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これくらいで上等といえたらイイ


私の尊敬する人は両親です、とまず言っておかなければ格好がつかないのですが(笑)、もちろん間違い無いのですが、あとはもう1人。
この方。


それは女優の樹木希林さん。

この方が大好きなのです。
悲しいかな、私にはファンになってどこまでも追っかけていくほどの情熱はありませんし、彼女のお芝居を間近に見ることもありませんでした。
もっぱらワイドショーで内田裕也さんが世を騒がせていた時にリポーターに囲まれていた希林さんとか、お芝居から離れたドキュメンタリーみたいなものを放送されていたものを観るのみでした。
それでもまったく女優女優していない、どすっぴんな顔で歯に衣着せぬ発言の数々はときに周囲を慌てさせ、困惑させたに違いないと思っています。

専属のスタイリストもなく、撮影の時にも自分が着てきたものでそのまんま被写体になっていたとか、メイクもほとんどしなかったとか。
大女優である希林さんがスタジオに入ってくるとスタッフが全員ピリッとしていっさい視線を外さなくなる緊張感というものは、テレビの画面越しにでもはっきりとわかりました。


あんなに小柄で、残念ながらお世辞にも美人とはいえないのに。
優しい声で甘く語ることもなく、ぶっきらぼうにぼそっと話すあのスタイルが皆を惹きつけてやまなかったのだろうと思いますが、語る言葉ひとつひとつに重みと、含まれているものの意図や意味に聞いた者が思わずしゃんと背を伸ばしてしまうような強いメッセージがあったからではないかと思うのです。


亡くなった母も性格的には希林さんを彷彿とさせるものがありました。
ズバズバ思ったことを考えなしに言ってしまうところとか。職場にいる〇〇さんねぇ、なんて良く言っていました。
どうせまた愚痴だか悪口だろうとこちらも慣れたもの。上手に合いの手を入れたりしていました。
みんなでこうしようとほぼ決まったときに必ず、私はこう思うとか、それ違うんじゃない?とかひっくり返すんだよ。私は聞いてなかったとか、すねてみせるとかね。
そうなんだ、後出しじゃんけんみたいなことするわけね。
同情するように言うと母がそう、とうなづき、だったらもっと前に言いなさいよって。
ほんと性格悪いわ。
今思うに、母は他人に対してものすごく愛想があったわけではないけれど、きちんとその人となりを見ていたのではないかと。
この人が金持ちだからとか、何の仕事をしているかでブレることなく本質を見抜いていた気がします。
他人の悪意もですが、善意ももちろんちゃんとわかっていた人だと思います。


希林さんなら性格悪いわねと本人に直接そう仰ったんだろうと思いますが、なにしろ若いうちは誰とでも喧嘩していたとエッセイにも書かれていたくらいですから。
その点、母はそこまで人に嫌われることは出来なかったという意味では普通だったのでしょう。


2人の共通点といえば、老いることと死に行くことへの心構えといったところでしょうか。
母は延命治療などいっさいしないでと申しておりました。
亡くなった祖父(母の父)は83歳で亡くなっていたので、それまではきっと生きられるよと言うと、いやだわ、そんなばーさんになるまで長生きしたくない。
80まで生きたくないと罰当たりなことを口にしていましたが、その8ヶ月前に本当に逝ってしまいました。
希林さんも余計な癌治療はせずに淡々と死んでいきたいと仰って、最後は病室から自宅に帰ってまもなく息を引き取られました。
2人とも見事としかいいようのない終わり方です。
もちろん女優さんと市井の人ではありますが、彼岸では2人で気が合って仲良く話している気がします。


どんな人にも終わりがきます。
その時幸せではなかったわとか、もっと違う生き方があったはずなのに、と他人様をうらやんだり悔やんだりせずに、私の人生これでなかなか上等、上出来じゃないのと、ではこれにておいとまいたしますと言えたらいいなとひそかに考えています。


心配なのは彼岸に行ってからのこと。
閻魔様が閻魔帳を広げると、生まれてから死ぬまでのすべてのことがわかってしまうらしいので、どう言い訳しようかと考えると夜も眠れなくなりそうです。





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