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#1 90年代の雑誌『Zipper』とパチパチズ

青文字系雑誌の代表『Zipper』

「青文字系雑誌」といえば、まず思い浮かぶのが『Zipper』だ。
もちろん『CUTiE』や『KERA』 などを挙げる人も多いと思うけれど、それらの雑誌についてものちのち掘り下げていくとして、まずは個人的に青文字系と出会う扉となった『Zipper』を思い出したい。

1994年に創刊した『Zipper』は、2017年に惜しまれつつ休刊したけれど、あのポップな色合いと媚びないファッションは今も記憶の中で鮮明に輝いている。
私は2005年頃(中学生の頃)から読み始めた世代。
ピンクの着物にティアラをのせたモデルの「YOPPY」が表紙を飾るお正月号が平積みされているのを見たときの、「かわいい!!」という衝撃は忘れられない。

YOPPYは、青文字系雑誌を読まない人にはほとんど知られていないが、青文字系女子にとってはカリスマ的な存在のモデルだった。
YOPPYがおしゃれでかわいい高校生として『Zipper』に登場し始めたのが1998年のこと。
これは、雑誌が「プロのモデル」から「読者モデル」の時代へと舵を切っていく過渡期だった。

スナップとパチパチズ

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『Zipper』では、いわゆる読者モデルのことを「パチパチズ」と呼ぶ。
90年代半ばから、『Zipper』では「パチパチGP(グランプリ)」というストリートスナップのコーナーがあり、そこに掲載されたおしゃれな女の子たちがそう呼ばれていったのだ。
ひとくちに「おしゃれ」と言っても、『Zipper』が理想とするのは、一筋縄ではいかない女の子だった。

みんなと同じスタイルは「NO!」チープは「YES!」のC(チープ)・C(シック)・DO IT!

これは創刊当時、『Zipper』のモットーとして、目次ページに毎号掲げられていた「Zipper宣言」の文言。
人と違うファッションを求めることは、『Zipper』を読むような女の子たちにとって確かに大事な原動力だと思う。
「個性的」ともよく言われる。
けれど、「個性的」という言葉は、むやみやたらと使うと中身がなくなってしまうので危険だ。
周りに流されない、とはいってもその時期その時期でピンポイントな流行のようなものはあって、『Zipper』の女の子たちはそれを敏感にとらえていた。
ただ、流行っているアイテムを取り入れるにしても、古着やハンドメイド、プチプラアイテムと人気のブランドものを組み合わせ、同じコーディネートは誰にもできないような工夫を凝らそうとする。
「パチパチGP」はスナップが載るだけではなく、スタイリストやデザイナーといった審査員からのコメントや評価がつけられる企画だった。
これがますます女の子たちのファッション欲を掻き立てていく。
しかし、「個性的」であろうとすればするほど、女の子たちは雑誌の上でカテゴライズされ、その共通項のディテールをあぶり出されていった。
その中から、今でも90年代ファッションの代表として語られるような「ヴィヴィ子」とか「デコラ」といった一派も生まれることになる。
そして、それを真似したファッションに自分自身のアイデアをプラスした女の子がまた街にあふれ、スナップされる。その循環が、雑誌をつぎつぎと更新していくのだ。

創刊から1994年半ば頃まで、巻頭やさまざまな特集のファッション・ビューティーページでは主にプロのモデルが起用されていたけれど、そのモデルたちは特に名前などはピックアップされず、言わば名前のないマネキン的な存在だった。
しかしもはや、スナップされた読者たちは、名前や学校名、働いているお店、最近考えていることなどとともに、ひとりひとりがユニークな存在としてピックアップされていく。

やがてパチパチズはスナップを飛び出し、本格的なファッション・シューティングに登場したり、特集ページを組まれたり、連載をもったり表紙を飾るまでに至ったりと、雑誌の中で活躍の幅を広げていく。
中には現在もさまざまな分野で活躍している原石のような女の子たちもいて、のちの写真家HIROMIXとして注目を集めるトシカワヒロミや、アーティストの清川あさみ(清川阿沙美)、おフェロメイクの先駆者的メイクアップアーティストのイガリシノブ(猪狩しのぶ)も、90年代末の人気パチパチズだった。

こうした時代の流れにのってYOPPYは登場したのだが、それはもう少しだけ後のことだ。

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《元パチパチズ 関連資料》

90年代にガールズ・フォトで一世を風靡したフォトグラファー・HIROMIXのファースト写真集。


アーティストの清川あさみは刺繍作品『美女採集』シリーズが有名。

ヘアメイク・イガリシノブは2015年ごろ「おフェロメイク」のビッグウェーブを起こす!
イガリメイクは今なお女の子たちの支持を集めている。

(文・イラスト/ 大石蘭  )

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PROFILE
大石 蘭 / ライター・イラストレーター
1990年 福岡県生まれ。東京大学教養学部卒・東京大学大学院修士過程修了。在学中より雑誌『Spoon.』などでのエッセイ、コラムを書きはじめ注目を集める。その後もファッションやガーリーカルチャーなどをテーマにした執筆、イラストレーションの制作等、ジャンル問わず多岐にわたり活動中。



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