見出し画像

地元の電車とうっすら便意

うっすらした便意を抱えて移動していた。今すぐトイレに行かなければいけないというほどではないのだが、タイミングがあれば行きたいというくらいのうっすらした便意。けっこう値の張る料亭のすまし汁の味付けくらいのうっすら感。もしくは水墨画で描いた幽霊の足のとこくらいのうっすら感。そのくらいのうっすら便意を抱えながら実家に向かっていた。

久しぶりに乗ったローカル線は思っていたよりも混んでいた。部活後の高校生の帰宅時間にぶつかったらしい。我が物顔で足を投げ出して座る者、隅に立ち文庫本に目を落とす者、いつの時代も色々なタイプの高校生がいて、そのどれもが懐かしい。20年前の自分だったらどの席にどんな様子で座っていただろうか。うっすらした便意を抱えながら思いを馳せる。

窓から見える景色は主に田んぼが中心で、見覚えがあるような気もないような気もした。あまり変わっていないように見えて、けっこう変わった部分もあるのだろうな、とうっすらした便意を抱えながら思った。

母校の最寄駅で、高校の後輩たちが数人乗り込んできた。もう当時の先生は残っていないだろうし校舎も建て替えられて面影もなくなっており、今更先輩面されても向こうは困るだろうが先輩は先輩だ。別に声をかけることはないし頑張れよ、とも特に思わないが、ああ後輩だなあと思った。うっすらした便意を抱えながら。

列車はまもなく目的の駅に到着する。うっすらした便意は徐々にその輪郭をはっきりさせてきていた。実家に着いたらまずトイレに行こう。いや、先に荷物を置いて手を洗ってからか。いやいや、手を洗うのはトイレに行ってからでいいか。どっちにせよ荷物は一旦置かないとな。手土産は先に出すか。いや、トイレの後でいいか。

うっすらした便意を抱えながら、僕はこの後のことを考えていた。

サポートって、嬉しいものですね!