【後編】料理は怖くない! ツレヅレハナコさん流「料理と仲良くなる方法」

前編では、完璧な料理の呪いからとかれる本づくりの裏側をお話しくださったツレヅレハナコさん。後編では、ハナコさんのこれまでの食体験、これから実現したいことについて伺いました。

お小遣いで卵を買って試しに作って……

___いろんな場所で「食べることが好き」と発言なさっていますが、小さい頃から食に興味があったのでしょうか?

ツレヅレハナコさん(以下、ハナコ):
両親とも共働きだったので、常にバタバタしている家だったんですよね。料理は母親が作っていましたが、自分で作るのも好きでしたね。
私、卵がすごく好きで。卵をといて塩こしょうしてレンチンしただけでも美味しいって、それをおやつにして食べていたり。親がいない間に自分が作った料理を兄に出して、「まずい」って吐かれたり(笑)。

自分が食べたいものは、自分で作らないと食べられない。今でも覚えているのは、オムレツとの出会いです。

すごく昔の本なのですが、石井好子さんが書かれた『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』という本がありまして。それを小学生のときに読んで、すごく美味しそうだなと思ったんです。
それで母親に「このオムレツっていうのが食べたい」と言ったら、「いつも食べてるじゃない」って卵焼きの事を言われて(笑)。

確かに材料見ると近いんだけど、子ども心ながらに、何か違う気がする! って(笑)。このオムレツっていうものを作れるようになりたいと思って。ひとりでおこづかいで卵を買って、焼いてみて「うーん、やっぱりなにか違う」って。

___すごい小学生(笑)

当時はインターネットも無い時代だから。
図書館に行ってオムレツの作り方を調べたりして。でも確かに母親が言う通り、卵を焼くっていうのは一緒だな、何が違うんだって(笑)

___では、お母様から料理の英才教育を受けた、とかじゃ全然ない感じなんですかね

ハナコ:
全然ないですね。
うちの母、すべての料理を五目にするっていう母の謎の料理方針があって(笑)。冷蔵庫にある野菜を、全ての料理に入れるんですよね。たとえば、にんじん、ピーマン、玉ねぎ……とあったとしたら、すべての料理にその野菜が入っているんですよ。
もちろん母の「子供に栄養を摂らせたい」「野菜を食べさせなくては」という愛ではあるのですが、肉と五目、魚と五目、汁物に五目というのが、嫌で嫌で(笑)。全部同じ味になっちゃうじゃん、って。
今でも、私が作る料理の食材数が少なくてシンプルなのは、その反動かもしれないです。

専業主婦のすごみを知った義母の料理

___これまでハナコさんが書かれたものを読むと、義理のお母さまのお料理が凄まじかったとか。

ハナコ:
そうなんですよ。もう亡くなったんですけど、本当に凄い人で。
夫と結婚するきっかけになったのは、義母の料理があまりに美味しくて、もっと食べたい、みたいなやりとりがあってなんです(笑)

___お義母さんに胃袋をつかまれた(笑)。

ハナコ:
そうです、そうです(笑)。
それまで、うちの母親がすごく働く人だったので、「女も働くべし」という感覚が強かったんですね。だから、専業主婦を心のどこかで下に見ていた自分がいたように思います。
でも、義母に出会って、プロの専業主婦がいかに凄い存在かを教えてもらいました。

秋田から出たことはないはずですが、和洋中エスニック、何でも作れて、オーブンからかぼちゃプリンが出てくるんです。
このかぼちゃのプリンはすごかったですね。私、甘いものが苦手なので全然食べないのですが、一応夫の実家だから食べなきゃいけない雰囲気になるじゃないですか(笑)。
これが、スパイスがばっちり効いていて、ものすごく美味しかったんです。何が入っているんですかと聞いたら、シナモンとナツメグだって。こんなプリンだったら、ワインにあうなって思って。

もちろん和食もすごい上手だし、おせちも本当に素晴らしくて。それまでおせちなんて、美味しいと思ったことはなかったんですけど、毎年お正月を心待ちにするくらい楽しみにしていました。
おせちは地域の婦人会で、皆で作るそうです。そういう文化も素晴らしいですよね。

義母にレシピを聞いても、いつも「適当だ」って言うんです。でも手書きのレシピノートが何十冊もあるんですよね。自分のオリジナルレシピもあるし、何かで見たものを書き留めて、それをアレンジしたものもある。
家族のために何十年も料理を作り続けることの凄みみたいなものも、義母に会っていなかったら、一生知らないままだったでしょうね。

料理と仲良くなってほしい

___最近ではコロナ禍で男性も家にいることが増えましたよね。これから料理を始めようと思う男性は、どんなところから始めるといいでしょうか。

ハナコ:
男性って、人によるとは思いますが、意外と合理的な人が多いのかなって思います。いまある食材で作るとか、課題みたいなものを出されると、わりと燃えて作ってくれる人もいますよね。

あとは、レシピ本をそのまま、その通りに作ってもらうのがいいんじゃないでしょうか。アレンジしないで、とにかく、このままで作ってといって。
基礎から丁寧に書いてある良いレシピ本を使って、理科の実験のように手順をふんでいくと、美味しいものができるはず。
そういう場合は、分量を書いてあるのはもちろんですけれど、火の大きさまで書いてあるような丁寧なレシピ本がいいでしょうね。

___そうやって美味しいものができて、家族に「美味しい」って言われる成功体験があると、料理に目覚めていく男性も多そう。

ハナコ:
家族としては、褒めちぎるのがいいでしょうね(笑)

これは、男性だけではないのですが、「食事を作ること」と仲良くなっていけるといいですよね。おそれず。ストレスを感じないように。


食べることって、基本的には楽しいことだと思うので、それをより豊かにしていくことを紹介していけたらいいなと思っているんです。

___これから取り組まれる予定のことはありますか?

ハナコ:
先日、カレー皿のプロデュースをしたんですけれど。そういう、使っていて楽しい食事の道具や、調理器具などを作っていきたいなと思っています。
料理が苦手な人が使ってみたくなる、失敗しづらい調理器具を、どんどん考えてご紹介していけたらなと思っています。
たとえば、一人暮らしの人でも揚げ物したくなるような調理器具とか。

___それは楽しみです。

ハナコ:私が本を通じて紹介したいことって、「料理は怖くないですよ」なんです。

たとえば以前、揚げ物の本も作ったのですが、揚げ物がめんどうな理由や、揚げ物が苦手な理由を徹底的につぶしていく本にしたんですよね。
もちろん、レシピがついているんですけれど、伝えたかったのは「揚げ物と仲良くなろう」「揚げ物、恐れるに足りず!」ということでした。

揚げもの天国 (2)

お弁当の本を作ったときは、お弁当は「見せる」ものじゃない。自分の胃袋と冷蔵庫とお財布の調整のために作るんだってことが一番伝えたかった。人のためではなく、自分のために作ればいいんだ、といったことですね。

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1日は24時間しかありません。全部のことをフルスイングでやる必要もないし、できないですよね。
たとえば、自分は部屋はピカピカじゃなきゃ嫌だから、掃除は90点を目指す。でも、食事はお腹がいっぱいになって簡単に作れる方がいいと思ったら、60点でもいい。
そういうバランスでやっていけばいいと思うんです。

それこそ、調理家電やミールキットなど、いろんなものの手助けを借りながら、自分がいちばん楽にやれる方法をさぐればいいんですよね。
Oisixを利用している人たちだったら、食材自体が美味しいんだから、ただ切ってオリーブオイルと塩をつけて食べるだけだっていいじゃないですか。
もっと楽に、楽しく、食事することを楽しめるといいですよね。

これからは、本だけではなく、食器や調理器具のプロデュースなどでも、そんなメッセージを伝えていけたらと思っています。

(完)

【ツレヅレハナコさんプロフィール】
料理編集者。出版社の料理雑誌編集部勤務を経て独立。自他共に認めるお酒好き。国内外を食べ歩きし、その経験から生まれた独自の簡単レシピにファンが多い。
著作に、料理レシピ本大賞のママ賞を受賞した『女ひとりの夜つまみ』(幻冬舎)など。近著は『ツレヅレハナコの2素材で私つまみ』(KADOKAWA)

ツレハナアイコン重データ


聞き手/佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。

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