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ただいまぁ!いさまぁ!/第22回伊参スタジオ映画祭

明日明後日、11/18(土)19(日)に、群馬県中之条町で「第22回伊参スタジオ映画祭」が開催される。1996年に伊参スタジオ(当時は廃校)を拠点に作られた映画『眠る男』(小栗康平監督)、『月とキャベツ』(篠原哲雄監督)を発端に始まった映画祭も22回開催という息の長い映画祭になった。近年はコロナ禍に対応するため町内の文化ホールでの開催が続いたが、今年<4年ぶりに>映画祭の原点である伊参スタジオでの開催となる。

2001年に開催された年はまだ日本映画学校の学生でいち観客に過ぎなかった僕がこの映画祭の実行委員長になってからかなりの年月が経った。絵に描いたようなおっちょこちょいの委員長で、スタッフの助けは必須。今年はスタッフ自らがスタッフ募集の広告なども制作をしてくれて、個性豊かな新スタッフがたくさん増えた。中之条町に移住してきた人、前々からこの映画祭に興味を持ってくれていた人、スタッフの顔ぶれも様々で、明日明後日の映画祭でぜひいい体験をしていただきたいと思っている(お客様ファーストではあるが、ボランティア団体でもあるし、自分たちが楽しいことは優先項目なのだ)。



今年の上映作品を1つ1つ紹介していくと途方もないのだが、当映画祭の柱であるシナリオ大賞(全国から映画シナリオを募集し映画化させる取り組み)に関連した映画の上映が主となる(そのシナリオ大賞は今回はお休みの年)。

11/18(土)

上原三由樹さんがプロデューサーを務めた『Yokosuka1953』(木川剛志)は、戦後混乱期に横須賀でハーフとして生まれたバーバラさんが、木川監督らの力を借りながら生き別れた母とその記憶を探すドキュメンタリー。どういう結末になるかわからない中で撮影は進んだと思われるが、歴史の裏付けも行い骨太な作品に仕上がっている(ナレーションを担当された津田寛治さんも来場)。

谷口雄一郎監督は、伊参での受賞後もコンスタントに映画を作り続けてきた。どの作品においても、何か一部が欠けているような、でも愛らしい人物が描かれている。今回上映する『あのこを忘れて』は、一時間程度の中編ながら、その集大成とも呼べる素晴らしい作品であると思う。ある病気の特効薬の副作用として「特定の人を忘れる」事が起きるというフィクションを前提としつつ、そこに描かれるのは恋愛とは?家族とは?という普遍的なテーマである。であっても、真顔になりきらずに、繊細な温かい目線で描き切っているところに谷口監督の作家性が満ち満ちている。

龍居由佳里さんは、長年シナリオ大賞の審査員を務めていただいている。過去の脚本作を見ると、「星の金貨」や「ピュア」(これ知らない人もいると思うけど、和久井映見さん主演の僕の思春期の金字塔ドラマでした)や映画化もされた「ストロベリーナイト」などドメジャーなドラマが続く。今回上映する『ロストケア』(前田哲監督)は、献身的な介護士が痴ほう症等の症状を抱える利用者を大量殺人していた、という衝撃的な内容。ただのサイコパスではなく、「介護に疲れ果てた家族や尊厳を失った(かどうかは誰にも判断できないことだが)老人を救うために行った」と語る容疑者に、長澤まさみさん演じる検事がいかに対等していけるかが描かれる。上映に併せ映画との違いを探るために原作小説も読んだが、非常に難しいテーマに挑んだ作品だと思う。

外山文治監督による新作『茶飲友達』は、単館上映に始まり全国まで上映を拡大、メジャー映画がずらりと並ぶ今年の報知映画賞において『作品賞』『監督賞』の2部門にノミネートもされた話題作である。その話題の大きな理由は、「高齢者による売春クラブ」という今までにない舞台設定にあると思うが、どんなものを見せられるのかと興味本位で鑑賞した人々は、そこに描かれる人間ドラマと、フィクションの枠を越えた高齢化社会の一面、そして「人が人らしく生きられるとはどういうことか」という問いと向き合うことになる。救いがないような世界において、それでも鑑賞後に温かさを感じるのは、外山節ということになるのだろう(この作品の鑑賞後の気持ちを大事にしてほしくて、今作は上映前トークとし(主演の岡本玲さんらも登壇)、お客様は上映後は静かに、映画祭恒例の校庭のキャンドルを見ながら帰っていただく流れとした)。



11/19(日)

藤谷東監督は、シナリオ大賞受賞作『在りし人』こそ、ある種わかりやすいストーリーで戦後の恋愛観を描いた作品であったが、その後は彼独自の個性的な映像作品を作ってきた(嬬恋で働く外国人の方のドキュメンタリーとか)。オール中之条ロケで撮影された本作『映画に群がる我ら』は、今回の上映ラインナップの中で一番とんがった映画かもしれない。短編映画を作るために集まった若者たちの数日間をドキュメンタリータッチで追いつつ、映画の構造としても時間が前後したり、ある程度の複雑さを持っている。万人受けする映画ではないが、演技なのか素なのかよくわからない間の中に、商業映画では味わえない独自な時間を感じることができる作品である。シナリオ大賞という「映画を作ること」を柱とする映画祭だからこそ、この作品を上映することを強く推した(上映後は、歴代シナリオ大賞受賞監督による「映画をつくること」についてのトークも予定)。

煙山夏美さんが脚本を務めた今映画祭で唯一のシナリオ大賞作品『冬子の夏』。煙山さんが書いた「成長しなそうな主人公が結局成長しない?物語」という繊細な世界観を、CMディレクターの金川慎一郎監督とそのスタッフがCMのような飽きさせない映像というルックで映画化したことで、唯一無二の作品になったように思う。昨年来場いただいた豊嶋花さん、長澤樹さんという演技派若手女優の演技も眩しい。伊参での上映後、東京でも上映をされ、今後もさらなる広がりを感じる、いつまでもフレッシュな作品である。

高橋名月監督による初商業映画『左様なら今晩は』。「シナリオ大賞関連監督が商業映画を撮った」ということはそれだけでも万歳三唱級の誉れなのだが(過去何人も排出しております。えへん)漫画原作×主演は乃木坂46メンバー、という実に商業映画らしいハードルを、「こんな風に越えたか、めっちゃ初々しいじゃん!」という好感を抱いた作品である(それは個人的な感想だが)。高橋監督が伊参で受賞した時、彼女は高校三年生。であるから今もまだお若いのだが、SNSを見るに連日映像業界を飛び回っている。高橋監督の作家性がどういうものかはまだ見え切れてはいないが「素直さとその素直さから抜け出すべくのあまのじゃく性」をこの商業映画からも感じることができた。

新海誠監督による過去の中編『秒速5センチメートル』。なぜ新海監督の過去作を伊参で?と思われる方は多数いると思うし、この作品のみ「伊参とは直接関係ない」作品である。上映理由は実はわかりやすくて『月とキャベツ』と同じ山崎まさよしさんの「one more time, one more chance」が主題歌に使われているから。今回4年ぶりの伊参開催となり、35mmフィルムによる『月とキャベツ』の上映も久しぶりに行われるにあたって「何かメモリアルなことをしたい」と思い企画した(新海監督の代表作『君の名は』は僕も見たあと半月くらい思い返していた好きな作品であるが、それ以前の『秒速~』を含む過去作の「暗さ」にこそ、新海作品の大事なものがあると思っている)。残念ながら新海監督は次回作制作に入ったということで来場セズではあるが、上映後は篠原監督らに登壇いただき「映画にとって主題歌とは?」という非常に楽しいテーマでトークを行う予定。

そして、4年ぶりの伊参開催の最後は、映画祭名物「スタッフ手作りのカレーのふるまい」を行い、寒い体育館の中でみんなでほくほくカレーを食べたのちに(ここ、数文字しか書かないけど伊参の大事な大事な部分なのです)、『月とキャベツ』のフィルム上映で映画祭を閉じる。

結局1つ1つ紹介してしまった。長文お付き合いいただきありがとうございます。暖冬ぎみなのかどうかはわからないけど、明日明後日「暖かい恰好」でぜひご来場ください。スタッフ一同、あなたのご来場を心よりお待ちしています。

伊参スタジオ映画祭HP

※昨年の映画祭のダイジェスト映像を、スタッフの長塚菜摘さんが撮影・編集してくれました。観てね!

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