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エントロピーと倫理、それに新聞

「エントロピーは増大する」という熱力学第二法則は、物理学の世界だけじゃなく、人間の意思や感情、行動のなかにも存在するのではないだろうか。

エントロピーとは閉じられた系の状態量をあらわす概念。ドイツの物理学者ルドルフ・クラウジウスが、カルノー熱機関の研究をする中で、移動する熱を温度で割ったQ/Tという物理量であらわしたものだ。

うーん、習った覚えはあるが、今でもよくわかっていない。そして、この難解なエントロピーは増大するのである。

▼「秩序のある状態」はエントロピーが小さく、「無秩序、乱雑な状態」はエントロピーが大きいと定義すれば、自然は常にエントロピーが小さい状態から大きい状態へ、つまり増大する方向に進むという。

・酸素と窒素を混ぜると、気体は拡散して、自然には元に戻らない。
・コーヒーにミルクを入れると、混ざった状態からコーヒーとミルクには分離しない。
・部屋が片づいている状態(秩序ある状態)は、放っておくと散らかっている状態(無秩序な状態)になりがちで、片づけなければ元には戻らない。

秩序ある状態を保つには、分離する、片づけるというエネルギーが必要なのだ。

▼朝早くに散歩をしている時、車が来ない交差点は赤信号でも待つことはしない。右と左を見て、前後も確認して渡る。が、交番のお巡りさんがバイクで通りかかって「ちょっと、赤信号だよ」と注意される。

小学校の近く、車通りが少ない道では、右を見て左を見て、横断歩道をきちんと渡る。子供が見ているかもしれないから。

私たちが「秩序を保つ」ためのエネルギー源、それが「道徳」「倫理」なのである。

▼小学校では道徳教育の時間はあるが、道徳という科目はない。算数、国語などの科目には教科書があり、道徳には事例集はあっても教科書がないからだ。高校では倫理社会という科目になる、人とは何か、人生とは何か、いわゆる哲学。デカルト、カント、ヘーゲル、サルトル、名前だけは覚えているが、受験を控えての「消化科目」だった。

▼会社に入れば、コンプライアンス倫理規定が配られる。最近はESGやSDG'sへの取り組みが追加された。不正はいけない、談合はいけない、公私混同はだめ、会社の金を使い込みしちゃいけない、多様性を大事にしなさい。すべて過去にあったことへの反省なのだ。

▼社会人は「道徳」「倫理」はどこで学ぶか。身近なのは新聞である。ここ数日の見出しを拾い上げても、

「米、ウクライナにクラスター弾供与」
「孤独が生んだ『ジョーカー』暴力自体が目的に、相次ぐ電車内襲撃」
「ビッグモーター保険金不正請求」
「アントに罰金1400億円、消費者保護法など違反」
「新型コロナ支援金受給不正」

汚職、強盗、殺人、不正受給など「道徳・倫理はずれ」のものがそこにはある。人の社会は無秩序な方向に走り、「エントロピーは増大」している。

▼道徳、倫理という秩序の「枷」をぬって、人間の意見や行動は時には暴走する。エネルギーをかけて秩序を元に戻す働きかけは、新聞の役目なのだ。