ハムレット32-33 Ⅰⅳ

第一幕第四場 深夜。城の前の哨所。
ハムレット、ホレイシオウ、マーセラス、入ル。

ハムレット 突き刺すようだな。やけに寒い。
ホレイシオウ まさに見を切るような寒さ…
ハムレット 何時だい?
ホレイシオウ そろそろ十二時でしょう。
マーセラス いや、もう打っているぞ。
ホレイシオウ そうかい? 聞いていないな。じゃあ、愈々(いよいよ)お出ましになる頃合いだな。
(城内より、けたたましい吹奏、祝砲の音)
何かおありでしたか、殿下?
ハムレット 国王陛下が夜通し宴を御開催だよ。とことん飲んで、陽気な踊りで練り歩き、ライン酒をしこたま流し込んだら、ティンパニやらトランペットやらが御立派な飲みっぷりを大賞賛…という具合さ。
ホレイシオウ では、恒例の…?
ハムレット ああ、そうだよ。祝って、祝って…さ。何度もやるんだよ。此地(ここ)で赤ん坊の頃からよく見てるけれどね、僕に言わせれば何も無理をして御丁寧にやることもない。‘悪しき習俗’さ。酒浸しの頭で大宴会をして、それでもって西から東から、諸国四方から雑言を浴びて、赤鼻(あかっぱな)だの、豚だのと呼ばれる始末だからね。面目丸潰れさ。僕らが勇んで何事かを為さんとしてもだぞ、肝心な処でそんなことをされてみろ、目の前の名声も何もかも腰砕けになる… 世に、生まれついての痣(あざ)の如き弱みのある男達というのが居るだろう? 生まれ持ちたるものに、男どもは何の罪もない。撰べないんだからな。 …鬱なる黒胆汁の優りたるが故にか、それはわからぬが、とにかく体液の不具合で理性の柵も砦も崩し落としてしまう男ども… あるいは、行き過ぎの悪い癖(へき)が祟ってだ、せっかくの立派な立ち廻りを台無しにしてしまう男ども… その男達がさ、謂わば唯一つの、自然から授かった憂鬱なる刻印、運勢の傷痕たる引け目を持つが故にだぞ、他の佳きところも…(続く)

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