、必要な能力や専門知識を補います。自治体や商工会・商工会議所が実施している専門家活用のスキームは、比較的安価に活用できる制度として充実してきています。

新事業の監視と調整の戦略は、事業の成功を確実にするためには欠かせない要素です。これらの戦略を通じて、新事業は変化する市場環境に柔軟に対応し、持続的な成長と進化を実現することができるのです。

第4部:収益性評価段階

収益予測と財務計画

新事業展開における収益性評価段階では、事業の収益性を数値として具体化し、その実現可能性を評価します。この段階では、収益予測と財務計画の2つの主要な要素に焦点を当てます。

  1. 収益予測: 収益予測では、新事業が将来にわたって生成する収入の見積もりを行います。これには、市場分析、顧客獲得戦略、価格設定、販売量の予測などが含まれます。収益予測の目的は、新事業が経済的に実行可能であるか、および期待される収入が初期および継続的な投資を正当化するかを判断することです。利益を生み出せる事業でなければ行う必要はありませんし、可能な限り利益を生み出すための計画やKPIの再考をします。

  2. 財務計画: 財務計画では、新事業に関連する費用と投資の詳細な分析を行います。ここでは、初期投資、運営コスト、資金調達戦略、リスク管理計画などが考慮されます。特に、投資回収期間を計算し、耐用年数の60~70%を目安として投資回収計画を立てることが推奨されます。この計算では、フリーキャッシュフロー(営業利益+減価償却費)を使用し、実際のキャッシュフローを考慮した投資効率を評価します​​。

収益予測と財務計画は、新事業の財務的な実行可能性を最終的に判断する重要なポイントです。収益予測は新事業の市場ポテンシャルを示し、財務計画はそのポテンシャルを実現するための資金的な基盤を提供します。これらのプロセスを通じて、新事業はその経済的な実現可能性を評価し、長期的な成功のための堅固な基盤を築くことができます。

投資回収期間の分析

新事業展開における収益性評価の重要な側面は、投資回収期間の分析です。この段階では、新事業にかかる初期投資がどの程度の期間で回収可能かを検討し、事業の経済的実行可能性を判断します。

新事業の収益計画においては、初期投資した資産の耐用年数に注目します。前述したように、耐用年数の60~70%の期間内で投資を回収できることが理想的です。例えば、150万円の初期投資で耐用年数が3年の場合、2年程度でこの投資を回収することを目標に設定します​​。

この分析では、単に減価償却費を経費に含んだ営業利益で計算するのではなく、投資の回収能力をより正確に評価するために実際のキャッシュフローを考慮します。したがって、この計算には、売上の増加や利益率の向上、融資を受ける場合にはその返済計画など、投資回収に貢献するさまざまな要因を検討します。

もし計画段階で設定した投資回収期間を達成できない場合は、売上や利益を上げるための追加施策を練り直す必要があります。これには、KPIの修正に伴って、製品やサービスの改良、市場戦略や販売戦略の見直し、コスト削減などが含まれます。

投資回収期間の分析は、新事業が長期的な財務的健全性を持つための重要なステップです。この分析を通じて、事業が経済的に持続可能であるかを評価し、必要に応じて事業戦略を調整することが可能となります。言い換えれば、投資回収の見込みが厳しい場合には新事業を撤退することも選択肢に入れなければなりません。キャッシュが尽きることだけはなんとしても避けることが、経営者としても従業員にとっても絶対条件なのです。

収益性の継続的な評価と改善

新事業の成功を持続させるためには、収益性の継続的な評価と改善が不可欠で、このプロセスは、新事業が始動した後も継続的に行われるべきです。収益性を評価する際には、特定の重要管理指標(KPI)を定め、これらの指標を通じて事業の成果を測定します​​。

具体的には、例えばさろにゃ飲食店のサービス業では以下のような指標が考慮されます:

  • 顧客数:新事業がどれだけの顧客を獲得しているか

  • 平均単価:一人の顧客が平均的にどれだけの収入をもたらすか

  • リピート率:顧客が繰り返しビジネスを行う割合

  • 利益率:収入に対する純利益の割合

これらのKPIを定期的に監視し、目標とのズレがあれば迅速に調整を行います。たとえば、顧客数が期待値を下回っている場合は、マーケティング戦略を見直す必要があります。また、平均単価の低下は価格戦略の見直しや、商品・サービスラインナップの拡充、顧客に付加価値を提供する新たなサービスの導入を示唆するかもしれません。

収益性の継続的な評価と改善は、新事業の健全な成長と発展を保証するために重要です。市場環境や顧客の要求が変化する中で、新事業は常に進化し続ける必要があります。このプロセスにより、事業が目標に向けて適切な進路をたどっているかを定期的に確認し、必要に応じて戦略を調整することができます。

さいごに:継続的な成長と進化

新事業の成果の評価

新事業の展開は、単に成功した事業を立ち上げること以上の意味を持ちます。このプロセスは、企業の継続的な成長と進化に不可欠な要素です。特に、新事業の成果の評価は、企業が今後も持続可能な成長を遂げるための基盤となります。

新事業の成果評価では、以下の要素が重要となります:

  1. 実際の業績と目標の比較:新事業の実際の業績を計画や目標と比較し、どこが上手くいっているのか、または改善が必要なのかを把握します。

  2. 市場動向の分析:市場の変化や競合他社の動向を分析し、新事業がこれらの変化に適応しているかを評価します。

  3. 顧客のフィードバックとエンゲージメント:顧客からのフィードバックやエンゲージメントの分析を通じて、顧客のニーズと満足度を測定し、製品やサービスの改善点を見つけます。

  4. 財務的な健全性の評価:収益性、利益率、投資回収期間などの財務指標を分析し、新事業が長期的な財務的健全性を保っているかを確認します。

これらの評価を通じて、新事業の強みと弱みを明確に理解し、今後の戦略的方向性を定めることができます。また、継続的な市場と顧客のニーズの変化に対応するための適応能力を高め、新事業の成長と進化を支える重要な学びを得ることができます。

結論として、新事業の成果評価は、単なる業績の測定以上の意味を持ち、企業の未来に向けた戦略的な意思決定の基盤となる重要なプロセスです。このプロセスを通じて、企業は持続的な成長と進化を遂げ、変化する市場環境の中で競争力を維持することができます。

こうした新事業展開に挑戦し、挑戦したからこそ得られた経験は、企業の資産そのものになるでしょう。

学びと次のステップ

新事業の展開は、企業にとって重要な学びと成長の機会を提供します。このプロセスを通じて得られる教訓は、企業の将来の方向性や戦略に大きな影響を与える可能性があります。成功したプロジェクトは、自信とモチベーションを高め、組織全体の成長に貢献します。一方で、挑戦が失敗に終わった場合でも、失敗から学ぶことは多く、それらの教訓は次の成功へのステップとなります。

具体的には、以下の点が考慮されます:

  1. 失敗からの学び:新事業の失敗は、市場の理解不足、計画の甘さ、実行の不備など多様な原因があるかもしれません。これらの失敗は、より効果的な戦略を立てるための貴重なデータとなります。

  2. 成功の再現:成功した要因を分析し、他の事業や新たなプロジェクトに応用することで、組織全体の成果を増やすことができます。

  3. 組織文化の強化:新事業への挑戦は、組織内のイノベーション文化を育み、変化に対する適応能力を高めます。

  4. 次のステップ:学んだ教訓を活かし、次の新事業や改善策に反映させることで、より効果的な成果を生み出すことが可能です。

新事業の経験は、企業が未来に向けて成長し続けるための強力なドライバーとなります。学んだ教訓を活用し、組織としての柔軟性と革新性を高めることで、持続可能な成長を実現することができます。このプロセスは、単なる事業展開以上の価値を持ち、企業の長期的な成功に寄与する重要な要素です。

いかがでしたでしょうか。

業種や業界を絞って書かなかったため、少し抽象的な表現も多い内容になっていますが、新事業展開を検討している企業はこの記事をガイドラインとして活用していただき、特に計画段階での抜け漏れを失くすことで新事業展開の成功の確率を上げていただければありがたいです。

また、既に新事業展開を検討している場合、こうしたガイドラインを持つ専門家としてお声がけいただければありがたいですし、ぜひ新事業展開の成功に伴走させていただきたいと思っています。

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