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E92: 五目並べとオムライス

「お前たち、まだ勝負つかないの?」
さっきから、アズマが暇そうに向こうであくびをしている。


「うーん。すまん、良い勝負なんだよ!」

ミキオは大声で大嘘をついた。
ヨウコは呆れてため息をついた。


「ねえ、ねえ!アズマくんてさ、カッコいいよねー。手足長くてスラっとしてて」
もういい加減、五目並べに飽きてきたヨウコは、小声で関係ない話を始めた。ヨウコの視線は、そっとアズマに注がれる。ヨウコがふにゃふにゃになっていく。

「そうかぁ? 別にふつうだと思うけどな」
そんなヨウコの目の前にいたミキオは、大して気のない返事をする。

「いや、ちゃんと見てよ。カッコいいから!」
ヨウコは、なおも強調してくる。ミキオの心に火がつく。だんだんイライラしてきた。

「あいつの顔なんか、毎日見てるよ!こっちはバッテリー組んでんだから!」

「あ、そうか。いいなぁ、毎日アズマくんの球、受けられて…」

「キャッチーってそういうものだからな」

「役得よねー。……ところでねー」

「うん?」

「あたしたち、いつまで五目並べやるの? とっくに勝負ついてるのに、もう3回目なんだけど…」

「まぁ、まぁ、堅いこと言うなよ。…あのさぁ、お前、アズマのこと好きなの?」 

「付き合ってはいないけど、カッコいいなぁと思って」
また、目の前のヨウコがふにゃふにゃし始めた。


「じゃあ、ライバルってことか…」

「え?ライバルってどういうこと?」

ヨウコは、ちょっと鈍感なところがある。

鈍感?計算?
まぁ、そんなのどっちだっていいけれど…


高校1年
春からずっと、どんなに席替えしても、ミキオはヨウコの隣の席にいた。
「あら、すっごい偶然ね!」

ヨウコは、かなり鈍感なところがある。
鈍感? いや、どう考えても気づいてただろ?
まぁ、ほんとにどっちでだっていいけれど…


近くの席にいて、毎日おしゃべりをして、
2人はどんどん仲良くなっていった。
ヨウコが苦手な数学も、ミキオがすらすら教えてくれるし、何が相談すれば、ちゃんと答えてくれる。

コーラス部のヨウコ
野球部のミキオ

音楽室の窓から、ずっとアズマを見ていたはずなのに…

いつの頃からだろう?

視線はキャッチャーミットを被ったミキオに移った。


「数学を教えてもらってる時に、よく見たら、ミキオくん、めちゃめちゃ可愛い顔してたの!」

いやぁ、ほんとに、聞いてられないわ。


毎日毎日、話していた。
そのうち、ミキオはヨウコの家にやって来るようになった。

ヨウコの母が言ったのだ。
「あんたたち。ここに来て遊びなさい。その方がお母ちゃん、安心だわ」

「何が、安心なの?」
ヨウコは、かなりどん……
もうええわ!!笑笑

あのね、この人、とぼけてるだけだからね!

ミキオは毎日、ヨウコの家にやって来た。
ヨウコの父はずっとそっぽを向いていたが
ヨウコの母は、お菓子を出したり
手料理を、振る舞って、ミキオをもてなした。

「俺さ、いつか会社作るから」
「へぇ、アタシ旦那と子供連れて見に行くね!」

(旦那って誰かな?)ミキオは考えた
(それ誰との子よ?)ヨウコは考えた

「ねー、ミキオくん、これ食べられるかなぁ?おばちゃん作りすぎちゃって…」 
母が作った特大のオムライスを前に、
ヨウコは絶句した。

「お母ちゃん!ちょっと無理があるよ。ねーミキオくん、無理して食べなくてもいいからね」

「いただきます!」

もちろん、オムライスの皿は、あっという間にカラになった。

「ミキオくん、完食したよ…」
「ええ⁉️」
自分で作っておいて、ヨウコの母は、腰を抜かした。



……で、ばあちゃん、どんなオムライス作ったの?
高校生の時、再現してもらったことがある。

「源太の食べっぷりは、若い頃のお父さんそっくりやね!ま、お父さんの方が男前やったけどなぁ」

おいおい!…笑


祖母が亡くなる直前、
父はその耳元で約束した。
「お義母さん、今までありがとうございました。ヨウコのことは心配しないで。私が全力で守るから」

意識はなくても、祖母にはちゃんと聞こえていたはずだ。祖母はすこぶる耳が良かったから。


父は今も、その約束をしっかり守っている。
初めて机を並べたあの日から60年、
2人は今も変わらず、仲良しだ。

ちなみに、父は「それ以来」オムライスが好きだ。


あ、登場人物
本名にするわけにいかないので、
当然仮名でございます。ご容赦を。

読んでいただき、ありがとうございました。
【66日  の  7日目】

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