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映画感想文│『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』派手さを増したクライムアクション!

観方を誤ったためにどうしてもノれなかった前作だが、その反省を活かして続編の鑑賞に臨んだ。

前作のラストを受けて…

前作のラストに明かされた5人目のフォー・ホースメン。その人物の回想から本作は始まる。この回想シーンは結構きちんと作ってあって、多少の違和感はあるものの若モーガン・フリーマンや古いフィルムの雰囲気など、回想であることが間違いなく伝わるようになっている。

ここで改めて動機や確執について語られることになるのだが、それでもやはり伝わりにくい気がした。他のメンバーについてもそうだが、とにかくこの映画は個々の人格描写が弱い。何故そこまでして復讐しなくてはならなかったのか、何がそのキャラクターを駆り立てるのか、その先にある目的は何なのか…そういった要素が何となくフワフワしていて、終いには「エゴ」の一言で片付けられてしまう。

その辺の事情を察する能力が私自身に足りていない可能性は否定できないが、それにしても入り込みにくいのだ。

新生フォー・ホースメン

更に本作では、フォー・ホースメンのうち1名が脱退してしまったという設定になっており、抜けた理由やそれによる影響などは曖昧なまま、代わりの人物がアッサリと加入する。欠員が出てもすぐに補充できるような類のチームではないと思うのだが、しかしどうもそういうことのようだ。

これについては「トランスフォーマー」に於けるミーガン・フォックスのような所謂大人の事情が本当の理由なのかも知れないが、それにしても雑に処理されてしまっている印象だ。

或いは次回作以降に向けてのギミックとして突然の交代となった可能性も無くはない。仮にそうであったならば、「ほぉ」と感心させられる手口である。ただ本作はそういう映画ではない気がするので、望みは薄いだろう。

唯一の救いは新メンバーがなかなか良いキャラクターで、交代前よりも映画の雰囲気にマッチしているという点である。このキャラクターについては終始一貫したテンションのままでいてくれたお陰で、本作に於いて最も入り込みやすい人物だった。役者も良かったのだと思う。

新たなメンバーを迎えたフォーホースメンはと言うと、相変わらず刺々しいコミュニケーションを取り合うことでギスギスしているように見える。いつ誰が裏切ってもおかしくないと思うのだが、5人目は彼らの何を見込んでいるのだろうか。

今作に於いては5人目ばかりでなく、その上位に位置する組織である「アイ」の存在を印象付けてくる。いずれにせよ不安定なこのチームを信頼する根拠は不明だ。

そんな4人で臨む初舞台は何者かの手によって妨害され、中断を余儀なくされたばかりか拉致され、マカオまで連れて行かれてしまう。(何てこった、この映画の舞台も中国になっちまった!)

今回の見所

実に派手なこの誘拐劇。その決め手になるのも残念ながら催眠術であり、その催眠術を使ったのはメンタリストの弟であり、これは前作でカネを持ち逃げしたマネージャーと語られていた人物だ。本作もこの路線で行くぞという力強いメッセージを感じる誘拐劇であった。

つまり前作で感じた「ドクター・ストレンジ」とか「ハリー・ポッター」路線ということだが、恐るべきことにハリー・ポッター本人まで登場してしまったので、これは何よりのサプライズである。今の私はクリスチャン・ベールが登場してバットマンチームが結成されたり、ベネディクト・カンバーバッチが登場してアッセンブルされても驚かない。

本作に於けるハリーはどうも魔術(カネ)を使い過ぎたせいでダークサイドに堕ちてしまった設定のようだ。フォーホースメンをいとも簡単に誘拐し、生き延びたければ泥棒をして来いと命じる。

こうして本作は突然オーシャンズシリーズの少人数版となり、4人は計画を練り、道具を揃え、訓練を積み、本番へと挑むのであった。

本作の大きな見せ場である泥棒シーンは、格好良くそしてわかりやすく撮られていた。ただ、オーシャンズとは違って彼らには催眠術というワイルドカードが存在する以上、残念ながらハラハラするシーンにはならない。メンタリストの存在自体が、この映画の足を引っ張っているのではないだろうか。

ただ今作もアクションシーンはしっかりしていた。今回はマーク・ラファロがゴリゴリの格闘戦を見せてくれるので、緑色の巨人にならないかとヒヤヒヤしてしまう。マジックを使った格闘戦は、ハリウッド映画に多い拳での語り合いとは一味違うスピード感と爽快感のある珍しい肉弾戦を演出している。私はかなり本気で本シリーズの見所は格闘戦なのではないかと思っているくらいだ。

クライマックスへ

このあたりから物語はクライマックスへ向けて突き進むのだが、私には誰が何をしたいのかイマイチ把握しきれていない。マジックやイリュージョンの楽しさを前面に押し出す映画である関係で、本作のキャラクター達は作戦が失敗しても深く落胆したり反省したりすることが無い。

ミッションインポッシブル」ならばイーサンが独断で突っ走った結果大体テロリストに重要な情報なり平気なりが渡ってしまうことになるのだが、その失敗をカバーするために奔走するというパターンが確立されている。そのため、失敗したシーンではこの世の終わりのような雰囲気でチームが揉めたり心変わりする者が現れたり、或いは裏切り者の存在が炙り出されたりして物語の転換となるのだが、フォー・ホースメンは何となく淡々と次の作戦へと進んで行く。そうして結果的に上手く行ったようにしか見えないのに、全部計算通りだぜ!といった具合で終わってしまうのだ。その流れについて行けないと、この映画を充分に楽しむことは難しい。

今回のラストは前作以上に大掛かりな仕掛けでロンドンを賑やかに彩る。このあたりのゴージャスさは折り紙付きで、かなりハイテンションに物語は進行する。フォーホースメンの街角マジックによる前哨戦もなかなか面白いギミックになっていて、群衆たち同様に楽しむことができるだろう。こういう地味なマジックの方が却って引き込まれるものなのだ。

しかしそんな今回のショーも途中で妨害を受け、フォーホースメンは再び捕らわれてしまう…。

今回のオチ

結局今回もオチに使われるトリックは例のアレなのだ。そう、催眠術である。最後の最後に用意されていたドンデン返し的な人間関係についても、いやそうはならんやろ…としか思えず、私は呆然とエンドロールを見つめていた。

前作同様にFBI側からの視点も挟みつつ進行する本作だが、FBIの主要メンバーが抜けてしまったので非常にオマケ感の強い組織になってしまっている。悪人に仕返しする為、多くの犯罪行為に手を染めているホースメンなのだから、本来ならばFBIにこそ感情移入しやすいだろうに…。

本作はフォーホースメン(+アイ)VSハリー・ポッター(+パパたち)の構図が余りにもはっきりしてしまっていた。そう言えば前作のラストで謎の後味を残したインターポールの捜査官は影も形も登場せず、より一層ラブロマンスの意味がわからなくなった。

消費することが当たり前になった現代社会を簡単に消費される登場人物によって痛烈に皮肉っているというわけではないだろうから、何だか勿体ないなぁという感想が最後に残るのであった。

おわりに

画面の見栄えや仕掛けの規模は前作を大きく上回っており、数多く用意された見所によって次から次へと物語が進む本作。娯楽映画としての面白さは間違いなく保証されているだろう。

ただ何か物足りなさを感じてしまうのだ。この映画のラストは、螺旋階段を意味深に映して終わりであってはならないと思えてしまうのだ。

次回作に期待しつつ、私は「プレステージ」のブルーレイを棚から取り出していた。

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