ハムレット135 Ⅳⅲ

王 ハムレット、今度のおまえの過ちだがな、余は心底悲しんでおる…おまえの身の安全のためだ…おまえが一刻も早く特使としてな、遣わされるよう、余が手配して置いたからな―その積もりで仕度をしてくれ。船は用意してある。風向きも上々だ。供の者もつけた。準備万端だ―
イングランドへ行ってくれ。
ハムレット イギリスに!
王 そうだ、イギリスだ。
ハムレット それは、いい。
王 そうだろうな。しかと慮ってくれ、わしの‘気持ち’をな…
ハムレット わかりますよ― 智天使(ケルビム)が舞い降りて来て、教えてくれますからね。ともかく、いいですね、イングランドへ!
御機嫌よう、愛しき母上!
王 おまえの慈愛に満ちた父じゃないか。
ハムレット 僕の母ですよ。父と母は、男と妻。男と妻はひとつの軀だから、僕の母上なんですよ―
さあ、イギリスだ!
(ハムレット、下ル)
王 目を離すな― 速やかに、船に放り込め。遅れぬようにな。夜の明けぬうちに、あいつを発たせるんだ。とっとな! 
判も捺したし、万事手筈は整えた。
頼むぞ、一刻も早くな―
(ローゼンクランツ、ギルデンスターン、下ル)
そして、イングランド王よ、余の想いをよしや僅かなりとも汲んでくれるなら…余の威光放つ力が汝に感じさせてくれて居るであろうからな…なにしろ、デンマークの剣(つるぎ)の傷痕は赤く生々と残っておるからの… 汝の偽りなき畏敬が余を尊重してくれるというならばな…我が至高の計らいを無下にできぬはずじゃ…余の書が肯んじてくれる、ハムレットの速やかな死…きちりと成し遂げられんことをな―
イングランド王よ、頼むぞ。我が煮えたぎる血潮の如く、あいつは猛り立っておる…あいつの炎を鎮めてくれ、そして、余に平穏を与えてくれ。遂げられるのを見届けられるまでは、たとい如何なる僥倖の訪れようとも、我に喜びは湧いて来ぬのだ―
(王、下ル)


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