がん患者さんでみられる【悪液質】という病態:食欲不振や体重減少
がん患者さんの終末期では、原因不明の「倦怠感」や「食欲不振」を生じることがあります。
これを【悪液質症候群】と呼んでいますが、この症状に対する新薬がこの度薬価収載(新発売)されたので、備忘録としてもこのnoteに書き留めておきたいと思います。
入院、外来のがん治療中の患者さんはもちろんですが、終末期の緩和在宅患者さんでも度々倦怠感や食欲不振に遭遇することがあります。
今までは主にステロイド薬の投与(プレドニゾロン20~40mg、デキサメタゾン3~4mg)がサイトカイン(免疫細胞を集めて活性化させる働き)の産生を抑制することで効果を示すと考えられ繁用されてきました。
今回新しく発売になったのが小野薬品の『エドルミズ錠50mg(アナモレリン塩酸塩)』です。
どんな働きの薬?
今回のお薬は「グレリン様作用薬」です。
なんだ?という感じですが、グレリンは、主に胃から分泌される内在性ペプチドで、受容体に結合すると、体重、筋肉量、食欲および代謝を調節する複数の経路を刺激します。
エドルミズは、脳下垂体と視床下部にあるグレリン受容体GHS-R1a(成長ホルモン放出促進因子受容体タイプ1a)を活性化させ
「成長ホルモン分泌亢進(脳下垂体での成長ホルモンGH分泌促進による)」
「食欲亢進(視床下部への作用による)」
を示します。
他にも、Naチャネル阻害作用を持っているため、一部の心疾患(完全房室ブロック、心筋梗塞、狭心症)を持っている患者さんでは使えなくなっています。
また、画像の中にもありますが、IGF-1(インスリン様成長因子-1)の上昇による「腫瘍増殖の可能性」も懸念されていますが、In Vitroではがん細胞増殖を促進しなかったとされていますので、市販後調査の長期経過に注目です。
(画像:エドルミズ錠50mg適正使用ガイド,小野薬品工業)
有効性と安全性はどうなのか?
RMP(リスク管理計画書)の中では
・高血糖(糖尿病患者)
・肝機能障害
・刺激伝導系抑制
・中等度のCYP3A4阻害薬との併用
(・腫瘍増殖の可能性)
が継続観察項目としてピックアップされています。
(画像:『3分でわかる!RMP講座』,PMDA)
慎重投与の項目にも同様の内容が設定されており、継続的なモニタリングが必要と考えられます。
刺激伝導系の抑制では、基礎疾患の確認はもちろんのこと、併用薬(抗不整脈薬)の確認も必要となってきます。
中等度のCYP3A4阻害薬との併用では、ケトコナゾールとの併用により、AUCが3.22倍となったとの記載があります。
PISCSを用いて予測してみると、ケトコナゾールの阻害率(IR)は1.0、AUCが3.22倍なので、基質薬(エドルミズ)の寄与率は0.69となり、アトルバスタチンくらいの寄与率となっています。
クラリスロマイシンとの併用でもAUCは2倍程度に上昇する予測になるため注意は必要そうです。
<有効性>は、体重増加や食欲改善効果で考えられますが、試験の中ではLBM(除脂肪体重)のベースラインからの平均変化量で表されています。発売となったからには有効性は示されているということになりますが、今回の対象患者さんは、『不可逆性の病態までには至っていない患者』さんとなっており、不可逆性の病態の患者さんに対する有効性は確立されていないと考えられています。
また、対象となるがんも「非小細胞肺がん」「胃がん」「膵がん」「大腸がん」と限定的ではあります。
用法・用量は?
(画像:エドルミズ添付文書,小野薬品工業)
用量・用量は
1日1回100mg、空腹時
(食事は1時間以上たってから)
となっています。
食後2時間での服用の体内動態ではAUCが0.49倍となっているため、就寝前での服用でも夕食の影響を受ける可能性はあるので、服用は起床時がいいでしょう。
治験の段階でも朝食1時間前での服用設定となっています。
血中濃度は、半減期が8.2~9.2hr、定常状態に達するのは7日以内とされていますが蓄積性はなさそうです。
3週間で治療評価を行い、現段階では12週間を超える有効性・安全性に関する検証はされていません。
錠剤の大きさは、直径14.1mm、短径6.6mm、厚さ5.2mmと比較的大きい錠剤なので「飲み込めない場合には粉砕ができるのか?」気になるところですが、今の所データはないようです(メーカー回答)。
粉砕すると苦味は出るようなので、そのあたりも考慮して粉砕の判断をするといいかもしれないです。
メーカーの添付文書・インタビューフォームでは
▶粉砕
粉砕して投与する方法は承認された用法・用量外の使用方法であり、推奨しない。
▶崩壊・懸濁性及び経管投与チューブの通過性
懸濁して投与する方法は承認された用法・用量外の使用方法であり、推奨しない。調剤、服薬支援に際して臨床判断を行うにあたっての参考情報については、表記に記載の問い合わせ窓口に個別に照会すること(小野薬品くすり相談室0120-626-190)
※ 東京医療センター 薬剤部の簡易懸濁法データベースでは、エドルミズが掲載されていて、8Frのチューブ通過「〇」になっているので簡易懸濁は可能かもしれません。
必要時には個別に製薬会社へ問い合わせしてみましょう!
製剤の各種条件下における安定性の項目では、シャーレ(開放)30℃75%RH3ヶ月間で規格内であり光に対しても安定だったため、安定性は比較的高そうです(一包化は可能そう)。
薬価は?
薬価は、1錠246.4円、1日2錠なので、1日薬価としては「492.8円」となり、DOACくらいの値段かなと思いました。
14日制限(2021年4月末まで)があるので、14日処方で、3割負担だと2069.76円、2割負担だと1379.84円、1割負担だと689.92円となり、後期高齢者では価格的にはお手頃なのかなという印象です。
尚、市販後の全例調査期間は2021年11月一杯までとなっています。
まとめ
この薬の発売を知った時、すぐに緩和在宅の患者さんの「倦怠感」「食欲不振」を思い浮かべましたが、その状態の患者さんへの有効性・安全性は確率されていなかったり、外来では「心電図、電解質」といった定期的なモニタリング項目が達成できないということもありますので、使用は慎重になるところかなと感じました。
また医師の印象だと緩和在宅の患者さんへ使用した場合には、外来通院の化学療法患者さんほどの効果は見込めなさそうということでしたので、基本的には外来患者さんが対象になってくるのかな?という印象です。
✅外来だと通院できているが食べられない
✅体重が落ちてきたけどまだステロイドを使うには早い
といった方が対象になりそうです。
今後市販後調査で新たな知見が得られ、より幅広い患者さんへの使用が可能となることを期待しています!
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