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終活の困りごとを一括サポート!一般社団法人つむぐ(後編)相続で揉めやすい3つの家とは?「あとが困らない終活」のポイントは意外なところにアリ

「一般社団法人つむぐ」の代表理事・長井俊行さんにお話を伺うシリーズ。後編では、17年間で3,200件の相続サポートを行ってきた長井さんに、豊富な経験から導き出された「相続で揉めやすい家」について教わります。そして相続トラブルに陥らないために、終活をするうえで大事なことについても教えていただきました。

相続で揉めやすい家その1:自宅があってお金がない

相続トラブルを避けるためには、遺言書の作成が最も有効です。遺言書があれば、本人亡き後に遺産を総ざらいしたり相続人全員が集まって遺産分割協議をしたりせずに済みますから。しかし「遺言書は裕福な人が書くもの」という印象が強いのか、作成しない人が多い。しかし、一般的な家庭の人こそ、遺言書を作るべきです。

左図の遺産価額には不動産の価額も含まれる。自宅など現金化できない不動産を持っていて、十分に分割できる現金のない家がトラブルになりやすい。

なぜなら、上の図が示すとおり、遺産分割で揉めているのは7割が遺産価額5,000万円以下の家だからです。このうち1,000万円以下が33%もいます。また、争われている遺産は不動産がほとんど。この不動産の多くが自宅です。

例えば故人の自宅にあたる不動産の価額が1,000万円で、現金として残されたのが500万円だったとします。故人の息子2人のうち長男が故人の自宅に住み続けるなら、1,000万円の家を長男が相続するという形になります。このうえで相続を平等にするとしたら、長男は次男に1,000万円分の遺産を渡さなければなりません。

しかし遺産のうち現金は500万円です。本当に平等にというなら長男が自分の財産から500万円を足して次男に渡すということになりますが、それができる人はなかなかいないでしょう。仮に自宅へ残るのが高齢の配偶者だったら事態はもっと深刻で、現金としての遺産は今後の貴重な生活費です。なおさら渡すのが難しく、トラブルになるわけです。

このように、ほとんど唯一の高価な財産が自宅であるという人はかなり多いと思われます。

相続で揉めやすい家その2:家族構成が複雑

離婚していても子どもには相続権がある。法定相続分は家族構成によって違うが、図版の場合は妻が2分の1、子どもが2分の1。遺言書がなく子ども側が法定相続分の遺産を希望した場合、相応の遺産を渡さなければならない可能性が高い。

離婚して子どもが相手の元におり、さらに再婚した人など、家族構成が複雑な人も要注意です。離れて暮らしていても、実の子どもには相続権があるためです。

「何十年も離れて暮らしていれば赤の他人。話をすれば子どもの方から相続放棄をしてくれるだろう」と考える人は多いでしょう。実際、そういったケースがほとんどです。しかし子ども本人は面倒ごとを起こす考えがなくても前妻などから「もらえるものはもらっておきなさい」と言われ、相応の遺産を要求して拒否され、ついには弁護士を雇って争う家もみられます。

以前、奥さまがローンを組み、法定相続人として相応の遺産を請求してきた前妻の息子にまとまった現金を渡した例がありました。思い出深い自宅を売るか、自宅を売らずにローンを組むか。奥さま後者を選びました。

伴侶を亡くされたばかりの奥さまが、高齢にもかかわらずローンを組んでお金を工面しなければならない。精神的な負担はいかほどでしょう。

相続で揉めやすい家その3:子どもがいない

法定相続の考え方では、配偶者は必ず相続人となりますが、全ての遺産が配偶者に相続されるわけではありません。子どもがいなくてもご本人の両親など直系尊属が存命なら法定相続人になりますし、もし直系尊属がみな亡くなっていれば、ご本人のきょうだいが法定相続人になります。

常にコミュニケーションをとっていない親戚が法定相続人になると、話がスムーズにいかずトラブルになる可能性が。

故人のきょうだいなど日頃からコミュニケーションを取っていない人と相続の話をするのは、なかなか難しいことです。加えて相手の要望が想定の範囲を超えてくると、トラブルになりやすいといえます。子どもがいない人はとくに、遺言書が必須といえるでしょう。

「うちは仲がいいから遺言書はいらない」は間違い?

家族構成がシンプルでも、日頃から必要なコミュニケーションができていない家はトラブルの可能性を抱えています。皆が健康なときは「うちは仲がいいから」とおっしゃる方も、いざ誰かの介護が始まったら知らないうちに関係性の歪みが出てくるかもしれません。助け合いが必要なときうまく連携が取れなかったり、長男のお嫁さんなど1人の人に過度な介護負担がかかったり。自分のこと以外に時間やお金を奪われると、関係性のバランスが崩れてくるんです。

どんな家でも遺言書を作成しておけば、いざというときのトラブルは最小限で済みます。できれば自筆ではなく、銀行の相続手続きにも使える公正証書遺言を作るのがおすすめです。

ただ、公正証書遺言を作成するには公証役場へ出向いたり、証人が二人必要だったりするため、少しハードルが高いかもしれません。その場合はまず自筆で作成し、余裕があるときを選んで公正証書にしましょう。

終活をするうえで大事な3つのこと

相続関係でトラブルになり相談に訪れる人は、自分の人生を肯定できていない人が非常に多い印象があります。「どうしてこうなってしまったんだろう、何がいけなかったのだろう」と。しかし相続の問題解決にあたって大事なのは、自分の人生を肯定することだと考えています。これは相続だけでなく、終活全般にいえることではないでしょうか。

思い出を大切にする

終活をするうえで、まずはこれまでの思い出を大切にしてほしいと考えています。人生を否定してしまっている人も、思い出の中には嬉しいことや楽しいことがあったはず。自分の人生を肯定し始めれば、解決の糸口が見つかります。

今の幸せに気づく

昔の写真を見返し整理することで、心の整理が可能になり、今の幸せに気づくことができます。思い出の写真を見ていると、その写真を撮ったときの出来事が脳内に浮かび上がってくるはずです。
実際、一緒にアルバムをめくっていると途端にさまざまなことが思い出され、堰を切ったようにしゃべり始める高齢者の方をたくさん見てきました。過去をひもといていき、幸せな今があることに気づいてほしいです。

コミュニケーションを取る

争う家族になったり、終活準備で困ったりするときは、何らかのコミュニケーション不足になっていると考えられます。家族とのコミュニケーションをしっかり取れば、終活で困っていることの半分は解決できます。
昔の写真を見ながら人生を振り返っていると、「どうして家族とけんかしてしまったのだろう?」「昔はみんな仲良くしていたのだから、今からなんとかならないか」という思いがわき上がってくる人は多いのです。これからでも遅くありません。家族とよく話をすれば、終活の悩みはだんだん軽くなっていくことでしょう。

【まとめ】

長年相続相談を受けてきた長井さんが、終活で大切なこととして実務面ではなく精神的な面を強調されたのがとても印象的でした。終活の不安を鎮めるには、心を整えることから。心を整えるには、家族とコミュニケーションを取ることから。写真を振り返るたび脳内によみがえる自分の過去が、今の自分を肯定していくという話は目からウロコです。
(本文内図版は長井さんご提供)


長井俊行(ながい・としゆき プロフィール

長井俊行(ながい・としゆき)

長井俊行(ながい・としゆき)一般社団法人つむぐ 代表理事、相続手続支援センター関西 所長、株式会社サントレフォルム 代表取締役、日本弔い委任協会 理事。相続手続カウンセラー®。「相続手続支援センター」に所属し、17年間で約3,200件の家族をサポート。その経験を活かし、家族に迷惑をかけない為の生前準備(遺言・贈与・介護・後見・見守り・葬儀・お墓など)として、地域コミュニティと連携しながらアドバイスや相談会を行っている。また、社会福祉協議会(高齢者大学等)などの公共施設団体・金融機関・企業等で、年間50件ほどの講演を行う。


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