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アートはすでに、ここにある/中之条ビエンナーレ2023

国際芸術祭「中之条ビエンナーレ2023」が本日からスタートした。中之条町は僕が生まれ育った町であり、中之条ビエンナーレは2007年の第一回開始時に飛び込みで「もちろんボランティアで良いので映像記録させてください」と関わりを始めた長い付き合いのイベントである(当時は映像を仕事にできていなかった。後にアーツ前橋や太田市美術館・図書館の映像記録というアートに関わる仕事をするようになったのは、やはり中之条ビエンナーレがあったからだと思う)。

ビエンナーレは回ごとにテーマが定められており、今回のテーマは「Cosmographia(コスモグラフィア)」。聞きなれないこの言葉は、16世紀に地理学者によって出版された世界各地の民族・風俗・習慣・歴史・宗教などを網羅した地誌のタイトルだという。山重徹夫ディレクターは、「アーティストは見えない世界を感じ取り表現する。複雑な現在において、それらアーティストにより表出するものを見てほしい」と語っている。

さて。前回のビエンナーレより、僕は「作家が自ら動画を作る作品を除いた全ての出展作品(100作品くらい)と会期中の全イベントを個別に映像化する」という任を受けている。自分で言うのもなんだけど、途方もない仕事だ。おかげでこの1か月くらい記憶がない(おおげさ)。そして同時に、今日17:30よりプレミアム公開されるオープニング映像「Cosmographia」を、DamaDamTalのみきたまき氏をディレクターとして、いくらまりえ氏、ダニエル・ヘイズ東京、DamaDamTalの大塚陽氏、野口桃江氏、Lily氏と共に今年の1月の撮影から開始し、組み上げた。そこで感じたことを書きたい。

オープニング映像の内容は、中之条町の伝統行事や特徴のある場所にアーティストが趣き、感じ、パフォーマンスをしたり、ただそこにいたりする、というものだ。それは、山重ディレクターが語る「アーティストは見えない世界を感じ取る」という言葉ともリンクするが、撮影を通して、見える世界・・つまりは目に見える町の伝統行事などがいかに貴重な存在であるかを改めて確かめる撮影旅でもあった。

車輪がついた大きな太鼓が町の大通りを連なり「追いもうせ、追いもうせ」という掛け声と共に叩き響かせる「鳥追い祭り」。日本最大級のどんど焼きと呼ばれることもあるという、六合引沼地域の地祭「おんべーや」。霊山のふもとの親都神社で行われる神楽。そして撮影時はコロナ禍の影響で行われなかった獅子舞。町民である僕などは少しは見慣れてきた行事ではあるが、たくさんの人が代々受け継いできたそれら行事が作られる様子は、アーティストがアート作品を作る様子とも遠くはない。そして、太鼓の響きの中には、大火を上げて燃えるモミの火の中には、見える現象を越えた、目には見えない本質的な何かが含まれている気もする。

長い撮影を経て、コンテンポラリー、タップダンス、ピアノ、絵描き、など多様なアーティストたちの表現とそれらを映像で並べた時に、違和感が少ないことに気づいた(1人の人間が撮影しているから、ということもあるが)。つまりは、外部からのアーティストによってもたらされるアート表現も、この町で培われてきた表現も、線引きは曖昧なものなのかもしれない、という気づきだ。

中之条ビエンナーレには、行政や何かしらのトップが著名なアーティストを呼んでアート表現をさせるのではなく(そういった表現が必要な場所もあるが)、アーティスト自らが自分たちで作品を作り発表の場を作る、という姿勢が今に至るまで続いている(それにはもちろん、財務や人材的にそれを支える中之条町や様々な町内外の人たちの支えはあってのものではあるが)。そしてそれにより、アーティストの中之条町への移住も、それほど目新しいものではなくなった。あるアーティストが話した「中之条町で、何やってる人?と聞かれて、アーティストと答えると、ああね、と受け入れてくれる人が多い」という話はとても良い話だ。

国際芸術祭である中之条ビエンナーレはもちろん、町内在住のアーティストよりは県外や海外からのアーティストの方が多いが、感触として感じることは「外から持ち込まれている」ではなく「アートはすでに、ここにある」ということである。それは、2007年から今まで継続してきた効果なのかもしれないし、作家が滞在により作品を作ることによるものかもしれないし、中之条町のポテンシャルなのかもしれないし、ただ僕一人が感じている事なのかもしれないが、僕はその「根付いている感」がとても好きだ。そして強引に言うと、そういう気持ちを、今日配信の「Cosmographia(コスモグラフィア)」に込めた。

中之条ビエンナーレ2023は10/9まで続く。中之条町には四万・沢渡・六合など良い温泉もたくさんあるので、ぜひ泊まりがけで来ていただきたい。

中之条ビエンナーレ2023
https://nakanojo-biennale.com/

NAKANOJO BIENNALE2023 オープニング映像「Cosmographia」
https://youtu.be/N_UC-m0V7vI

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