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おせっかいなミイラ取り

元首相が襲撃を受けて死亡した。直接関係はない、隣の国が源の新興宗教がとりざたされ、現職の大臣が辞任するまでの騒ぎになっている。同僚のIさんがこれに対して、ことの本質を見極めたいと、「神々の乱心(松本清張)」を手にとって読み始めた。上巻が終わったところで、わたしにも読めと文庫本を貸してくれたのはいいが、毎日のように「今どこらへん?」と聞いてくる。

松本清張さん、「点と線」からはじまって、「ゼロの焦点」「砂の器」などをつぎつぎに読んだのは1970年代から80年代にかけてのこと。「神々の乱心」は彼の絶筆作品で、1997年の出版です。そのころにはすでに、わたしのなかで清張さんは卒業していた。だから、「神々の乱心」を知らなかった。

昭和初期を舞台に、宮中の深町女官の使いで新興宗教に行った若い女性が実家の奈良・吉野川で自殺するところから物語が始まる。群馬と埼玉でふたつの他殺体が見つかり、満州の関東軍に関係があるのではないか。というところまで読んだ。上巻の280ページです。

「ほう、渡良瀬川が出てきたところか。描写が詳しくて、なかなか前にすすまない。でもね、これからが急展開。ヒントをいうとね...」
「ちょっと待ってよ。これ、推理小説だよ。聞いたら読む必要がなくなる」
「そうか。おもしろくなるところなのにね」

「清張さんの絶筆だから、83歳のときの作品。たいしたものだよねえ、宮中女官の同性愛まで詳しく描いてる。枯れてない」
「下巻はね、満州に舞台が移って...」
「やめてよ。聞きたくない」

先に読んでるから、推理小説のあらすじを教えたがる。性格上、言いたいのはわかるけれど、これは「おせっかい」。こんど言ったら、本を返すから。

「それはそうと、話題の新興宗教を考えるヒントはあった?」
「それどころじゃない。本のなかの宗教の方が複雑で大きい。こちらのモデルの教団にも興味が出てきた」
「ハマってもいいけど、ミイラ取りには気をつけてね。その飛び火はごめんだから」