ハムレット138 Ⅳⅳ

確かに、四分の一程は分別もあるだろう。だが、残りは小心翼々たる、か… どうして、この俺は‘これは、こう’と堂々として居られぬのだ? 為すべき大義もある。意志も、強さも。おまけに、手立て、財もあるはずなのだがな― 浮世の事どもが俺を戒めてくれる、はっきりとな― 今の軍隊を見てみろ…あの、人やら金やらを注ぎ込んで、それをたった一人の年端も行かぬ柔き王子が導いている―神々しき野望で膨れた精神が、明日を案じても始まらぬと笑い飛ばしているようだが…ほんの詰まらぬ、卵の殻のようなものの為に…運命も死も、力も全て、儚き不確かなものに委ねている。確かに、偉大なること名に恥じずとは、闇雲に暴れまわるということじゃない。名誉が掛かっているならば、藁一本の小事なりとも戦い抜くということだ。だが、奴らはともかく戦い抜いているのだ。それと比べて、この俺はどうだ? 父を殺められ、母の貞節を汚され、己が血を煮え滾(たぎ)らせる大義はある。なのに、ただ徒に為すがまま、全て打ちやっているだけなのか? 恥ずかしくないのか? …今、俺の眼(まなこ)に映じているのは、幾千もの人間がばたりばたりと倒れゆく様― 名声の幻に唆(そそのか)され、寝床へ向かう如く墓場へと向かう様。僅かばかりの地所の為に… 兵士達が果し合いを演ずる広さも無く、骨を埋めるに十分至極な墓にもならぬ地の為に―
そう、決めたぞ、今この時から、獣の如く血を滾らせるのだ。余計なことは、考えるな!
(ハムレット、下ル)

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