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『あなたの事が気になっています。』第6回「生アンガーマネジメントしてた人」

こんにちは。お昼の春菊と申します。今回はアンガーマネジメントをしている人を初めて目の前で生で見た時のお話です。何卒よろしくお付き合い下さいませね。

ちなみにですが今回も新宿で体験した話。なんとまあ滞在時間に対してエピソード量比率の高い街です。単純に治安悪くて変な人を沢山見るからなんだと思います。東京に魅了を感じる方も夢を抱く若者も多いのでしょうけど、多分、実際はそんな場所。余談はさておき。


 すごくザックリとですが「アンガーマネジメント」とは自分の怒りの感情をコントロールする為の方法や思考術の事で、一時期、有名人がお酒で揉め事を起こして活動自粛・謹慎して復帰した時に「アンガーマネジメントの勉強もしていました」と発言したりした事でも注目されましたよね。専門家でなくてもちょっと調べればすぐに理念や実践方法も知る事が出来ますし、法人化された協会まであったり、もう最近では言葉も浸透している感じです。

もちろん教える人やその人の程度によって具体的なアンガーマネジメントのやり方は様々あるものの、無学の私のような者でも知ってる基礎的で有名なものとして「他人への怒りの感情が抑えられなそうな時は目を閉じて6秒深呼吸する」というものがあります。”人間の感情的な衝動はとりあえず6秒間以上続かない”という事らしいです。

効果が実際どうなのかは置いておいて、知識として具体的な方法を知っておくのは良い事ですよね。一時的な感情で暴力を振るって後悔するよりは、一旦、実践してみて6秒経ってから暴力を振るって後悔する方が本人的には納得がいきますよね。そんなアンガーマネジメントですが、2年程前に私はそれを街中で見たことがあります。



私が普段よく通る、西新宿の高架下を抜ける交差点はいつでも人混みが凄く、特に夕方になると立ち並ぶオフィスビルから出てくる疲れた勤め人が多いので、この辺りを歩く人の特徴として歩速が速いです。一刻も早く帰宅するか飲みに行きたい人々が殺伐と一直線に駅前に向かって歩く人波は、ある種の統制が取れた行進のよう。

ですがそこは新宿。やはり日が沈むと高確率で”変ってるめの人”も街に混じってきて、時に流れを無視して全力疾走してるような輩がいたり、喧嘩や罵り合いも割とよく見かけます。日常的なのでみんな見て見ぬ振りで基本スルーします。

この日も少し離れた場所から、多分、歩行者同士の揉め事なのか「痛えな、おい!謝れよ!」という声が聞こえてきました。遠巻きに見てみると、捲したてて罵っている勤め帰りと思しきスーツの男性と、罵られているTシャツジーパン姿にリュックの男性。おそらく察するに男性のリュックが何かの拍子で相手にぶつかったのか、リュックの方の男性は俯いて何も言わないままです。その様子を見て「いける!」と思ったのか、スーツの男性は「なんとか言えよ!」と更に罵り続けていました。

その時です。リュックの男性がおもむろに目を瞑って天を仰ぎ、その場で大きく口を開け、深呼吸を始めたのです。

見ていた私も「えっ、何それ!」と意外な行動に戸惑いましたが、当事者のスーツの男性の戸惑いはそれ以上でしょうか。さすがに何を言ってるかは聞こえませんでしたが、リュックの男性は目を瞑りながら何やら口元でブツブツも言っています。それまでのすべての流れを寸断し、時が止まったように「スウぅ〜フウぅ〜〜」と深呼吸を繰り返す男性。

その唐突さと見慣れぬ反応に気味が悪くなったのか、喧嘩を吹っかけた方のスーツの男性は捨て台詞を吐き捨てて行ってしまい、夕闇の西新宿には深呼吸音だけが残されました。

そこから数秒後、夢から醒めたように目を開けたリュックの男性は、少し辺りを見回し、相手がいなくなったのが少し意外そうな顔をして、それから何事もないように歩いて行きました。



まさか生で見る事があるとは思っていなかった私は「あ!今のはアンガーマネジメントだ!」と興奮しました。起きた光景を振り返っても、喧嘩の冒頭で急に目を瞑って天に向かってフーフー言いだす男性の異様さは中々のものがありました。

『酔拳』のジャッキーチェンが戦いの最中にガブガブお酒を飲みだしたり、『ドラゴンボールZ』で願いを叶え損なったフリーザが怒りすぎて1回笑ってたりするような、常人ならざる不気味さが確かにそこにはありました。

「6秒深呼吸アンガーマネジメント」は、そうか!なるほど!自分の怒りを鎮める以上に、話や物事の途中で自分勝手に深呼吸の世界に入り込む奇妙さによって、”相手に喧嘩をする気を失くさせる”という抑止力にもなってるのじゃないか!?そこまで計算されているとはなんと良くできた方法なんだ!と感じました。

アンガーマネジメントに興味が湧いて調べてはみました。「相手の目の前で6秒深呼吸すれば異様さに相手が避ける効果もある」という記載はやっぱりなかったです。ですが、目の前でアンガーマネジメントをこれ見よがしにやれる感覚の人とは気味が悪くて喧嘩したくないのは事実です。



例えば、皆さんもどうでしょうか?

今、目の前で会話している相手が「あなたの自由な意見を聞かせてください」と言うので自由に発言したら、急に目をつぶって深呼吸を始めたら…。

洋服屋さんで「右と左のワンピース、どっちが私に似合う?」と聞かれ答えたら、その場で恋人が深呼吸を始めたら…。

寝坊してしまって急いで走って職場に着いたら、同僚全員が仕事の手を止めて目をつぶってフーフーしていたら。走ってきた自分以上に深く呼吸をしていたら…。



「あっ!この人、今、私を殴りたいんだ!」とドキドキしてしまいます。「後生だからいっそ我慢しないで怒ってくれ!」と思ってしまう怖さです。

昔から「日本人は感情表現が苦手」と言われます。相手に怒りを感じた時、そこかしこで急に全ての活動を一時停止して深呼吸する人が増えれば、日本は情感豊かな素敵な国になるのかもしれませんね。まあ、円滑な人間関係もできないけども。

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※この文章は2010年3月号〜11月号に掲載用に
自主的に書いたものに大幅に加筆修正したものです。

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