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2024JリーグYBCルヴァンカップ2回戦ファジアーノ岡山-横浜FC「ふぞろいのうちの子たち」

中野が蹴ったPKはゴール左隅に吸い込まれていった。GK永井の周りに広がる歓喜の輪。(永井を弄りすぎて若干苛立たせた後輩もいたようだが。)横浜は久しぶりの120分の死闘を制して3回戦に進むことになった。平日夜シティライトスタジアムのGATE7に集った勇者たちも勝ち鬨をあげた。試合が終わって15分程で照明を落とし始めたので「電気つけろ!電気つけろ!」と。

4月3日つい3週間前に対戦した両チームはメンバーを大幅に変更。ここ2週間で5試合をこなすハードな日程を考えれば当たり前。J1昇格が両チームの目標でありつつ、トーナメント戦で戦力の底上げ・発掘をしてゴールデンウィーク中の連戦のみならずその先の戦いも見据えての絶妙な起用が必要になる。横浜はここ数戦フル出場していない選手を中心にオーダーを組む。


好事魔多し

先制パンチをコンフォンのミドルシュートで浴びせた横浜は、右サイドの村田とのコンビで切り崩しを図る。村田は最近左のウィングバックで出場しているが、縦への侵入の仕方を見ていると右の方が良い。ただ、運動量が豊富で守備を頑張れる山根を左に回してまで右に彼を置けるか、それは四方田監督の胆力が問われるだろう。

中盤では、小倉と和田のコンビネーションが良い。長崎戦の観戦記の中で「真面目」と書いたが小倉もプレーは非常に洗練されていてクレバーだ。10歳近く年上の和田が前に出るとススッとスペースを埋めたり、逆に和田も小倉がやりやすいように何度も立ち位置を修正している。岡山の田中やルカオは脅威だが、序盤こそ危ないシーンもあったが徐々にセカンドボールを奪いはじめ横浜が良い形をしている。2人は非常に似たタイプで、柔軟性がある。縦につけるかと思えば、スッと一回下げてポジションを取ってもう一度受けなおしてフリーの味方を探す。裏に蹴るアクションを見せて相手のラインが警戒すれば、後ろの味方の上がりを促して自分は落ちてみたりと、順調に思えた。

前半15分岡山・仙波にドリブルでかき回された後に、竹内からのクロスを許す。裏に抜けた田中がダイレクトボレーで横浜ゴールに叩き込んだ。まずまず良い形でゲームを進めていた横浜にとってはエアポケットに落ちたような失点だった。

絶望と希望と

先制点を許しても、そこでガクンと落ちないのは幸いだが、横浜はボールを収められない。櫻川は次のプレーの予測が甘いので、ここに転がってくるのではないか、収める前にどこに散らすと効果的なのかが不十分に見えた。走れない、追えない、収められない。横浜のサポーターでも、応援はするけど不満の声はどうしても漏れる。「ソロモン何やってんだ」「ソロモンやべーぞ」「収まらない。。。」これらの声は厳しいが現実でもある。長身で幅もありまだ若い。可能性があるからこそ期待している分、厳しい声も出てしまう。

前半42分、小倉の縦パスに抜け出すソロモン。左に流れたボールなので身体を入れ替えてトラップすると、岡山・柳と対面する。プレスを受けると突破できないので戻してしまう。「やっぱり(ソロモンはダメ)か。。。」と脳裏を過ったが、その言葉が口から出るのを遮るようにそのパスを小倉がダイレクトに右足一閃するとボールは鮮やかに岡山ゴールネットを揺らした。小倉のミドルシュートはプロ初ゴールとなる素晴らしい弾道だったが、それ以上に「ソロモンのアシスト!」に沸く横浜ゴール裏だった。

後半に入っても櫻川の覚醒は止まらない。後半10分、和田のミドルシュートが相手選手に当たってこぼれたところに、ユニフォームを引っ張られながらもシュートを蹴りこみ逆転弾。これで1ゴール1アシスト。サポーターの掌をクルクルとひっくり返すような活躍。パリ五輪をかけて彼と同世代の選手たちがカタールで死闘を繰り広げているが、彼も自身のキャリアと戦わなくてはならない。ゴールを挙げる事は、横浜の昇格の希望でもあり、自身の出世への希望にもなる。

その櫻川のゴールからたった5分後に、今度は絶望を味わう。この日先発したDF佐藤は特別指定選手ながら2026シーズンに加入も決定しているいわば逸材。このゲームでも岡山・ルカオに堂々とした競り合いを見せたかと思えば、自分でボールを運ぶ積極性を見せたりと出色の出来。
そんな彼にプロの洗礼。マークする岡山・木村に裏のスペースを陥れられ、追いすがったものの独走を許してゴールを決められてしまう。試合を通じて概ね良い出来だったが、周囲にボールがない時のポジショニングは集中が欠けていたのか癖なのかやや曖昧なところが前半からあったのも事実。隙を見せると失点に直結するプロの世界をこのルヴァンで感じておいてよかったと思う。

ただ、ゲームとしてはアウェイで追いつかれるあまりよくない展開。

天国と地獄と

岡山がゴールを挙げた木村を始め、輪笠、本山、岩渕と主戦級を続々と投入すれば、横浜もそれに呼応するように三田、カプリーニ、ボニフェイスを出場させて強度を上げる。カップ戦ではあるが、双方リーグへの影響も考えつつ勝利への意欲を見せる。
ボニフェイスはリーグ戦の次節秋田戦が累積警告で出場停止の為、このゲームに出ても次のゲームまでは1週間以上空く。長崎戦から中2日での試合となり時間限定での投入だろう。またルカオが下がらない事で横浜の守備陣に消耗が見られ始めたこともある。ボニフェイスの投入で一気にゲームが締まった。橋本や佐藤のお守りをしているボニフェイスが心強い。

そのボニフェイスが失点の起点になってしまったのは延長前半3分。岡山にボールを運ばれ、スルーパスはボニフェイスがカットしに足を伸ばすが、そのカットが小さくスペースにボールが出てしまう。岡山・田中がそこに詰めて岡山が逆転。狙いは当たっているがそれで終わってくれないのがサッカー。

「まだ終わってないぞ」そんな声が聞こえた。大卒1年目や特別指定、最終的には2種登録の選手も起用しての総力戦。橋本は左からガンガンクロスを入れる。三田と中野は中盤でゲームをコントロールしている。出場機会の少ない選手が必死にゴールをこじあけようとしている。こうした言い方は失礼も千万だが、不格好でもここから這い上がらないといけない。

岡山の背番号10が活躍すれば、横浜の背番号10も輝く。延長後半2分。岡山のペナルティエリア付近でクロスを入れては跳ね返されてを繰り返していた。岩武がヘディングで前線に送ると、待っていたカプリーニがボレーシュート。これが岡山のゴールネットを揺らして3-3と追いついた。

岡山の背番号10田中雄大は彼のゴールの直後に足を攣って交代するし、カプリーニも週末の秋田戦が控えていたが、計60分近く起用することになった。カップ戦だからもういいよではなく、最後まで意地と意地をぶつけた良い戦いとなった。

120分戦っても決着つかずPK戦に突入。先攻の横浜は全員が決めたのに対し、GK永井が岡山・輪笠のキックを止めて勝負あり。
PK戦は白黒つくし、基本的にキッカーとGKとゴールポストやクロスバー以外の要素が殆ど入りこまないので、残酷ではあるがGKにしてみたら最大の見せ所でもある。

粒ぞろいか不ぞろいか

展開も追いついては逆転され、突き放しては追いつかれる一進一退の攻防で、やむなく両チームとも主力級を並べていくことになった。それが両チームの選手の力を良いところまで引き出せたと思っている。
リーグ戦で出場機会が限られている選手たちはどこか欠けていると判断されているから出られない。それは試合を見ればわかる。でも、人は不完全だから完全なものを求めたくなる。観客も選手も。そこに至る過程は真理だから美しい。

きっとまだまだ不揃いの選手たちである。だから、それが粒ぞろいと呼べる日が来るのを楽しみにしている。


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