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2024年J2第8節ファジアーノ岡山-横浜FC「晴れの国に雨が降る」

試合の前週からこの日は雨予報。週間予報も外れることも多いので楽観的にいたのだが、月曜になっても雨マーク。もちろん前日もその予報はかわらないどころか、強くなる兆しまで。雨とわかって臨むアウェイほど面倒なことはない。私事ではあるが、試合後は宿泊せずそのままサンライズ瀬戸に乗り東京へとんぼ返りして、そのまま出社予定。着替え以外にも雨用の装備を抱えて向かうのは正直しんどいのだ。

止まるんかい 止まらんのかい

結局、雨は降り続いたままだった。それどころか試合前に一旦小康状態になったが、試合開始後はまた強い雨に。フィールドのコンディションは良くない。こうした時の戦いは、パスワークではなくゴリゴリと突進できる選手を置くことが、自分たちの戦術よりも大切だったりする。このスタジアムの芝の傾向としては、メインスタンド側のアウェイ寄り付近のコンディションが特に悪く、水が浮いてボールが止まる。

横浜にとってはそこは福森のサイド。岡山もここを狙ってボールを運ぼうとするのだが、この付近はボールが進まない。ボールが止まってそこに殺到する両チームの選手たち。肉弾戦ならユーリ・ララの独壇場。奪ったこぼれ球を明確に裏のスペースに落としにいく横浜は、1トップには新加入の高橋を配し、低い位置からつなぐのではなく明確に蹴りこんで彼を走らせた。高橋も猟犬の様にボールを追ってラインを下げさせ、岡山の苦し紛れのクリアを拾って横浜は攻撃を継続。
同じメインスタンド側でもホーム側はボールがアウェイ程止まる訳ではない。ボールを蹴って裏を取りに行く横浜には有利に、ボールを繋ごうとする岡山には不利なコンディションだった。そこで戦い方を変えない岡山は愚直ともいえるし柔軟性がないともいえる。大雨の中での戦い方を貫いた横浜に良い雨となった。

悪魔に魅入られた

前半10分、敵陣まだ浅いところで得たフリーキックを蹴るのは福森。後ろから流し込むように、岡山の頭越しに落としたボールに足を伸ばしたのは高橋。後ろから来るボールを起用にゴールに流し込み横浜が先制。土砂降りの雨の中で「誰?誰?」となる中、水浸しのフィールドに高橋が滑り込み喜びを露わにした。「カルロスだ!」新加入から2戦目で早速ゴールを射止めた。

0-1とリードしてもゲームの流れは変わらない。岡山はグレイソンが落とすボールが止まってしまいゲームメイクに苦しんだままだ。時折水はけのよい横浜の右サイドを攻略にかかるがここは山根がしっかりとブロック。

前半岡山のハイライトはコーナーキックに合わせた岡山・柳のヘディングはグレイソンに当たりゴールラインを割ったシーンだろうか。やられたと思ったが、事なきを得た。

前半31分には同じような位置からのフリーキックを蹴るのは福森。彼のキックに合わせたのは岩武。岩武がヘディングシュートを決めれば、前半終了間際の43分にはコーナーキックに合わせたのはユーリ。福森が左足で蹴ったボールはGKから遠ざかるように曲がり、GKブローダーセンが飛び出しにくい位置で合わせてゴール。前半だけで3得点を奪い、圧勝ペースとなる。

福森はセットプレーのキッカーで3アシスト。雨天の中でもその悪魔の左足で三度岡山に魔法をかけたのだった。競り合っても前に出る、裏に蹴る。雨対策の狙いが的中した。

横浜にとっての3点差

横浜にとって3点差は特別な数字であるのかもしれない。直近で言えば2022年のアウェイ群馬戦は前半で3-0だったが後半一気に追いつかれてしまい次の試合から連敗が始まる悪夢の始まりの試合や、前半で一時は3点先行するも後半アディショナルタイムの2点含めて計4失点を喫し3-4で逆転負けし試合後の挨拶もなく審判団が引き上げる荒れた2010年のホームの甲府戦すら記憶に新しい。よく「2点差は危険なスコア」など言われるが、横浜にとって2点差はおろか3点差すら危険なスコアである。3点を先行する事がサッカー自体少ない上に、無論横浜も3点先行する事はシーズンでもごくわずか。それを後半追いつかれるのだから負の記憶は残りやすいのだろう。

わざわざ平日水曜に岡山に来る濃いサポーターはそれを知ってるのだろう。ハーフタイムでもその当時の事を口に出して引き締めていた。

そして後半開始とともに4枚替えの岡山。後半になって戦い方を変更し、前半の横浜のようにロングボールも、そして多分前半は殆どしていなかったロングスローも使ってシンプルに前線にボールを入れて横浜を押し込む岡山。また、後半は少し天候が回復し前半程酷い雨でなくなったことで岡山が左右を広く使って攻撃を作り始めた事も横浜には悪い流れとなった。

岡山・ガブリエル・シャビエルのスキルは高く彼がアクセントになってゲームは岡山が支配する。またシュートの意識も高く、雨の日はとりあえず打てば跳ね返りや人もボールも滑る事で何か起きるかもという雨の日独特の戦いにアジャストし始めた。

後半27分には岡山・田上を中村がペナルティエリア内で倒してPKを献上。これを決められてしまう。横浜は決められたところで、11人の選手全員がペナルティエリアで集まり意思統一。4点目を狙うのか、このまま守りに入るのか。多分今シーズン初めてのシーンだったが、選手たちが、フィールドの上で自分たちで考えて一つにしていく良いシーンだった。

四方田監督は、失点直後にカプリーニと村田を入れる。メッセージは堅守速攻だろう。シャドーの位置の2選手を取り換えてボールキープより単独突破で、チャンスがあればゴールになくてもカウンターで時間を消費できれば良い。岡山の決定機もあったが、GK市川のスーパーセーブで凌いだり、J1なら決められていたであろうシュートも枠を逸れたりと助かったシーンもあった。

最終的には岡山の方がシュートが多くなる程攻め立てられたが、そのまま逃げ切り1-3で横浜は勝利。首位岡山に土を付けた。

日いずる処へ

4月3日、岡山市に降った雨の量は、気象庁の調査では52.5ミリと2024年で一日で最も降水量が多かった特異日のようだ。横浜はそうした試合でも割り切ってゲームを進められたのがよかった。

腹をくくるのはサポーターも同じ。自分だけでなく雨のゲームと知って平日夜にアウェイに駆けつけるサポーターはどこかイカれてる。コールリーダーは「仕事を捨てて、家庭を捨てて集まったみなさん」とジョークを飛ばしていたが、一種真でもある。何かを得るには何かを捨てなければならない時が来る。2024年その一つがこの試合かもしれない。

試合後は慌てて田町温泉に浸かり、さっぱりしてサンライズに乗り込む予定が山陽本線が人身事故で遅延。運転再開が1時間後で、そこから動き出したので結局2時間遅延。それでもサンライズ瀬戸に乗って帰るのは気分が良い。勝ったことだけではない。「サンライズ」まさしく大雨から抜け出して、日出ずるところに向かうのだ。(仕事だけど。)

そう言えば、左足のキックで3アシストした福森。名は晃斗。「晃」は日の光の意。横浜の夜明けは彼の左足に宿っていたのかもしれない。
今シーズンからリーグは38節。実は既にシーズンの1/5位は消化している。順位は4位で首位岡山とは勝ち点差3。でも遠くに感じる。栃木や仙台に負けて今一つ調子が出てこないが、ここからしっかりと頂点に登っていきたい。日はまた登る。やっとJ1とJ2のエレベーターチームになりかけている横浜。3度あるなら4度ある。また登ってみせる。


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