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『あなたの事が気になっています。』第7回「”龍が如く”のゲーム実況動画を見てる人」

ゲーム実況動画を最近よく観てます。そんなわけで今回あげつらう、気になる人は私自身です。昨今、ありとあらゆるゲームの実況動画がありますが、中でも特に色んな動画を隅々まで夢中で観た『龍が如く』のお話。極道の主人公を操作して、襲ってくるチンピラや敵対組織を倒しながらストーリーを展開させていく、言わずと知れた超人気ゲームシリーズです。



ゲーム内容は基本とにかく喧嘩。目の前の強い敵を倒すとストーリーが進み、また新たな問題が浮かび上がってまた闘い。次々襲いかかるキャラの豊富さとアクションの迫力はさることながら、

そこに加えて特に『龍が如く』では何も操作せずにただ観る箇所、いわゆるストーリームービーというのがあり、それだけで10時間分以上のボリュームがあります。画の綺麗さ、きめ細やかさや迫力はさながら映画のようで「えっ、この先どうなるの?!」「早く先の展開を知りたい!」と全く見飽きる事はありません。

とにかくただ見ている人(私)からしても新鮮な面白さの連続で、家に居る間は食事を取る間も惜しく動画を見、トイレにもスマホを持ち込んで見、見ながら入れないお風呂の間も「あっ!もしやあれが伏線になってるのか!」「きっと犯人はあいつだ!」と想いを膨らまし、そして就寝の布団の中で続きを見て答え合わせ、と文字通りの夢中で作品世界に入り込みました。

「いや、そこまで好きなら自分で買ってやってみよう?」「やったらさぞ楽しいよ?」とは途中で何度もゲーム開発様への罪悪感と共に思うものの、でも自分でやると実況の人ほどにゲーム操作が上手くないに決まっていて、あの凛々しい主人公のポテンシャルを1ミリも引き出せずに殴られ続けて話が進まないまま挫折してしまうくらいなら、他人のプレイに頼る方が失敗しないので展開も早く観やすいし安心です。次回作こそは買って挑戦してみようと思います。



そんな感じで夢中で3日3晩「ゲームを買ったが如く」のめり込み、睡眠も削り食事も削って私は動画を見続けました。ここである事態が身体に起こります。

突然、私は”ゲーム実況動画見続けHigh”、ある種の不思議体験”ゾーン”状態に入ります。ストーリーも大詰め、数十時間分見続けた私の精神状況も大詰めに差し掛かった時の事です。振り返ってもあれは間違いなくゾーンだったと思います。スポーツ選手など精神が極限まで来た時に来るというアレです。

『龍が如く』を見ていた私の精神が画面にすぅ〜っと入り込み、気がつくと何故かゲームの舞台の神室町を上空から俯瞰で見ていました。

少し遠くで、しかし本当に喧嘩が起きている臨場感を確かに感じながら、私は鷹の目で上空からその喧嘩を眺めています。路上で闘う主人公極道と刃物を振り回す敵、その周りを取り囲み囃し立てる野次馬たち。1人1人が鮮明に見えます。恐らくゾーン状態のサッカー選手がフィールド全体のどの位置に味方がいるのかわかる、みたいな感覚と一緒です。ゲーム画のあまりの緻密さがこの現象を引き起こしたんだと思います。

なってみると最初から私は鷹だったかのように思え、違和感なく世界に溶け込めているように感じました。

しかし、その世界の中である一点、異質な違和感を漂わせている男の姿が目に止まりました。喧嘩の野次馬の群れからさらに後ろ、その輪の中に入らず、外側でジッとスマホに見入っている、怪しい男の背中が鷹の目で見えます。

どうにも後ろ姿が私自身にそっくりのあの男。直感的に「あ、あれは私だ!」と思いました。恐らくゲーム動画を見ている私の肉体も精神と分かれてゲームの中に入り込んでいたのだと思います。



で、鷹の目から自分の姿を見下ろして率直にふと、
「あいつは何なんだろう。」と思いました。

喧嘩に参加するでもなく、野次馬として声も発することもしない、警察に通報するでもない、敵でも味方でもなく主人公の後ろをついて周って、ただスマホを見てる何もしないやつ。



「ほんとにあいつは一体なんなんだろう?」
心底から不思議でたまりませんでした。

操作もしない、ゲームを買ってもない、コメントもしない、いいねもしない、この世界線に何も関わらない、ただそこにいてそこで見てる存在。

 



「私はあんな奴にはなりたくない。」
客観的に鷹の目でそう思いました。

コバンザメとか金魚のフンですらない、死神の肩に乗る使い魔ピエロでもない、
ジャイアンの背後から「やーい!」というスネ夫ですらない、何者でもない奴。
   


私は確か自分が主人公でありたいと願ってたはず
私は確か夢を持って希望を燃やし東京に来たはず
私は確か自分だけの人生を歩みたいと思ったはず


それがなんだ?連日連夜、歌舞伎町をウロウロと関わりもないヤクザの後ろをついて回ってただ見ているお前。お前は一体、誰なんだ?なんなんだ?お前、本当にそれでいいのか?そんな自分自身に心は何かを感じないのか?



知らない間に昂ぶった感情とゾーンから戻って訪れた虚無感。
冷静と情熱の間。



気がつくと私は歌舞伎町の上空から暗い自分の部屋に戻っていました。
少し泣いていたように思います。



「己の夢に対していつからか傍観者の様になっていやしないか?」ゲーム動画で図らずも人生の現在位置を自問自答して戒めた『龍が如く』を買ってない人に起こった出来事の話。

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※この文章は2010年3月号〜11月号に掲載用に
自主的に書いたものに大幅に加筆修正したものです。

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